2024年12月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

実用書部(昇段試験合格者)

藤田 紫雲
細字・ペン字ともに落ち着きのある懐豊かな書き振り。
長尾 武
三折の法を得た細字。ペン先の立ったきりっとしたペン字。
市川 章子
ペン字に安定感あり。特に地名は佳。細字もう少し細く。
生田 美穂
ペンがよく動き、自由闊達なペン字。細字やや小さく。
【選出所感】
前回苦汁をなめた藤田紫雲さん。早くから準備をした甲斐があって見事に師範に合格されました。誠におめでとうございました。私の範書に束縛されることなく、伸び伸びとした線と豊かな懐の結構を表現されました。
毛筆細字での問題点は、やはり筆管が立っていないということでしょうか。たいていの方が細字の場合、単鉤法でしょうから、中指の運動を機敏にしましょう。親指に力を入れすぎるとどうしても縦線が太くなってしまいます。転折部のお団子も同様です。ここでしっかりと筆を立てましょう。
地名のペン字は、比較的よく書けています。気脈の一貫性が紙面から表現されました。欲を言えば、左右の払いにまだ伸びがあっても良かったですね。
和歌の一首目は求心性がありすぎて懐の狭いものになってしまいました。二首目は楽しんで仮名を表現されていて、見ていても気持ちの良い書き振りでした。

[岡田明洋]

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

平垣 雅敏
墨色も冴え、押し出しの効いた線。気持ちの充実感が窺える。
中山 櫻徑
俯仰法を用いての見事な草書作品。二行目の字幅も良い。
長野 青蘭
伸びやかな横画を駆使した隷書作品。起筆を更に俊敏に!
内海 理名
凌・天の墨の入れ方見事。鶴・高もっと絞りたかった。
望月 玲子
大胆な筆遣いに気を感じます。墨痕鮮やかな作。
久野 喜代
起筆の厳しさ美しさが際立つ作。鶴の分間を更に緻密に!
西村 真粧美
おおらかな筆運びとやや扁平な字形がマッチした。
長谷 圭祐
蔵鋒の起筆が磨崖の書き振りを思い出させる。更に墨量多く!
【選出所感】
今回ほど、範書を書いてよかったと思う月はありません。北魏楷書・隋の楷書・行書・隷書すべて四分の一に分かれての出書でした。みなさんの中には草書で書いてみたかった方もいらっしゃったかもしれませんが「髙天」はともに単体ですし、筆画の省略によって二行目が裏寂しくなってしまいます。どの書体であっても、二行目の充実感が必要となります。
北魏の方、とても気満の精神に満ちた作品が多かったです。二行目の字幅不足がありますね。隋楷書の方、ややはやく書きすぎています。根元までしっかり墨を含ませて裏まで真っ黒く墨が入るようにしましょう。行書の方もやや走り書きですか?進行方向にやや軸を傾けて、横画は陽、縦画は陰と唱えながら手首を柔らかくして筆をゆっくりと運びましょう。隷書の方、水平垂直は良いのですが、全体的にやや扁平不足でした。字間の空き具合をご自分の指の本数で判断してみてください。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

風岡 立子
連綿線をしっかり用いた。転折部で力こぶを作らないように。
西 宏美
美しい露鋒の起筆を表現した努力作。名前の宏やや上に!
【選出所感】
先生になったつもりで「朱墨」つまり赤い墨をおもとめになって、筆も墨で書いているときと同じものをもう一本買っていただいて自己添削をするのです。まずは起筆を見ましょうか。入るときの角度は書写の基本入筆は45度です。そして穂先は、左サイドに出します。毛には命毛というものがあり、それが表出するような書き方になっていますか。次に送筆部は筆が線として書き進んでいるところです。ここをみて、裏がグレーになるようなら、赤墨で書くときは真っ赤になるように①まずは朱墨の量を多くする②筆の軸を少し進行方向に傾けて③ゆっくりと進む。最後が収筆です。筆をすぐ離すとギザギザな収筆です。一度釣り上げてから45°に軽く右下まで毛先を移動するようにします。抑えすぎては収筆の下にお団子が出てしまいます。
行書の方も隷書の方も起筆と収筆の形を再現しましょう。そして送筆部は真っ黒を合言葉に!

