2024年03月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

萩尾 惺雲
露鋒の厳しい入筆となった、更に収筆も気満で!
小柳 奈摘
水平・垂直・扁平の隷書の原則を遵守した隷書となった。
長野 天暁
左手法を用いながら気力充実した造型とした。
天野 恵
入木の精神に満ちた作。これに肥痩の変化を加味しよう。
新間 瑞光
一行目開放的な払いが良い。雪に墨量を入れましょう。
久野 喜代
柔和な筆致が二行目に発揮された。釣の骨格しっかり!
大場 愛
紙面を圧するダイナミックな動きを今後も生かそう。
勝見 祐子
点画を正確にとらえた造型がよい。特に、寒・雪!
【選出所感】
範書の北魏楷書は、穂先の弾力を用いて露鋒の起筆を鋭く表現したものですが、蔵鋒的に裏返しての起筆にして書いてくれた方もおりました。古典の龍門二十品で言えば、前者には牛橛造像記、魏霊蔵造像記、楊大眼造像記が挙げられるでしょうか。方筆で激しいタッチ。右上がりの強い点も特徴です。後者には馬振拝造像記、賀蘭汗造像記があります。横画では線の下に穂先が通るようなものもあります。強い押し出しは気満を必要とします。どちらの用筆法でも構いませんが、一度、龍門二十品をご覧になってからその印象を大切にして書かれたら良いと思います。
今年から初段以上の掲載点数を倍にしましたが、その効果があらわれているようで、月替わりで異なる方の作品が選出されています。師範の方と比べると若干文字が大きいようです。墨を沢山つけて、気持ちは大きく、文字は小さく書くようにしてみてください。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

西村 真粧美
美しい起筆を生かし、造型を整えましょう。福の字良し。
飯島 朋
細い線ながら芯の通った線が魅力!嘉福見事です。
【選出所感】
先月の選出所感の文章をお読みになっていただいたのでしょう。起筆と収筆でお団子のような状態になっていたものが、随分と改善されている様に感じます。一本の線を人生にたとえると、起筆は誕生、収筆はお葬式のようなものですから、気持ちを整えて、紙に筆を落とし、無用な力を入れず、静かに紙面から筆を離したいものです。前回のコメントは楷書を書く時の心構えを書いたものですがから、今月からは、行書についての書体的な変遷について、書いていきましょう。
草書はもともと隷書を早書したもので、草隷という、波勢のリズムを有している書体が長兄的な立場にあります。その後、三世紀の半ばに、行押書と呼ばれる書体を受けて、行書へとつながっていく書体が数多くの木簡の中に記されています。行押書とは手紙に用いる書体のことを指しており、この書体から行書の名が出たことは、唐の張懐瓘が述べています。この行押書にも波勢のリズムがあるということは覚えておいてください。

[岡田明洋]

条幅部

萩尾 惺雲
小篆作品。これに呉譲之の臨書を加え、更に金文に進め!
長野 天暁
北魏隷書のエネルギーを発揮した作。文字の大小一考。
中山 櫻徑
やや平易に流れた感があるものの俯仰法を用いた秀作。
小田 一洗
武威漢簡を思わせる隷書。盞・盤先にボリュームを。
【選出所感】
白楽天の句「元日に酌む杯の最後を藍尾の酒というが、立春佳節に何よりも先にすすめるのは膠牙(こうが)のスープである。」という意味です。
範書は小篆によるものでしたが、楷書、行書、隷書の各書体での出書があり、嬉しく思います。
智永調楷書の藍泉さん。一行目の字幅に対し二行目が縦長になりすぎました。盤を上から書きたかったです。
小篆の理名さん、分間の乱れが生じました。行間が少し空きすぎたでしょうか。とにかく空間をしっかり!
行書の紫雲さん、蔵鋒を用いすぎたので線が重かった。連綿も用いましょう。禮子さん、字幅の変化はよいのですが、墨量の変化もっとつけて!特に「先進」に。奈摘さん、前者二人に比べると大人しいか。打ち込みを強くしましょう。
秦隷調の青蘭さん。やや線が重く、文字も大きすぎました。肉筆文字の柔らかさを表現しましょう。

