2024年10月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

奥田 友美
自由闊達。重厚な線の中に伸びやかさも表現された力作。
平垣 雅敏
円筆な運筆を用い、温かみのある北魏楷書を書かれた。
大村 紅仁乃
温和な線質と、安定感のある造型。精神の伸びやかさが良い。
天野 恵
左傾のスタイルを巧みに用い、優しさをも表現した。
川原 礼子
一点一画ごとの筆圧の切り替えが良い。入筆更に鋭く。
勝見 祐子
墨使いの巧みさが目を引く。澄にカスレを用いたい。
佐藤 満弓
紙面に食い込む筆力の強さに感心。この調子で筆力アップを!
浜田 恭子
美しい字肌が素敵。前者の方のような気脈を用いよう。
【昇段試験対策】
自分の書いたものをお手本を見比べることを進めます。まずは行の立て方がどうか?私が口を酸っぱくして言っていることに「書き終わったら紙を山折りにして一行ずつ見てください。左右の空が揃っていないとすぐにわかるはずです。」と。私の前に作品を示してもご自分の欠点を見出すことが出来ない人は、まず半紙右半分、そして左半分をお手本と見比べてください。
次に書いたものを裏面からチェックしてください。起筆と収筆にお団子ができてしまっている作品。送筆部に墨が入っていない作品は墨量不足か、もしくはスピードが速すぎるかです。そして急ブレーキをかけてしまうので、転折や収筆で墨だまりを作ってしまうのです。第三に、基本的に五文字の場合は、一・三・五文字目で墨がしっかり入っているかをみましょう。紙面が立体的になるはずです。同じ高さのところで墨を入れられないのは、条幅(半切)の時にはなおさらです。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

深澤 真紀子
前回出品に比べ、余裕が感じられる。長に気脈を!
鈴木 昊
温和な人柄が紙面に表現された。縦画が特に素晴らしい。
【昇段試験対策】
このクラスの方も初段以上の解説文をお読みください。書体は違っていても①中心を通す。②お団子を作らずに墨を入れる。③墨入れの効果によって紙面を立体的に表現する。ことは大切なことです。
左上は、唐代楷書風です。欧陽詢(おうよう・じゅん)という書家から集字したものです。すっくと立った理知的で都会的なイメージで書いてください。右上は、米芾(べい・ふつ)から集字しました。王羲之(おう・ぎし)の流れをくむ宋の書家です。頭でっかちと左傾を心掛けてください。左下は草書でいわゆる王羲之以降の今草と呼ばれます。早書きする必要はありません。気脈を大切にして、上から下に自然に流れるような書き振りをしましょう。右下は、漢の時代に用いられていた八分隷という書体です。とにかく蔵鋒(ぞうほう)で筆をからげて水平に横画を引きましょう。最後のはらいのところを波磔(はたく)と言います。何をチョイスされるのか楽しみです。

[岡田明洋]

条幅部

藤田 紫雲
居延漢簡をモチーフにしての隷書の早書き文字。リズム佳
長野 青蘭
古隷の書き振り、リズムを加味して味わい深い半切作。
竹本 萩雲
起筆での筆の立て方見事。スケールを大きくしよう。
遠藤 衣月
半切に取り組む姿勢が皆さんの範となります。
【昇段試験対策】
<条幅A>
左上から解説していきましょう。北魏楷書は、「北魏楷書字典」から集字しました。唐代楷書と異なる字画は「滅」です。全体的に扁平にし、逆入平出な筆使いです。私の場合、逆入の後、押し出しにすると墨が紙面の裏まで入らないので、運筆においては俯仰法を用いてしまいます。ただ筆を寝かせるのではなく、紙面に墨を入れるという気構えでやりましょう。
行書は長脚を用いる字が一つもないので、変化が出しづらかったので、その分文字の大小をつけて紙面が平板にならないように留意しました。いつも言うことですが、二行目、二・三・四字目あたりが見映えする作品にしましょう。
草書は墨量の変化に気を配り、上から下に流れるようなリズムで書くと良いですね。早書きすると、誤字を書く心配があります。虚実も考えながら筆を進めましょう。
隷書は曹全碑あたりから集字しました。オーソドックスな漢隷ですから、水平・垂直・扁平を造型的に注意し、波勢、波磔の用筆で運筆します。
<条幅B>
陸放翁句、七言二句を好きな書体一つ選んで出品します。まずはご自分の好みを大切にしてください。範書を見て一番心に響いたもので書き進めましょう。
それでは右上から解説していきましょう。唐代楷書風です。起筆をしっかりして充実した線で書きましょう。九以外は画数の多い字で構成されますので、横画と横画の分間を均一に取ることです。ハネ、ハライの意識もしっかり持って書作に臨みます。
行書はスマホでは、変に線が太く重厚すぎる作品となってしまいました。もう少し軽みのある細い線、文字の大小をつけると変化に富んだ素敵な作品になると思います。
隷書はいわゆる古隷調です。ほぼ正方形の枠の中に波磔のないずっしりとした線で表現します。字間を均一に取ることも忘れないでください。
最後の半切作品は条幅Aの一番最初に示した書き振りと同じものです。

