選者選評 岡田明洋
漢字規定部(初段以上)
※作品は押すと単体で表示されます
【選出所感】
今回の課題は、単体が「香」一字のみ、あとの複体の部首も、それぞれ異なる形をしていますので、変化に富み書き易かったのかもしれませんが四段以上の方の作品が甲乙つけがたかったです。楷書も行書も字体はどちらも大変しっかりと書かれていました。楷書の方は「入木の精神」を発揮されますと、より一層よい作品になると思います。起筆と終筆は形よく書けているのですが、今一つ送筆部での墨の入れ方が足りません。スピードもつけすぎているのでしょうか、それともやや軸を押し出しているのでしょうか。私がこの頃しきりに書いている”俯仰法”を意識して頂いても、線質は変わると思います。ただし倒れすぎは禁物です。紙への抵抗力のない線になってしまいますから。行書の方は転折部のコブが出ないようにすることと、連綿線を細くしすぎないように注意してください。転折部のコブは送筆部のスピードに対して、急ブレーキをかけているからです。そして”俯仰法”を用いれば、自然に筆の裏表をつかうようになるので、コブはなくなります。連綿線を書く時は、次の画に向かうことを意識して筆を進行方向にやや傾けて書きましょう。落款(名前)の位置と大きさ、書体に注意しましょう。やや大きく下に書いている様に思われます。書体は楷書の本文でも行書で構いません、草書の本文の時は草書にしましょう。篆書、隷書の時も行書でいいのですよ。
今回の課題は、単体が「香」一字のみ、あとの複体の部首も、それぞれ異なる形をしていますので、変化に富み書き易かったのかもしれませんが四段以上の方の作品が甲乙つけがたかったです。楷書も行書も字体はどちらも大変しっかりと書かれていました。楷書の方は「入木の精神」を発揮されますと、より一層よい作品になると思います。起筆と終筆は形よく書けているのですが、今一つ送筆部での墨の入れ方が足りません。スピードもつけすぎているのでしょうか、それともやや軸を押し出しているのでしょうか。私がこの頃しきりに書いている”俯仰法”を意識して頂いても、線質は変わると思います。ただし倒れすぎは禁物です。紙への抵抗力のない線になってしまいますから。行書の方は転折部のコブが出ないようにすることと、連綿線を細くしすぎないように注意してください。転折部のコブは送筆部のスピードに対して、急ブレーキをかけているからです。そして”俯仰法”を用いれば、自然に筆の裏表をつかうようになるので、コブはなくなります。連綿線を書く時は、次の画に向かうことを意識して筆を進行方向にやや傾けて書きましょう。落款(名前)の位置と大きさ、書体に注意しましょう。やや大きく下に書いている様に思われます。書体は楷書の本文でも行書で構いません、草書の本文の時は草書にしましょう。篆書、隷書の時も行書でいいのですよ。
[岡田明洋]
漢字規定部(特級以下)
【選出所感】
みなさんの課題も書き易かったのではないでしょうか。一字目と四字目がやや少なめの画数で、二字目と三字目がやや繁雑な画数で、まるで黒と白のオセロの駒が左右交互に並んでいるかのような字面です。このような字面は作品がまとまりやすいのですよね。「一期一会」とても意味はいいのですが、半紙に書作するのは大変です。上段は「一」のみ、下段は画数の多い文字ですから、このような字面は避けたいものです。特級の方が切磋琢磨している様子がうかがえてうれしく思います。書き易い字面とはいえ、「流」の字は正方形で「擈」の字は、縦長になります。このように外形が異なるときには、必ず左右それぞれの重心が並んでいるかをチェックしてください。今回の作品は中心線はそろっているのですが、重心に上下の差が出て、全体を乱してしまったのは残念でした。
