2024年04月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

藤田 紫雲
横画に波勢を有したリズムが見事です。渇を生かそう。
大村 紅仁乃
ダイナミックかつ自由自在な運筆。見応えがあります。
奥田 友美
厳しいタッチであるが、転折部の墨だまりもなくよし。
長野 天暁
いつもより曲線を多用し流れを生かした作品とした。
門田 容子
起筆の強さを表現した後の弾力のある線が素敵です。
増田 文子
求心性に配慮した優美な作。大胆な送筆があれば更によい。
片瀬 仁美
筆力の入れ方が上手で、抑揚の変化に優れた作品です。
山川 清玄
温厚かつ実直な八分隷書。横画の波勢を表現しよう。
【選出所感】
北魏楷書と唐代楷書を合わせた数を1としますと、行書は2、草書が1、隷書が0.5という比率でした。
今回はその中でも準師以下の方の作品に対してアドバイスをしてみようと思います。
楷書は構築性が大事です。分間の処理がされ、右上がりが統一されればよいです。この点では、皆さん良く書かれています。終筆がガサガサで終わる方は墨量不足か筆の離れが早いのです。落ち着いて終筆で毛先をプッシュしてみましょう。
行書の方も良く書けていますが、転折の所で押さえつけているようですね。表面に点があるのは急ブレーキをかけているからです。是非俯仰法を用いてください。
草書が量的に増えてきたのは嬉しいことです。ここでも行書と同じことが言えます。スピードの出しすぎです。ゆっくりで良いので円運動を用いて滑らかな筆遣いにしましょう。
果敢に隷書に挑戦してくれているお三方は、もう少し扁平にしてくれると良かったですね。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

田村 奈穂
一行目に若さが発揮された。二行目に軽快さが欲しかった。
生田 美穂
基本に忠実な端正な唐代楷書を表現しました。この調子で。
【選出所感】
行書は行押書と呼ばれる手紙文に用いられる文字から派生しました。その文字の大きさは、半紙に書くような大きな文字ではありません。行押書の前の草隷は幅7ミリ程度の竹の簡に書かれていますから、当然大きな文字でないことは判断できますね。章草と呼ばれる残紙に書かれているのも木簡に書かれたものよりほんのわずかに大きいだけです。今年から取り上げている王羲之によって書かれた蘭亭序であっても、当時、貴重品であった紙を用いているのですから、高さ34.5センチの紙にだいたい11字から13字の字数を詰め込んでいるのです。3センチ四方に満たない文字で書かれている古典の名作蘭亭序を臨書することによって行書の神髄に近づいてくれたらと思います。
紙をとりまく事情は隋・唐・宋を経てもそう変化はありません。紙をすくという作業は大変なものだったのです。明に入って董其昌あたりから今日のような大きな紙がすかれ、卓上の芸術から壁面芸術へと変化を遂げていくのです。

[岡田明洋]

条幅部

萩尾 惺雲
徐青藤の臨書をヒントに自由闊達な条幅作品とした。
永嶋 妙漣
墨量に頼るだけでなく、一本の線を大切に取り組みました。
鈴木 藍泉
連綿線を用いながら米芾の左傾の造型を手に入れました。
竹本 吟月
蔵鋒・単体の丸味のある独特な造型が目を引く。
【選出所感】
2023年9月の五言絶句の課題以来の北魏楷書のお手本でしたが、掲載された妙漣さん以外は行書作品三点でした。
今回の課題は、山場となる二行目三・四字目が画数少ないものでしたが、その二文字に豊かな墨量があり、次の報と事に動きと大きさがあったので大変見映えする作品となりました。
次点の四点について述べてみましょう。
天暁さん、北魏楷書。前回に続き意欲的な作品でした。今、課題としている墨だまりに頼るのではなく、明澄な線を以て構成しようという点が今一つ不足していました。
紫雲さん、草隷調。しっかり集字しての取り組みでしたが、やや文字が膨張していました。
櫻徑さん、行草書。筆が良く走り、潤渇の変化もあってよかったのですが、誤字がありました。やはり字画の吟味が大切です。
理名さん、隷書。字形はよいのですが、字間と、中心線が少し左右に触れていました。波磔の有無による重心を考えましょう。

