2024年07月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

実用書部(昇段試験合格者)

※作品は押すと単体で表示されます

内海 理名
三体ともゆったりとした線、懐の広い結体で、見事師範合格。
和田 平吉
ペン字二体に安定感あり。細字の起筆に冴えが生じた。
市川 章子
細字の力強さ佳。横画に一層の安定感を。ペン字線の伸びが良い。
松葉 圭子
細字、ペン字共にお手本の理解力に優れた作。ペン字の大きな構え佳。
【選出所感】
実用書部において、二名の方が師範に合格されました。理名さん、平吉さん誠にお目出とうございます。
ペン字と細字を合わせて1つの部門としましたが、筆記用具が異なることによって、操作法も変わってくるので、両方に高評価を得ることは大変なことです。
ペン字はややペンの角度を寝かすようにして右サイドのヘリを用いるようにすることで切れのある横画が生まれます。縦画の場合は、少し引いてから人差し指の力を軸に入れるようにすれば、ペン先が開いて、太めの縦画が表現できます。転折の時は、横画スッキリ、縦画でペン先を開かせるようにしましょう。和歌は縦画をゆっくり引いて縦への流れを大切にしてください。市名は懐を広く横線の円運動を心掛けましょう。
問題は細字です。やはり硯で墨をすって墨色の吟味も必要となります。唐楷を基調としていますので、理知的な構造を組み立てるように心掛けましょう。総じて早書きは避けましょう。

[岡田明洋]

漢字規定部(初段以上)

平垣 雅敏
花字やや軽くあるも、それ以後の充実感あり。
中山 櫻徑
中鋒的な運筆、左傾の結体が見事な草体。覆に大きさを!
長野 青蘭
淡白な感じがするものの、起筆の扱い方にリズムが生じた。
山河 恵巳
董其昌のような余白の意識が生まれた。行書に磨きを!
門田 容子
一、五文字目の墨量よし。覆にも墨をいれたかった。
川原 礼子
字形はよいが、前者に比べ、陰影の変化に乏しい。
西村 真粧美
素直な運筆が良い。更に線の肥痩に工夫を欲します。
浜田 恭子
真面目な取り組みが伝わります。筆の連続性を考えよう。
【選出所感】
すべてが見映えのする美しい文字だった為、主なる文字、主なる線を見出すことが出来ずに終わった感じがします。半紙に五文字を収めるときは、一・三・五文字目で墨を入れることにより墨溜りが印象的なものになります。皆さんの作品の中に画数が多い四文字目の簞で墨をたくさん入れた方がいました。、一文字目で墨を入れれば横の四文字目は、渇筆で表現してください。ここに行書の場合、草書を用いてスピード感を出しても良いでしょう。隷書の方は概して大きく、しかもたかさのある隷書になってしまいましたね。「覆、簞」などの縦画の字形も思い切り扁平にしてみましょう。「水平、垂直、扁平」が大原則です。北魏楷書は必要以上に力を入れてしまい爆発してしまったようです。気満の精神を内側にこめてください。唐代楷書は横画細く、縦画太くをもっと意識的に表現しましょう。行書の方は俯仰法つまり陰陽法を用いてすべての面を表出するつもりで書くと良いでしょう。その中の一本が左手線ということになります。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

生田 美穂
落ち着いた運筆。しっかりとした墨の入りも大いに良し。
鈴木 昊
縦画での沈潜とした運筆が目を引く。読の字懐広く!
【選出所感】
平成の書道界をリードされてきた古谷蒼韻先生の生誕100年を記念しての「生誕100年古谷蒼韻展」を拝見してきました。最終日は雨の中大変でしたが、京都文化博物館は大層な賑わいでした。知り合いの先生から古谷蒼韻先生の図録と「木鶏艸堂書話-古谷蒼韻のことば-」という冊子も頂戴しました。その中で臨書の重要性も述べられていますが、それとともに運筆法について、とにかくゆっくりと書くように指導されています。「筆圧を崩さないで、遅速で書くことです。自転車の遅乗競争のようなものです。」と走書きすることを戒めています。また、「八割ゆっくり、二割早書きで書きなさい。」と具体的な数値まであげられています。私が近頃「四季の書」で述べている俯仰法で書くことも推奨されています。つまり筆管が進行方向に微妙に倒れることで手がスッと伸びることもおっしゃっています。是非皆さんも今一度ゆっくり安全運転でご自分のフォームを観察して筆を進めてみてください。