偏と旁のある字は、書き終わったら必ず、偏と旁の底辺の高さの相違を見比べるといいですね。「流」はサンズイの下のラインより、旁の方が上がっています。皆さんの中に旁の下がっている字を何点か見ました。「擈」のお手本は、テヘンより、旁の上部が高くなっていますが、これも同じ高さの方が何人かいらっしゃいました。このように書いたものとお手本を見比べる習慣をつけてください。鑑賞眼が育たないと技法も高まらないのです。
みなさんの課題も書き易かったのではないでしょうか。一字目と四字目がやや少なめの画数で、二字目と三字目がやや繁雑な画数で、まるで黒と白のオセロの駒が左右交互に並んでいるかのような字面です。このような字面は作品がまとまりやすいのですよね。「一期一会」とても意味はいいのですが、半紙に書作するのは大変です。上段は「一」のみ、下段は画数の多い文字ですから、このような字面は避けたいものです。特級の方が切磋琢磨している様子がうかがえてうれしく思います。書き易い字面とはいえ、「流」の字は正方形で「擈」の字は、縦長になります。このように外形が異なるときには、必ず左右それぞれの重心が並んでいるかをチェックしてください。今回の作品は中心線はそろっているのですが、重心に上下の差が出て、全体を乱してしまったのは残念でした。
偏と旁のある字は、書き終わったら必ず、偏と旁の底辺の高さの相違を見比べるといいですね。「流」はサンズイの下のラインより、旁の方が上がっています。皆さんの中に旁の下がっている字を何点か見ました。「擈」のお手本は、テヘンより、旁の上部が高くなっていますが、これも同じ高さの方が何人かいらっしゃいました。このように書いたものとお手本を見比べる習慣をつけてください。鑑賞眼が育たないと技法も高まらないのです。
[岡田明洋]
条幅部
【選出所感】
やはり条幅に七言二句の書作はむずかしい。範書としてあった私の書いたものは、米芾の書を集字してからの作品です、米芾の書は巻子に書いたものですから、明の時代ごろから書き始めた長条幅の様式とは異なります。米芾の原帖と比較すると、字の大きさから言えば、10倍くらい大きく書くことになります。字形のスタイルである左傾を意識しながらも文字群の流れを大切にして条幅仕立てにするのはなかなか大変なことです。
普段の半紙五文字書きに慣れた皆さんには、一字が20㎝ほどである書き振りにするためには、相当な筆力を入れなければなりません。それは、楷書で書く時も同じです。むしろ字画の正確さが要求されますから、ごまかすこともできません、出品作には、隷書・初唐楷書風・北魏楷書風そして範書をもとにした米芾調の行書がありましたが、どなたも意欲的に取り組んでいただけました。五言絶句の二十文字と比べても十四文字のほうが、字数が少ない分、文字が大きくなって、墨の使用量もおおくなり、毛先がやわらかくなり、穂先を制御するのがむずかしくなります。大きなナタで振り回すつもりで筆力を養ってください。初段から四段の方は過去の私が書いた十四文字の条幅範書で構いませんから、2か月かけて十四文字に挑戦してみてください。
やはり条幅に七言二句の書作はむずかしい。範書としてあった私の書いたものは、米芾の書を集字してからの作品です、米芾の書は巻子に書いたものですから、明の時代ごろから書き始めた長条幅の様式とは異なります。米芾の原帖と比較すると、字の大きさから言えば、10倍くらい大きく書くことになります。字形のスタイルである左傾を意識しながらも文字群の流れを大切にして条幅仕立てにするのはなかなか大変なことです。
普段の半紙五文字書きに慣れた皆さんには、一字が20㎝ほどである書き振りにするためには、相当な筆力を入れなければなりません。それは、楷書で書く時も同じです。むしろ字画の正確さが要求されますから、ごまかすこともできません、出品作には、隷書・初唐楷書風・北魏楷書風そして範書をもとにした米芾調の行書がありましたが、どなたも意欲的に取り組んでいただけました。五言絶句の二十文字と比べても十四文字のほうが、字数が少ない分、文字が大きくなって、墨の使用量もおおくなり、毛先がやわらかくなり、穂先を制御するのがむずかしくなります。大きなナタで振り回すつもりで筆力を養ってください。初段から四段の方は過去の私が書いた十四文字の条幅範書で構いませんから、2か月かけて十四文字に挑戦してみてください。