[岡田明洋]

臨書部

小野 幸穂
伸びやかな臨書で造型的にも明るい作品とした。
金井 万由美
線の肥痩のつけ方が巧みである。起筆の形に着眼しよう。
【選出所感】
半紙に四文字の臨書ですので。皆さん充分に字間を空けて臨書されていますね。今回の四文字中「癸」はこのような広いスペースはなく、無理やり入れ込んだと言われています。お酒を召しての書作でしたので、王羲之と言えども脱字をしてしまい、酔後、書き足したという逸話が残っています。
字間の間合とか気脈とかいうものは、半紙四文字臨書では思うようにはなりません。が、その分一文字一文字の造型をしっかりと把握してください。
「歳」の山の左右の空間左サイドが広いですよ。そして一画目はすっくと立っています。四画目から五画目は、まさに俯・仰法です。「在」の一・二・五画目は逆入・蔵鋒です。
これなども顔真卿の影響です。「癸」のハツガシラと「夭」の中心の移動が作る左傾の姿。「丑」の上広く、下狭い空間の大小をしっかりと掌握しましょう。(八柱第三本では丑の上下の空間は同等です。この均一性が唐代のものです。)

[岡田明洋]

随意部

藤田 紫雲
居延漢簡の字間の取り方に注意した。波勢の形よく見て!
長野 青蘭
石碑の八分隷にも引けを取らない木簡を臨書した。
萩尾 惺雲
やや激しすぎる王鐸巻子の臨書。この意欲は買います。
内海 理名
更に礼器の本質的な強さを求めたい。
【選出所感】
3月のお手本に記された里耶秦簡は2002年6月に里耶の涸れ井戸の中から出土されました。その数3,700枚に及ぶ木簡、竹簡類が発見されました。公文書が主であり、紀年が明記されている簡牘から、始皇帝26年~36年及び、二世元年・二年(紀元前220年~208年)のものと判断されます。里耶秦簡には、儋手、堪手、敬手などと、文書の書き手の名前が記されているのが面白いですね。「手」とはサインを意味しますから、儋さん、堪さん、敬さんが書いたということです。
さて、この中の「庭」の一画目、三画目。「尉」の三画目、「令」の三画目はすべて左手的な線と言ってよいと思います。爨龍顔碑の「所」の二画目、居延後漢簡の「跡」の一画目、「朱」の四画目、「黻」の一画目。書体はすべて違いますが、これらには皆”左手的な線”が用いられています。この用筆法は、一番穂先の弾力を効かすのではないのでしょうか。とても強い線が引けます。

[岡田明洋]

実用書部

鈴木 藍泉
いつもより懐が広いゆったりとした書き振り大いに良し。
和田 平吉
ペン字においてペン先の開閉見事。毛筆も毛先が立ってきた。
【選出所感】
毛筆細字に仮名が入ってきたので、疎密の変化がありすぎて、下半が寂しくなってしまいましたね。でも円運動を用いて滑らかな用筆で表現されていました。ペン字の豊見城市以下の地名も左傾を充分に意識して流れのある文字構造にしてくれました。
志貴皇子の人口に膾炙している和歌ですね。岩の上をほとばしる滝のほとりのさ蕨が萌出る春になったことだなぁ。私も口ずさんで書きましたので、造型にはさほどの工夫もなく流れるような調子で書きました。仮名のところが、団子の串刺しのように直下につながるのではなく、少しずつ右下へ右下へと流れるように書きました。
出品作の中に、”垂”の文字を書き間違えて、掲載を逃した方がおりました。文(あや)のある文字は筆順が分からなくなる時もあります。このような時は、字典で筆画を確認しましょう。来月の「照」や「靄」などは、必ず書道字典にてお調べください。

[岡田明洋]