2023年03月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

永嶋 妙漣
筆力まかせでなく、線の肥痩にも配慮した秀作。
藤田 紫雲
伸びやかな横画と潤渇の変化が調和した草隷作品。
山河 恵巳
細線を駆使し、董其昌をおもわせる草書作品とした。
河合 紀子
穂先の用い方が巧みで、ゆとりのある行書作に感心。
【選出所感】
圧倒的に行書で出品してくれる方が多かったです。二段目の文字つまり雍と運が形的にも変化が大きく、字幅もあるので連結している様に見えてしまいます。四角を有する時と昌は変化が少なく地味な感じがしますので、時は墨量豊富に、昌は擦れの文字にすると変化がついたのかもしれません。昌を草書にしても良かったでしょう。行書作品は行書といっても、すべて行書でないといけないということはありません、疎密の変化や潤渇の変化をつけるために臨機応変に草書を用いてみましょう。
草書で出品してくれた方は、やや意気込みすぎてしまったかもしれません。全体的に文字が太すぎてしまったり、転折部分で急ブレーキをかけたような作品が多かったですね。また、雍と運の重心が同じであった方は改める必要がありますね。行・草書は変化の書体であるということを念頭において、重心の距離感覚に長短の差を出した配字にしましょう。
唐代楷書の方は、文字構造つまり、中心より右サイドの空間を広くとるように心掛けてください。右上がりが強く、右サイドが立派であるようにしましょう。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

松久保 美幸
柔和な線質で、気を途切らせることなく運筆しました。
浜田 恭子
墨の入り方を手に入れたため、線の密度が充実した。
【選出所感】
それぞれの書体で一生懸命に取り組んでいることはよく伝わってきます。
焦る必要はないので、一本の線を大切にして一字ずつ丹念にお書きください。皆さんは気付いていないかもしれませんが、四文字中一文字は本当によく書けている字があるものです。一枚書いたら、とにかく自分で自分の字を誉めてあげましょう。四文字中一番いいと思ったものを選び、何が良かったのか言葉にしてみてください。「なんとなく」はだめですよ。しっかり表から見て、更に裏から見て優れた点を分析する習慣をつけましょう。なるべく具体的に自分の目で見て、自分の感覚を育てていきましょう。そこでほめてあげた字とそれ以外の文字を見比べて、良い点を加味するようにして、ほかの三文字も書いておけばよいのです。苦言を呈すれば、級の方は、お名前(落款:らっかん)が落ちるのです。本文と落款が一致するようになれば、しめたものです。

[岡田明洋]

条幅部

長野 天暁
規模雄大。入木の精神にも溢れている北魏楷書です。
萩尾 惺雲
蔵鋒、左手法を用いながら、個性を発揮した行書。
鈴木 藍泉
孔子廟堂風の造型と柔和な線質がマッチした秀作です。
市川 章子
やや筆が立ちすぎているか?側筆を加味しよう。
【選出所感】
以前七言二句十四文字の半切作品の方がむずかしい。それは筆力不足がすぐに露呈してしまうから。行のうねり、字間の乱れが一目瞭然となってしまうからというようなことを書いたと思います。この大変な課題に取り組んでくれた方が大勢いました、掲載された方と比べ遜色なかった方の寸評を記してみます。
妙連さん、墨量たっぷり重量感あり見応えのする作品。「食近丹墀」が少し小さかったか。
一洗さん。厳しい北魏楷書が魅力的。「煙裏間賜」の上段二段二行が大きすぎました。
奈摘さん。孔子廟堂碑を髣髴とさせる温和な楷書。裏と對が右に流れたのが残念でした。
宏純さん。智永を思わせる字形と横画の伸びがマッチした作。以上が楷書です。
紫雲さん。米芾を意識して、左傾のリズムを巧みに表現した。やや幅広な字形も入れたかった。
暁美さん。線の運びに余裕が出てきた。この調子で書きこんでいこう。