[岡田明洋]

臨書部

藤田 紫雲
個性の発露が唱えられている宋代の書き振りに挑戦しよう。
山木 曄真
やや唐楷的な表現になってしまったか。春の左払い大いに良し。
【選出所感】
臨書四文字の課題ですので、皆さんとてもお手本をよく見てしっかり書かれています。
ちょっとしたアドバイスですが、起筆の形をよく考えるように意識してください。今月の臨書解説にも述べておりますが、唐代に搨模(敷き写し)されたり、臨書されたものは、楷書的な用筆が随所に顔を出します。つまり、線の左上サイドに毛先が露出している筆遣いが多いのです。それに比べ、この米芾が書いたといわれる第二本の起筆は丸味を帯びているものやら、右上再度に毛先が出ている、いわゆる左手的な線があります。私が臨書した”暮春”の日の一画目をご覧ください。暮の一つ目の一画目は、毛先が上に。二つ目の日の一画目は丸味を帯びて。春の日の一画目は左サイドに毛が通っているように見えませんか。起筆のこのような変化は米芾の作品を臨書するとよくわかります。上手に書かれている方も、もう一度、起筆の形状の違いから用筆法を分析していただくと、更によい臨書作品になると思います。

[岡田明洋]

随意部

長野 天暁
爨龍顔碑の特異な造型をしっかりとした臨書眼で捉えた。
内海 理名
君には礼器碑よりも乙瑛碑の方が向いています。
市川 章子
範書の里耶秦簡の左手的な線を表現してくれました。
大村 紅仁乃
居延漢簡の持つ波勢のリズムを捉えた。牛を下げよう。
【選出所感】
理事のみなさんが謙慎書道展に一生懸命に取り組んでいて、随意部範書への出品がなかったものですから、すべて私が書かせていただきました。
それだけの理由ではなく、先月随意部審査所感に記した”左手的な線”を用いた古典・新出土の書蹟をお示ししたかったからです。
秦の始皇帝が宰相李斯に命じて”小篆”なる書体を世に示しましたが、それ以前の戦国時代から”秦隷”と称される書き振りがありました。その筆頭格が「里耶秦簡」です。図版をご覧になってもすぐに左サイドに毛先が表出しているのがお分かりになると思います。その後の「馬圏湾前漢簡」「居延後漢簡」「爨龍顔碑」
どの作品を見ても、”左手的な線”をお探しできましたか。ウォーリーを探せではありませんが、”左手的な線を探せ”です。今までにない起筆のあり方に注目しましょう。
今月春光会のみなさんがこれらの課題に取り組んでくれたことを嬉しく思います。

[岡田明洋]

実用書部

鈴木 藍泉
安定したペン字と細字に感心します。特にペンの開閉大いに良し。
市川 章子
細字に長足の進歩有り。ペン字は藍泉さん作を見習おう。
【選出所感】
全国の市の数は792です。ようやく沖縄県にある市の名前を書き終わりました。北海道にいくには10年くらいかかってしまうかもしれませんが、その間にパーツごとに分けて、何かを会得して下さい。例えば、宮から①ウカンムリの点は中心に打つ②ウカンムリの二画目は外に向ける③最後のハライは横画を書いて筆を離してから払う。呂の口の最後の横画を右に出す(口は横を出す。口の中に横線があったら縦を出す)このようにして、「官・容・宿・富」などにも応用すればよいと思います。
総じて良く書けているのは、ペン字の市名です。一マスに一字で、適当な大きさをキープして、しっかりしたペンの開閉やスピード感も表現されています。
和歌は私の書いたものより大きい字の方が大半でした。先月の漢字規定の段以上の選出所感にも書きましたが「気持ちは大きく、文字は小さく」書くようにしてみてください。

[岡田明洋]