2025年02月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

中山 櫻徑
運筆自在な書き振り。線質、墨量の変化も見事。
竹本 萩雲
慎重な運筆だが、若さを表現してもっと筆を大胆に用いよ。
小野 幸穂
起筆の鋭利さを追及している。これに研きをかけよう!
奥田 友美
いつもより求心性が表現された。長の字少し大きく。
久野 喜代
落ち着いた作。前者のような疎密も考慮して書こう。
片瀬 仁美
筆圧の変化に注意した作となった。落款の大きさも良し。
勝見 祐子
のびやかな横画が目を引く。これに筆圧をプラスされたい。
遠藤 衣月
気持ちの良い素直な入筆の楷書作品です。更に力強さを!
【選出所感】
今月はまた、楷書草書と様々な書体での出品となりました。その裏では、楷・隷という正式書体と行・草という略式書体から一書体ずつ選んで書いてくださっていることだと思います。この四つの書体を学べば二千年以上の文字の歴史の中を散歩していることになりますよ。南・山・長は象形文字です。山は明らかに山のかたちをしていますね。このように、そのものをかたどって作った漢字を象形文字といいます。”南”は「南と呼ばれる楽器の象形。南は古く苗族が用いた楽器で懸繋(けんけい)してその上面を鼓(う)つ。苗族は中国の南方にあったので南(みなみ)を示す語となりました。”長”は「長髪の人の形。氏族の長老を意味する””長髪を垂れた人の側身形に作り”、”長髪は長老の人のみに許されるので長老の象徴とされた。”
※””内の文章は白川静博士の字統によります。
文字を書くのみではなく、このような漢字の意味を知っていただくのも書の豊かな表現の糧となると思います。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

島口 訓枝
流れを大切にして書きました。名前の位置、大きさ考えて。
西 宏美
筆の運びが素直で紙面に対する大きさも良い。この調子!
【選出所感】
天も象形文字で”大は人の正面形。その上に頭部を示す円を加えた形で、人の巓頂(てんちょう)を示す”この説は白川静博士が唱えたもので、その以前は”大(人)とその上の一(天空)を表わす”とされていました。始皇帝の時代に横一棒となったので、人の上の天空というように解釈されていたものを、白川先生は金文をすべてトレースされて、旧説を覆しました。文字学もこのように、日々進歩しているのです。
さて、級の方はいずれの書体であっても、まだまだ早書きをされています。一枚書いたら裏をのぞいてみてください。起筆と終筆に黒い点がのこり、その間の送筆部がグレー、つまり、墨が入っていない作品が目立ちます。書の聖人、王義之の書は木に墨がしみ入ること三分(さんぶ・約9センチ)なりしという故事があります。木9センチは無理ですが、紙裏真っ黒はめざしましょう。

[岡田明洋]

条幅部

永嶋 妙漣
気持ちの充実ぶちが窺える作。更に起筆の方筆を求めよう。
鈴木 藍泉
温和な米芾を規範にした行書。時に打楽器的な用筆を。
長野 青蘭
紙に厳しさが窺える。瑞の字に墨量を。墨入れの効果を!
藤田 紫雲
これもやや墨量の変化が乏しいか。渇筆も考えよう。
【選出所感】
一年に一度、一月の範書は小字数を課題にしようと思い立ち、2023年「萬載期延年」2024年「時雍道泰」2025年「春融瑞気浮」と書き進んできました。
この三年間で、妙連さんと紫雲さんが連続で掲載となりました。藍泉さんと、青蘭さんが2回です。それぞれ、妙連さんは北魏楷書調、紫雲さんは居延後漢簡調、藍泉さんは米芾調、青蘭さんは、漢碑八分調で一途にそれぞれの好みに合った古典作品をベースに出品してくれました。
半切に四・五文字という筆もいつもより大きなものを用い、墨量も多くしなければなりません。そして大きな腕の振り回しと筆力が必要となってきます。それ以上に紙に向かう気宇壮大な気持ちが大切です。
この四名の方を追う力を有する人も何人かいらっしゃいますが、隷書で表現するのは変化が少ない分大変なようです。それでも好きな書体に挑戦し続けてください。

