2023年04月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

萩尾 惺雲
筆力雄渾。起筆・送筆気満たり。終筆を一考すべし。
永嶋 妙漣
線に強弱、肥痩あり。余白も生きた秀作。
和田 平吉
静かなる線。欧法を得て、更に発展されることを願います。
大場 愛
やや起筆が優しいが、おおらかなる北魏書でよし。
【選出所感】
紙面の右上の三文字が、単体の「東・皇・色」であり、右下の三角形に、「瑞・新」、名前が配字される字面です。どうしても下部のほうに目が行きやすい作品となってしまいます。このような時は、一字目に思い切り墨をつけることが大切です。それは、どの書体であっても効果があります。偏と旁のある複体の漢字は、当然、偏に墨のにじみが旁にかすれやスピード感が表現されていますが、単体の文字はどうしても単調になってしまいます。そうなるとやはり、線質を鍛えるしかありません。毛先を用いることはもちろん大切なことですが、腰まで入った、Sの字の状態にならないとどうしても強い線にはなれません。そんな時は、”気満”とか”入木”という書道用語を唱えてながら走り書きを避けることが大切です。特に八分隷書で書かれた方は、起筆のみに頼っていたようで、送筆部での墨の入れ方・筆力が不足していたように思われます。その点、行書作品は、裏面まで墨が良く入っていたように思われます。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

金井 万由美
スケールの大きな運筆が見事。豊・楽の二字大いによし。
石山 智穂
落ち着きのある線、分間余白もしっかりできました。
【選出所感】
級の方も嫌なといいますか、大変な字面だったと言って良いかと思います。上部二字が画数の少ない「年」と「人」。下部は「豊」と「楽」ですから、上部と下部でに分割されてしまうような図柄となってしまいます。比較的力作が多かったのは、「年」で墨が良く入っていたからでしょう。中学二・三年生の毛筆の部の選出所感に書いたように、画数の多い字が対角線になると紙面がまとまります。
難しい課題でしたが、楷書は唐代楷書を範として、入筆と分間布白に留意しての秀作ぞろいでした。行書の方も、縦画に力をみなぎらせて伸びやかな表現をされていました。
更に嬉しいのは、級の部で果敢に隷書に挑戦された方が複数名おりました。隷書の中鋒(毛先が線の真ん中を通る)の線は、やはり線の充実感を手に入れることが必要になってきます。”気満”、”入木”の精神を表現するためにも、早めに隷書に関心を持ってくれることは嬉しいことです。

[岡田明洋]

条幅部

中山 櫻徑
熟練の妙。肥痩・潤渇を巧みに用いた行書作。
鈴木 藍泉
遅速の変化に優れた行書作。更に字形を扁平に!
竹本 吟月
草書を巧みに用いながらの行書作。更に筆圧の変化を求む。
竹本 萩雲
筆の開閉があれば、数段優れた作品となるだろう。
【選出所感】
四月二日の審査を終えてからの三日間、「四季の書」の昇段試験の条幅作品の五言律詩(四段以上)と七言二句(初段以上)の参考手本をそれぞれ4枚ずつ、計8枚を集中的に書きあげました。もちろん選文、検字などはそれ以前に済ませてありますが、書体を変えて4枚ずつ書くのは一仕事です。提出日が決まっているから精神的に安定感も得ることが出来ますが、もし締め切りがなければ、ランニングホイールの中で動き続けるハムスターのようなもので、楽しいはずの書作も苦痛だけで終わってしまいます。締め切り日もあり、一生懸命書いたから、今月はこれでいいにしようと(妥協かもしれませんが)筆をおくことが出来るのです。皆さんも今回書いたものを来月もう一度書き改めても構いません。掲載された方の作品とその寸評をご覧になって、先月とは違った作品を書こうと鼓舞して筆をとってくれればうれしいです。掲載された方も、再度改めるべき点は改めて、再提出なさっても構いません。先月の作品と比べ、良くなっていれば、連続して掲載されることもあり得ます。皆さんの一層の健闘を期待しています。