[岡田明洋]
臨書部
【選出所感】
春光会の皆さんの臨書部への出品が着実に力をつけていることが分かる審査となりました。曄真さん、紅仁乃さん、平吉さん、康代さん、友美さんなど、どなたが掲載されても不思議ではありません。これだけ、半紙臨書として王羲之技法の伝承者の趙孟頫の用筆法を身につけてこられたら、早めに準師範の方は条幅に趙孟頫の臨書をされてみてはどうでしょうか。私などは、趙孟頫を初学の古典として重視はしていますが、明の董其昌などは、趙孟頫の作品をあまりに平明なものとして評価しませんでした。半紙で臨書して、俯仰法を用いたところの王羲之書法に行き着くための一助とはなるのですが、余りに平版なために、作品化しづらいのです、私が条幅で臨書していた趙孟頫の作品も、字間の取り方、文字の大小、肥痩、行の立て方など、本当に貧弱に感じてしまいます。明清行草のような華やかなロマンチズムな要素が全くと言って趙孟頫の書にはありませんから、それをカバーするだけの規則的な用筆法をしっかりと条幅の中で表現しなくてはなりません、そのためにはなるべく書く枚数を多くし、一枚ごとに原本と見比べながら、不自然な表現を少なくしていかなければなりません。
春光会の皆さんの臨書部への出品が着実に力をつけていることが分かる審査となりました。曄真さん、紅仁乃さん、平吉さん、康代さん、友美さんなど、どなたが掲載されても不思議ではありません。これだけ、半紙臨書として王羲之技法の伝承者の趙孟頫の用筆法を身につけてこられたら、早めに準師範の方は条幅に趙孟頫の臨書をされてみてはどうでしょうか。私などは、趙孟頫を初学の古典として重視はしていますが、明の董其昌などは、趙孟頫の作品をあまりに平明なものとして評価しませんでした。半紙で臨書して、俯仰法を用いたところの王羲之書法に行き着くための一助とはなるのですが、余りに平版なために、作品化しづらいのです、私が条幅で臨書していた趙孟頫の作品も、字間の取り方、文字の大小、肥痩、行の立て方など、本当に貧弱に感じてしまいます。明清行草のような華やかなロマンチズムな要素が全くと言って趙孟頫の書にはありませんから、それをカバーするだけの規則的な用筆法をしっかりと条幅の中で表現しなくてはなりません、そのためにはなるべく書く枚数を多くし、一枚ごとに原本と見比べながら、不自然な表現を少なくしていかなければなりません。
[岡田明洋]
随意部
【選出所感】
掲載版に選出した「隅寺心経」を今大変面白く感じ、私自身も半紙に六文字で良く臨書しています。高校の書道Ⅰの教科書にも載っており、写経の中でもとりわけ見事な穂先を効かせた「小楷」と言えましょう。隅寺とは、奈良にある海龍王寺のことで、かつて平城宮の東北の隅にあったことから、「隅寺」と称されるようになりました。
「心経」とは大般若波羅蜜多心経の趣旨を262字に要約した般若波羅蜜多心経の略称です。青年時代の空海が、心経の写経が盛んであった海龍王寺に出かけ写経をしていたということから、「隅寺心経」と呼び、筆者は空海であったと伝えられています。
当然、細楷ですので、枕腕法つまり、左手を体の前方で机の上に置き、その上に右手首を軽く載せて書く方法を取りますが、とにかく、穂先の運動が良く把握できます。横画の伸びやかな書き方は、俯仰法によるものだと思われます。
また初心者の方には、半紙四文字の集王聖教序や九成宮醴泉銘の臨書も勧めています。四文字で筆力の入れ方と中心、重心の取り方などを丹念にチェックできるので良い勉強方法だと思います。過去の参考例のもの、次回の課題の先取り、一字書、なんでも出品できますので奮って提出ください。