[岡田明洋]

臨書部

和田 平吉
起筆に冴えがあり、構築性に富んだ皇甫誕碑とした。
小野 幸穂
やや起筆が上ずってしまいましたが、丹念に臨書しました。
【選出所感】
総じていえば、皆さん筆が早すぎて墨不足であるように思われます。
裏面から見て墨が入っている方は、一洗さん・淥苑さん・惺雲さん。この三名の方は、よく北魏楷書を臨書されているので、墨の入れ方も大胆なのでしょう。反面この三名の方は、起筆が強すぎて欧法がもっている理知的な筆法とは趣が異なっている為に、残念ながら選出されませんでした。そして、暁美さん。近頃墨の入り方がとても良くなってきました。二行目などは歯切れよく結構なのですが、於と赴がにじみすぎて作品を壊してしまいました。この四名の方以外は、起筆と収筆のみに墨があるだけで、入木とは言えない線でした。横線は起筆で筆を立てた後は、すこし進行方向に軸を傾けるようなつもりで送筆してください。縦線の起筆で手首を紙面に近づけるようにすると墨の入りが良くなります。来月は条幅での皇甫誕碑です。裏面から見ても充実した作品をお書きください。

[岡田明洋]

随意部

小田 一洗
鋭利な起筆、線に冴え有り。見事な始平公造像記。
長野 青蘭
居延漢簡の臨書、古隷を帯びたり、草隷を入れたりの木簡。
内海 理名
北魏楷書を写実的に臨書した。この熱意を持続しよう。
川原 礼子
智永真草千字文の臨書を、優美な書き振りでまとめた。
【選出所感】
今回は北魏楷書と隷書の出品作が多かったように思います。
北魏楷書は「四季の書」のみなさんはよく習われています。筆力雄渾、規模雄大な文字は迫力があって、エネルギーを感じさせてくれます。そのような点に心揺さぶられるのでしょう。
ただ、字画がつぶれてしまっている点や、掘り手の文字に対する知識不足から、点画が欠けているものも多く見受けられます。私はそれらをあまねく臨書しなくても構わないと思います。習い手である私たちが、今日の学説を拠り所にしながら、書いてはいけない字と判断した時は、打ち捨てて構わないのではないでしょうか。とはいっても、一度字典で調べてみます。そして、そこに載っていないようでしたら、編集に携わった方も採用しない方が無難だと感じたのでしょうから、臨書作品であっても省いていくという方法を取って臨書していきます。

[岡田明洋]

実用書部

長野 青蘭
スケールの雄大なペン字。筆圧のかけかたが見事です。
石谷 桂子
やや硬い線質ではあるが、丹念なペン運びを心掛けた。
【選出所感】
前回は、姿勢のことについてお話をしました。今月は持ち方について述べてみましょう。硬筆つまり、鉛筆・ボールペン・つけペン・万年筆すべての用具に対して、力の入れすぎは禁物だと思います。ごく軽く握るのがいいでしょう。「四季の書 一般実用書部」の多くの方は、つけペンを使用されていますので、それを例にとって、説明していきましょう。
まずは力まずにペン軸の根元から1cmくらいのところに親指の指紋をあてるようにします。その少し下のところに人差し指の指紋があたります。中指の爪の右上にペンだこが出来るようにします。つまり中指の爪の右上あたりがペンの台座になるのです。中指と薬指、薬指と小指がすきまなく一列になるようにします。そうすると小指の力が中指の爪の上の右上あたりまでペン軸に伝わり連動します。この力が反作用の力です。親指・人差し指の力は紙に向かって作用する力ですので、これに反発する力も大切になってきます。小指の先が手のひらの親指の付け根の部分あたりに触れる様では、手のひらに無駄な力が入り、軸のヘッドも相手側の方に傾いてしまいます。虚掌実指(きょしょうじっし)という言葉もあります。手のひらをリラックスしておくことが必要です。

[岡田明洋]