[岡田明洋]

臨書部

天野 恵
いつもながらの臨書優秀作。臨書から創作へ更に飛躍を!
市川 章子
気骨のある書き振りですが、もう少し柔和な線を求めたい。
【選出所感】
「激」の書き順に明確な筆順を示すことなく、「私は下部を横画・ハネ・ハライの順で書きました」と一応は述べたものの、文末には、「皆さんが感じたままを臨書してくれたらよいのだと思います。と結んだものですから、皆さんの出書も”横画・ハライ・ハネ”の方や、”横画・ハネの画の頭を出したもの・ハライ”つまり方の草書の書き方をしたものなど三種類ほどの書き方がありました。
そこで新書源を開くと「八柱第三本」が載っていました。こちらを見るとやはり”横画・ハネ・ハライ”でよいのかなと思いましたが、手元の今井凌雪先生が書かれた蘭亭序の折帖の印刷物がありましたので、見てみると”横画・ハネ・ハネ”となっていました。今井先生が書かれたものが何によるのか説明する文章はありませんが、どうも「八柱第三本」の臨書のように思われます。今井先生ほどの大家でさえ、このように判断されたのですから、本当に臨書とは難しいものです。

[岡田明洋]

随意部

長野 天暁
墨痕鮮やかな臨書作。驎の字更に雄大に。そして墨量も。
廣瀬 錦流
側筆を巧みに用いた書譜の臨書。評の字一考。
市川 章子
エネルギッシュな賀蘭汗の臨書。運筆法を考えよう。
増田 文子
興福寺断碑を素直に臨書した。全臨するつもりでやろう。
【選出所感】
平吉さんが、呉譲之の小篆の臨書を出品してくれました。参考手本の望月碧雲先生が書いていたものですが、新しい領域に目を向けてくれたことをうれしく思います。静的な中鋒の線を追及しなければなりません。転折部が曲線になる点が表現しづらいですね。篆刻の小林斗盦先生が蟲が小篆で書けるようになれば一人前だとおっしゃっていました。研鑽を願います。
小篆は、縦横3:2の比率ですから、当然半紙に四文字ということになります。実は私の社中では、行書・唐代楷書の臨書においては四文字を推奨しています。臨書の蘭亭序もあえて四文字で取り組んでいるのは、一字ごとの造形をきちんと把握することが大切だと思うからです。文字ごとのつながりは、字間が広がるのでうまくいかないかもしれませんが、分析する力は圧倒的につくはずです。隷書や北魏楷書は、半紙を横にして習っても同様の効果があると思います。

[岡田明洋]

実用書部

鈴木 藍泉
力むことなく流麗な運筆が見事です。細字もう少し扁平に。
市川 章子
ペン字にリズムが生じてきた。細字に肥痩をつけたい。
【選出所感】
今回は俣以外すべての地名が漢字単体で書かれていたので、中心が通り書き易かったのでしょう。中学生でも述べているようにせぼね(中心線)を意識し、それを活用すれば卒なく書き進めることができるでしょう。罫線がない白い紙に書く時も中心線を思い描いて書くことにより、背骨の通った行立が出来ます。ただ、毛筆楷書は唐代楷書を範としていますので、中心線より右側の線を長く引き、空間もその領域を広くするように構築します。反対にペン字の地名は、王羲之の行書をベースにしていますので、中心線より左側の線を長く引き、左上部の空間を広くするような構えを取ります。
和歌は滑らかな線で歌うような気持ちで下に流れて、新年を迎えた喜びが表現されていたように思えます。しかし、少しペン先を使い古したような方もいますので、新年を境に新しいものを求めてはどうでしょう。

[岡田明洋]