[岡田明洋]

臨書部

小野 幸穂
伸びやかな縦画が目を引く。起筆の変化を更に求めよ。
藤田 紫雲
入木の精神に満ちた縦画見事。落款一考か。
【選出所感】
一年ぶりに復活した「皇甫誕碑」の臨書ですが、以前と比べとても筆力が充実している様に思えます。それでも起筆のところが円筆になってしまう方が数名います。筆を立てたまま、真下におろすと穂先がつぶれてしまいます。左45度に毛先が出ているのを確認してから少し引いて、更に命毛が左上に出ることをとらえてから右に筆管を進めると良いですね。欧法は起筆の鋭利さが特徴ですので、是非、繰り返し起筆の切れに磨きをかけてください。
今回の課題はすべてに、横画を書いてから縦画に移る転折がありましたね。細く厳しい横画から、力強い縦画に質を変えるためには、横画の終筆で、双鉤法の方は薬指を筆の軸に押し当てるようにして筆を立たせます。その後少し、手首の位置を下げるようにしてから、つまり手首を紙面に近づけるようにしてから、肘を真後ろに引くようにして縦画を引いてみてください。歯切れのよい転折が書けると思います。

[岡田明洋]

随意部

山田 淥苑
起筆に安定感が生まれた。更に雄大さを紙面に求む。
内海 理名
美人董氏墓誌銘を得て、唐代楷書につながる線として端美に表現した。
山河 恵巳
実直な史晨碑を温和な線で表現した。
大村 紅仁乃
雁塔聖教序を臨書して、俯仰法を得た力作。
【選出所感】
北魏造像記、隋の墓誌銘、隷書の史晨碑、唐の雁塔聖教序が写真版となりました。正式書体ばかりだったといえます。正式書体と行草の略式書体は4:1の出品割合でした。
今回は、掲載されなかった行草から何点か寸評を書いてみましょう。
米芾を臨書した吟月さん。運筆は滑らかで良いのですが、米芾の字形の特徴である左傾がまだ充分と言えません。垂直の線を引くのではなくて、もっと前かがみにしてみましょう。「月」や「相」は直下に引いていましたよ。
智永の千字文を臨書した蓮㳺さん。一行目はゆったりとした穏やかな書き振りでよかったのですが、二行目は左右からプレスされて字形が細長くなってしまいました。それとともにだんだん行が左に流れていました。またその為に行間が空きすぎている様に思えます。落款をもっとしっかり書きましょう。
書譜を臨書した錦流さん。もっと側筆を用いて線質の直筆、側筆の変化を楽しみながら書きたかったですね。少し神経質に臨書してしまいました。錦流さんも落款一考です。
春光会の皆さんの雁塔聖教序の臨書。これからも意欲的に臨書部を活用してください。

[岡田明洋]

実用書部

鈴木 藍泉
切れのあるペン字。墨量豊かな細字大いによし。
市川 章子
伸びのある縦画と安定感のある造型に優れたペン字。
【選出所感】
姿勢、持ち方の後は筆順です。
漢字の筆順というのは、長い年月をかけて多くの書人によって書き継がれてきた中で、オーソドックスなものとして次第に示されるようになったものです。昭和33年に、文部省は「筆順指導の手引き」を作成し、一漢字、一筆順の原則として、筆順の統一を図りました。上は、「たて、よこ、よこ」の潤ですが、行書などでは、「よこ、たて、よこ」で書かれているものもあるので、絶対とは言えませんが、字形を整えるためには、やはり筆順はおろそかにはできません。
「四季の書」の学生部のインスタをご覧いただければ、それぞれの学年で習う漢字の中で、よく間違う漢字を取り上げています。
赤ペン片手に是非お試しください。
①大原則は「上から下へ」です。三・工・草・客など一層二層型の構造をしている字はまさにこの原則です。
②「左から右へ」偏、旁構造の字(川、休、明、潮)がこれに当てはまります。
これが二大原則と言って良いでしょう。

[岡田明洋]