2021年4月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

長野 天暁
野趣溢れる書き振りだ。起筆の安定感は群を抜いている。
中山 櫻徑
結体上の疎密、線の遅速。これらの変化が見事です。
大村 紅仁乃
やや縦長のフォルムと縦画の線の伸びが調和した作。
平野 衣里子
135文字で墨を入れ、作品を立体的に表現した。
【選出所感】
上段二字ずつ、つまり「瑞烟」と「福壽」。これに対して、「呈」の比率を上手に表現するのが大変だったようです。「呈」の字幅が狭かったものや右上がり過ぎたもの、墨量が少なかったものはどの書体であっても上位には置けませんでした。私は半紙の作品では、1文字目、3文字目、5文字目で墨を入れるように言います。そうすると2文字目、4文字目がかすれて、潤渇の変化が出て、半紙作品といえども立体的になるからです。真白い紙に”書くぞ”という気概で墨を入れます。ですから1文字目が一番強く、次は3文字目です。ここに墨が入っていれば、左上の4文字目と好対照になります。
行草が多く選ばれたのは、上の四字の一字ごとの行書や草書の美しい結体が目を引いたのだと思います。左右、上下の構造の中に墨量の変化があり、空間の疎密の相違やスピードの緩急がついていると一字として素晴らしく見えます。

漢字規定部(特級以下)

河合 紀子
柔和な線と安定感のある配字が上手く調和した。
植原 直子
一本の線を大切に、起・送・収筆をしっかりととらえた。
【選出所感】
先月拝見した春光会の級の皆さんの作品と比べればグーンと伸長したと思います。上下を活用することによって、字形が縦長になってきました。四字の作品ですと、字形はスックと立っていると良く見えます。そして、紀子さん・直子さんの二点を裏から見ても、変な墨だまりはありません。一本の線が、起筆で黒い点、収筆で黒い点などという作品は無用な力が入っていると言わざるを得ません。送筆がグレー、もしくは白っぽい線というのは感心しません。キセル状態の線ではなく、裏から見ても黒い線が存在感を持って引けていると良いですね。入木の精神が大切です。
※入木とは、書聖王羲之の書は木に墨のしみ入ること三分なりしという故事(一分とは3.03ミリ)

条幅部

山田 淥苑
筆力雄渾。墨痕鮮やかな作。渇筆の妙を研究しよう。
伏見 桃苑
米元章をご自分の眼でとらえた秀作。文字の大小研究を!
佐生 麗華
範書を学んでの力作。筆圧の変化が出ると更によくなる。
萩尾 怜奈
半切に14文字の気脈を表現した。花、影の字形に留意
【選出所感】
今月も引き続き謙慎書道会展の縮小版を書いてくれた方がいました。とても良い傾向だと思います。雅敏さん、墨量は豊富なのですが、時々縦長になったり、小さすぎたりして統一感が足りないのが残念でした。青蘭さん、やや筆圧が強すぎるのか線ががさついて見えました。もう少し横画を力まず伸びのあるものにしましょう。3月15日に昇段試験の課題を発信しました。是非早めに取り組んで4月15日締めの条幅部に出品ください。なるべく大勢の方に合格いただけるように指導します。大きな紙に書けば、筆圧不足、行の立ち方、墨量の寡多など、注意する箇所が如実に露呈します。
一枕の鳥聲は、下半身が貧弱にならないことと、獨吟中が左に流れないように心掛けてください。やや字は大きめに書くと良いと思います。
春眠北魏楷書は風雨聲を立派に。そして知多少が弱くならない様に。特に楷書体は知多少を横広にする。行草は一字の中の扁平さや高さの違いを大胆にとる。墨入れも同様です。草書は気脈を大切にして、誤字を書かないように最大限努力する。隷書は木簡を基調にしているので、横画の伸びを表現する。知多少要注意。

臨書部

鈴木 藍泉
起筆から送筆部にかけての線の充実感見事です。
宮﨑 蓮
穂先の用い方、特に縦画の入筆の鋭さが目を引く。
【選出所感】
まず、今回で皇甫誕碑の臨書は終わります。反応として難しかったという声が多くありました。私としては、欧陽詢の第一の作品といわれる九成宮醴泉銘を扱わず、皇甫誕碑にしたのは、余りに優れた均整の美より、思い切りのよい伸びやかな造形の方が楽なのではないかという思いでしたが、やはり厳しいスタイルだったのでしょう。
それでもここに選ばれた2点は、鋭利な入筆と伸びやかな線が見事で、3回の臨書で確実に何かを身につけてくれたのではないかと思います。
次点となるのが淥苑さん。普段は北魏楷書をされていますが、伸びやかな線で初唐の清清しさを表現されていました。善三郎さんの丹念な書き振りも良かったのですが、もう少し厳しい打ち込みがあればスマホ版となれたでしょう。是非ご自身で写真を撮られて、その印象から新たな表現を加味してみてください。

随意部

 

藤田 紫雲
穂先の紙面を突く強さと弾力を生かした充実した送筆。
瀧 芳泉
黄山谷の蔵鋒と向勢を上手に表現した。渇筆も生きた。
内海 理名
起筆における筆の立て方が見事。左払いも力が発揮された。
小柳 奈摘
王洽の自然体の行書をゆったりと伸びやかに表現した。
【選出所感】
お約通り、スマホ版を4点に拡大しました。実はこの部の底上げが、手習いではなく自己表現へと質を変えることになります。先月号で述べたように範書を見ての出会いでも構いません。先生からその臨書作品(古典)との相性を見て頂いても良いので、新たな出会いを求めてみましょう。実は私はこの作業が好きなのです。この方にこの古典を勉強してもらったらどうかな?などとひらめいてそれが上手くいったときは、いい仲人役ができたと内心とても喜ぶのです。理名さんは篆書隷書が好きな子です。中鋒の強靭な線を持ち合わせているので、北魏楷書はどうだろうと提示しました。奈摘さんも高校生。興福寺断碑が好きという子。ちょうど教室に興福寺断碑がなかったので王洽の行書を提示しました。なんと穏やかな線がマッチしました。

実用書部

長野 青蘭
規範性の高い蘭亭序の臨書と伸びのある線のペン字が良い。
大村 紅仁乃
ペン字の懐の広さが目を引く。毛筆は毛先の観察をしよう。
【選出所感】
前回アドバイスしたことを高校生にやってもらいました。まず鉛筆で書いてみて、その上につけペンで添削するつもりでなぞり書き、というより、修正書きをしてみる、という方法ですね。小学校から習っている子ですが、しっかりと自己批正できていました。「消しゴムで鉛筆を消して出しちゃおうか」などと冗談も言いましたが、それほど、上手に修正されているのです。もちろん出品はできませんが、自分の作品を客観的に直せるというので、鑑賞眼は一回ごとに相当つくと思われます。
ペンになれない方は、文字が小さく、字と字の間が広すぎの形になっています。一行に17本の横線が走っています。その線を利用して、お手本と見比べてみてください。そして縦線の中心線も利用すると良いですね。あらゆるチェック法を考えましょう。