掲載版に選出した「隅寺心経」を今大変面白く感じ、私自身も半紙に六文字で良く臨書しています。高校の書道Ⅰの教科書にも載っており、写経の中でもとりわけ見事な穂先を効かせた「小楷」と言えましょう。隅寺とは、奈良にある海龍王寺のことで、かつて平城宮の東北の隅にあったことから、「隅寺」と称されるようになりました。
「心経」とは大般若波羅蜜多心経の趣旨を262字に要約した般若波羅蜜多心経の略称です。青年時代の空海が、心経の写経が盛んであった海龍王寺に出かけ写経をしていたということから、「隅寺心経」と呼び、筆者は空海であったと伝えられています。
当然、細楷ですので、枕腕法つまり、左手を体の前方で机の上に置き、その上に右手首を軽く載せて書く方法を取りますが、とにかく、穂先の運動が良く把握できます。横画の伸びやかな書き方は、俯仰法によるものだと思われます。
また初心者の方には、半紙四文字の集王聖教序や九成宮醴泉銘の臨書も勧めています。四文字で筆力の入れ方と中心、重心の取り方などを丹念にチェックできるので良い勉強方法だと思います。過去の参考例のもの、次回の課題の先取り、一字書、なんでも出品できますので奮って提出ください。
[岡田明洋]
実用書部
【選出所感】
昇段試験として、あまり受験することを奨めませんでしたが、これからは初段以上の方にはしっかりと受験して頂こうと思います。
もともとは書は芸術である前に実用書であったのです。ここ数ヶ月、私が書いた方法を試してみてください。
①すぐに私の書いたお手本を見ずに四季の書の和歌の手本の解説文を見て、まずは自分の字で書いてみる。これは赤鉛筆で書くと良いでしょう。インクや墨のようににじむことはないので、ゆっくりとご自身の中の脳内文字を絞り出すように丁寧に書くことが出来ます。
②その上に、掲載されている手本のペン字を拡大・縮小して、マスの実線と点線を利用しながら、文字の位置があっているかどうかを見極めて、自己批正するつもりで、ペンで上書きしてみます。文字のどの画が実線や点線の上にあるかをチェックすると高さが分かります。同様にして、中心線(せぼね)の位置を確認すると行立てがしっかりと意識されます。このようにして、手本の字間と行間のあり方を見比べれば鑑賞眼が育ちます。
③更にペン字の時に大切なのは、線の肥痩に目がいけばペン字の滑らかさが表現できるようになります。人差し指の力の加減とペンの角度で線の抑揚の変化が生まれます。自分の指とペンの角度をも観察できると「離見の見」が出来たということになるのでしょうか。
昇段試験として、あまり受験することを奨めませんでしたが、これからは初段以上の方にはしっかりと受験して頂こうと思います。
もともとは書は芸術である前に実用書であったのです。ここ数ヶ月、私が書いた方法を試してみてください。
①すぐに私の書いたお手本を見ずに四季の書の和歌の手本の解説文を見て、まずは自分の字で書いてみる。これは赤鉛筆で書くと良いでしょう。インクや墨のようににじむことはないので、ゆっくりとご自身の中の脳内文字を絞り出すように丁寧に書くことが出来ます。
②その上に、掲載されている手本のペン字を拡大・縮小して、マスの実線と点線を利用しながら、文字の位置があっているかどうかを見極めて、自己批正するつもりで、ペンで上書きしてみます。文字のどの画が実線や点線の上にあるかをチェックすると高さが分かります。同様にして、中心線(せぼね)の位置を確認すると行立てがしっかりと意識されます。このようにして、手本の字間と行間のあり方を見比べれば鑑賞眼が育ちます。
③更にペン字の時に大切なのは、線の肥痩に目がいけばペン字の滑らかさが表現できるようになります。人差し指の力の加減とペンの角度で線の抑揚の変化が生まれます。自分の指とペンの角度をも観察できると「離見の見」が出来たということになるのでしょうか。
[岡田明洋]