[岡田明洋]

臨書部

市川 章子
字の中の空間処理が巧み。これに肥痩をつけよう。
和田 平吉
伸びやかで素直な臨書態度。この姿勢を貫こう。
【昇段試験対策】
昇段試験の規定に、”半紙臨書、条幅臨書は「蘭亭序」であること。手本掲載と異なる箇所でも構いません。”と書いてあります。
六文字で書きやすいのは、永和九年歳在 于會稽山陰之 蘭亭脩禊事也 至少長集此地 といったところでしょうか。四文字ですと、會稽山陰 脩禊事也 少長咸集 でしょうか。字面の良しあしで書き振りが変わってしまいますので、その判断をしっかりしたものにしましょう。
八柱第二本は第三本と比べると造型的に見て、首をかしげてしまうような字も散見できますが、宋時代以降の自由な発想を持った書き方をしていることに価値を見出して臨書しましょう。そして、王羲之を崇めた米芾の書であるかもしれないという点も重要な要素です。俯仰法も用いること、つまり筆管を軽く進行方向に傾けて運筆することと左傾は思い切り表現してみると良いですね。「祟」のように逆に傾いているような字句は選ばないことです。

[岡田明洋]

随意部

藤田 紫雲
波勢を有した横画が重厚なリズムを表現した。
長野 青蘭
ややおとなしくなりすぎたか?だが真摯な臨書態度が良い。
小田 一洗
石刻文字を筆で書くという意識で臨書した。大いによし。
山木 曄真
黄山谷の強さを更に追求しよう。二行目は墨不足です。
【選出所感】
春光会のみなさんが随意部にも出品されるようになってきました。範書を見ながらでも表現の幅を拡げる端緒となると思います。出来れば、お手元に法帖を求めて相棒にしていただくと良いですね。自分の好みがわかったら、それとお付き合いして、その良さを更に理解していけば、書がますます面白くなると思います。
今回は半分くらいの方が行書でした。行書は「行押書と呼ばれ、相聞するものなり。」とあります。相聞とは、消息を通じ合うの意ですので、尺牘つまり、手紙文の時に用いる書体ということになります。
王羲之一族は東晋の名門ですが、その方々がやり取りしていた手紙文の中で次第に王羲之の書き振りが範とされるようになりました。行書は、読みやすさ、書きやすさ、美しさを兼ね備えているものですから、今日でも書を学ぶというと行書を鍛錬するということになっていきます。

[岡田明洋]

実用書部

鈴木 藍泉
細字の線の字肌が美しい。運筆がスムーズなのでしょう。
松葉 圭子
懐の広いペン字が目を引きました。細字更に細さを!
【昇段試験対策】
地名の箇所に普段書かない仮名が入ってしまいました。筆運びが難しい”え・び・の”ですから厄介です。柔らかさと伸びやかさを表現しましょう。それ以外の漢字の地名を書くとき、細字と言えども、しっかり起筆のところで一端筆を止めてから運筆しましょう。ここで筆圧を確認することで線の太い細いの変化をつけることが出来ます。左払いは穂先をまとめながら、ゆっくりはらいます。右払いは一度筆を止めてから、ゆっくり右にはらいましょう。
ペン字の地名は、画数の少ない文字ばかりです。一本の線の美しさと空間の取り方が評価されます。線の肥痩にも留意しましょう。和歌は二字連綿と三字連綿がありますが、それぞれ下の文字が少し右にずれています。つまり重心移動して流れを出しているのです。漢字の中の空間は広くゆったりと書きました。文字の中の空間と右払いの伸びが全体をおおらかな書き振りにしています。

[岡田明洋]