[岡田明洋]

条幅部

永嶋 妙漣
重厚な線に左手的な線をまじえ、一層力強い作品とした。
鈴木 藍泉
蔵鋒を巧みに用い、穏和な書き振りの行書作品とした。
藤田 紫雲
勢いを感じる北魏楷書作品だが、少し走り書きか?
山河 恵巳
米芾の苕渓詩巻をスピードをおさえ丁寧に臨書した。
【選出所感】
古典に裏付けされた作品を書いていただきたいという思いが強くあって、偶数月においては、奇数月で学んだところの半紙臨書を半切仕立てに変えて表現してみましょう。と推奨しています。毎月毎月、半切臨書の制作をすると消化不良になってしまうかもしれません、半紙でなるべく緻密かつ繊細に古典の造形の特徴を把握し、その用筆法もご自身の腕で解析できるようなってから半切に挑まれると良いと思います。
年末に当たり、口ざわりの悪いことを書くようで恐縮してしまいますが、どうして、初段から四段までの方は半切を出品していただけないのでしょうか。半切でも十四文字です。二か月かけて一枚の七言二句に挑んでいただければ相当に力はつくはずです。「四季の書」では楷・行・草・篆・隷と撰文した詩をすべて検字して一番ふさわしい表現で提供しているつもりです。昇段試験の時の半切にならないようにお努めください。

[岡田明洋]

臨書部

天野 恵
露鋒を美しく表現。もう少し左傾であってもよかったか。
川原 礼子
素直な書き振り。俯仰法も入れた。更にスケール大きく。
【選出所感】
私の会の方には、ご自分の目で八柱第二本をご覧になって臨書するように勧めてきました。重心の取り方、外形、概形を線引きで引いていただき形を把握していただきました。ここにきて、その成果が見え始めました。
「茂」のクサカンムリの点・点の位置とても右に寄っています、その次の横画がグーンと左に飛び出します。その横画の左端から垂直に下に縦画を引いて、その右サイドに四画目を入れてからはねます。はねたその位置から右に水平の線を引きます。その横線より、ウーンと長い六画目の斜画が引かれています。「林」はスックとやや左に傾いた縦画もみなさん気持ちよく引けています。七画目の狭くて短い右払いはどうしたことでしょうか。その短所?も見逃さないで書いてくれました。(ちなみに八柱第三本は広くても本当に伸びやかな右払いです。)「脩」の四画目の払いは、もっと右に位置したほうが良いでしょうね。

[岡田明洋]

随意部

小田 一洗
穂先の切れ味を生かした峻厳な墓誌銘臨書とした。
市川 章子
王鐸の詩巻の臨書。連綿線がしっかりしている。
長野 天暁
爨龍顔碑にしては、ややおとなしかったか。打ち込みを強く!
大村 紅仁乃
端整な唐楷作。更に褚法の俯仰法を活用しよう。
【選出所感】
随意部も随意部参考手本をご覧になって少しずつですが、出品が多くなってきています。参考手本をお書きになっている方もやり甲斐、書き甲斐が出ていることだと思います。
黄山谷をお書きの曄真さん、二字一筆で書くようなつもりで。そして強い線を心がけましょう。”臨”字書で調べて一番書き易いものを選びましょう。平吉さん、一行目の墨量をもっと多めにしましょう。二行目大いに佳。文子さん、焦ることなく半紙の字で俯仰法を確認しながら運筆しましょう。
先月春光会の生徒さんが、呉昌碩の石鼓文の臨書作品を写メで沖村先生に送信されていました。沖村先生がそれを私に見せてくれましたが、とてもよく書けています。ただ石鼓文を習っても、あまりに字数が少ないので、創作に結びつかない点や趙之謙がリスペクトしていた胡澍を習った方が小篆の用筆法がわかるのではないかと思い、それを紹介してみました。そのようなご相談どうぞどうぞ!!

[岡田明洋]