2023年02月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

長野 青蘭
紙面堂々。気持ちの入った重厚感溢れる作。波勢大いに良し。
平垣 雅敏
鋭利な刃物で切り込んだ様な起筆の冴えあり。
天野 恵
密度のある洗練された線が見事。裏面の墨色も美しい。
廣瀬 錦流
隋代楷書を伸びやかに表現。構造に安定感あり。
【選出所感】
新春の書作。「寿を献じ万歳を符す、よろこびを献じて万年もと祝う」
一年の最初を飾る、気持ちが引き締まった作品群でした。画数が多い字の為に、分間の乱れがあってはなりません。特に隷書と楷書においては、均整の美が必要となりますので、その出来不出来が作品の優劣に影響してきます、選出作品は書体こそ異なるものの、分間の統一がなされた優秀作と言えましょう。曄真さん、章子さん、順子さん、紫雲さん、藍泉さんの作品も甲乙つけ難い作品でした。迷ったときは子供にも裏を見ようねと言います。その心は、裏が黒いほど入木の精神が発揮されているのです。墨をしっかり含んだ毛先からしたたるような感じで、紙面に向かったことによる、黒々とした線は、周りのくっきりとした白を生みます。今回の審査でも最終的には、墨の入った作品に軍配が上がりました。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

杉山 麻友美
一点一画に留意し、落ち着きのある作品とした。
山川 清玄
柔和な線を生かした温かみのある作。個性を尊重しよう
【選出所感】
先月号のこのクラスの方の選出所感の「今後の反省点として、起筆と収筆の角度が同じになると更に美しい線になると思います。簡単に言いますと、起筆は三角なのに、収筆は丸い形でおわることのないようにしましょう。」とアドバイスしましたが、今回もやはり、右下にお団子のできてしまった作品を多く拝見しました。残念です。
親指で力を入れるのではなく、筆管を絞るようにして、単鉤法の方は中指を、双鉤法の方は人差し指を筆管に当て返すように、つまり、やや右上に返すようなつもりで書いてみましょう。横画の収筆で画の右下まで釣り上げるようにして書いても良いと思います。毛先の上下運動が出来るようになると楷書だけでなく、行書の伸びやかな線の運びになります。お団子を作らず、楷書の収筆を整え、起筆と収筆の角度が10時半の方向になるといいですね。筆を杖にしてはいけません。

[岡田明洋]

条幅部

内海 理名
柔和な線で過渡期の文字を生き生きと表現した。
長野 青蘭
やや線質が重かったか?横画にもっとリズムを!
永嶋 妙漣
北魏楷書の重厚なタッチが魅力。期で中心がずれた。
藤田 紫雲
草隷を集字しての意欲作。大小、肥痩を考えよう。
【選出所感】
「萬歳延年を期す」と寅年の師走に「秦隷」から集字して、「四季の書」条幅部の範書にしました。長寿を祈って万歳、生涯を楽しく生きようという思いを込めて、私の一番好きな篆書から隷書へと移行する文字で書いたのです。
長年施設に入っていた母のなくなったのを聞いたのが先月の十五日。享年九十四歳でした。お別れの言葉を読んだ私の長女。「お母さんが書道塾をやっている間、面倒を見てくれたおばあちゃんの大きなおむすびの味は忘れられません。九州に一緒に出掛けたときに、おばあちゃんにおねだりして買ってもらった「おしばなシール」は今も大切に持っているよ」という娘の中には、きちんとおばあちゃんは生きています。何も出来ていない親不孝者が母の冥福を祈るには、みなさんに「萬歳延年を期す」を書いてもらうしかない。と思いました。そんな思いをこめて書いた各体範書。みなさんの好みにあわせて書いてもらった中から、それぞれ一体ずつを選出させていただきました。

[岡田明洋]

臨書部

市川 章子
スックとした立ち姿。優美な秀作。遅速の変化を加えよう。
鈴木 藍泉
縦画の起筆が目を見張る。更に伸びを追求しよう。
【選出所感】
皇甫誕碑は九成宮醴泉銘と比べますと、周りの同じ欧陽詢の筆にしても、力強さが印象的な作品かと思います。「楷書の極則」と言われた九成宮を習うよりは、自然力強さが加味されます。そうは言っても今回は、力を入れすぎた作品が目立ったように思われます。
「淑」の最後の縦画の懸針の見事な立ち姿。フラミンゴのような長脚と言えましょう。「世」の横画に対する縦画三本の比率は1:1:1ですね。それほど求心性が強いのです。「艱」の偏の9画目の横画の左への張り出し。一行目はウムッと感嘆する表現ばかりです。二行目は首をかしげる点もあります。「虞」の最後から三画目の横画は、左サイドが長いですね。正統な唐楷なら右サイドを長くしないといけませんね。「忠」上下を接筆させて重心の低い字形になっています。これなどは、美しい造型とは思えません。「臣」も比較的扁平に書かれて隋の楷書のようです。(私の範書の方が、先入観にとらわれて、スマートな書き振りでした。)自分の鑑賞眼を確かなものとして臨書していきましょう。

[岡田明洋]

随意部

藤田 紫雲
潤渇の変化を表現した居延後漢簡の臨書。
小田 一洗
起筆の扱いに優れた筆遣い。墨も良く入っている。
山田 淥苑
左払いに気満の要素が見える。更にスケールを大きく!
鈴木 藍泉
普段の行書主体の学書に、隷書が加味された。
【選出所感】
私のところに通ってきてくれているお弟子さんには、随意部で、墨場必携を指ししめして「好きな語句、書きたい語句を選んでください。」とお声掛けします。通い始めて、半年くらいたったお弟子さんです。適当に書けるようになったとは言うものの、私の問いに驚きの声をあげます。「書けません。」とはっきり言う方もいらっしゃいます。それでも「上手に書けなくても良いから、好きな言葉を選んで書きましょう。」と言うとまんざらでもありません。ちゃんと決めることも出来るし、書くこともできます。
毛筆の弾力を自分が思った通りに動かすことはなかなか容易ではありません。それでも弾みを持った毛筆は生命力が宿るのです。基本的には、墨をたっぷりつけて豊かな線を求めるように言いますが、枯れた線もあります。優しい線もあります。無いといっても実はちゃんと自分なりの個性があるのです。緊張しないで、先ずは語句を選んで楽しんで毛先を動かしてみてください。

[岡田明洋]

実用書部

市川 章子
安定感のある運筆。特に蘭亭序の細字良し。和歌懐を広く。
宮﨑 蓮㳺
ボールペンを用いての作。滑らかなタッチが良い。
【選出所感】
コロナ禍になって、机間巡視も思うようにならないのが現状です。私も「お習字体操」と称する指の接触が必要となる持ち方運動をしたいのですが、ままなりません。飛沫対策用のパーテーションの中から、生徒の書く姿勢を見ているのですが、子どもも大人も両肩が水平になっていない方がいます。おへその下の丹田に力を入れて、背筋をしっかり伸ばしたいものです。机の上に上半身をかぶせるようにしていたり、頭を机に覆いかぶさるようにしていては、のびやかな線は引けません。ピアノを弾いている方の姿を思い浮かべても良いでしょう。足を伸ばしたり、クロスさせるのもダメです。小学一年生の「両足ぺったんこ」をしっかり守りましょう。まずは正しく美しい姿勢作りから始まります。
私の教室での合言葉は、「姿勢・持ち方・書き順に注意しよう」ですが、これは私だけでなく、すべての先生が生徒さんに言っている言葉だと思います。
今回から具体的なペン字方法について述べていきたいと思います。

[岡田明洋]