[岡田明洋]

条幅部

藤田 紫雲
やや淡白な感もあるが、伸びのある縦画に魅了された。
長野 天暁
まとまりすぎた北魏楷書。メインの字の活躍を。
竹本 吟月
もう一つ表現力を用いてもよかった。大胆な運筆を。
遠藤 衣月
高校生の力作、下部の字も扁平にしたかったか。
【選出所感】
「四季の書」ということもあり、学生部も一般部もそれぞれ季節感のある語句を選んで課題としていますが、一番難しいのは、この条幅の課題です。原則、奇数月は、五言絶句、偶数月は七言二句ということにしています。詩文を選ぶときには、核となる文字が二行目の二・三文字目になることが大切です。今月の場合、まさに”洗墨戯”がその役割を果たしています。ここの存在感の有無が作品の出来に大きく影響します。掲載された作品は、書体はことなるものの、そのあたりを上手に表現されています。
高校生が何人か条幅に挑んでくれていますので、構え方について述べてみましょう。床に毛氈(もうせん)を敷いて書くときは、左膝を立てて書くと良いですね。右膝を立てると腕の動きを邪魔してしまいます。左膝を立てれば、右腕が大きく動くようになります。以前静岡の講演会で杭迫柏樹先生がお出になったときにもそのように示されていたのが、鮮明に記憶に残っています。

[岡田明洋]

臨書部

奥田 友美
紙面上に左傾の造型を巧みに表現した。線の充実感も佳。
市川 章子
やや小粒なれど精緻な運筆で、米芾らしき運筆を表現。
【選出所感】
蘭亭序の八柱第二本を臨書して半年になりますが、本当に米芾が臨書したものではないかと思ってしまいます。
大学生の時は筆路が明確な第三本がとっつきやすかったです。それは馮承素という敷き写しの名人による模本だったからでしょう。楷書が完成した時代の三折の法、つまりトン・スー・トンというリズムと右上がりの構成を獲得した書人によるコピー本であったので、楷書人間である私たちにとって最もなじみのある表現だったのでしょう。私の勝手な造語ですが、楷書的(風)行書と呼んでも差し支えないと思います。それに唐時代の法を重んじる書き方が加味されてより一層第三本を重要視することになったのだと思います。
それに比べると第二本は西川寧先生が言われるところの「米芾以降宋代の臨書本」ということで、とても個性を表出した書き方になっていると思います。今回の臨書課題では、亭や事の左傾の大胆な傾け方にびっくりします。

[岡田明洋]

随意部

藤田 紫雲
線の細い太いに更に留意したい。二行目の充実感あっぱれ!
大村 紅仁乃
王羲之の碑をいかに毛によって描くかを考えよう。
小野 幸穂
起筆を更に鋭利なものにしたい。夏の筆圧良いです。
山川 清玄
起筆をしっかりと蔵鋒にしました。横画もっとゆっくりと。
【選出所感】
昭和60年、東京倶楽部で開催された趙之謙展に青山杉雨先生と古谷蒼韻先生が並んで趙之謙について談笑されているのを今でも思い出されます。古谷先生が芸術院賞を受賞された時の推薦者が青山先生ということでしたので親密な仲でもあったのですね。「木鶏艸堂書話」に記されています。軍隊に行くときに法帖「大観帖」一冊だけもってでかけられたようです。王羲之・寂厳・佐理の書状・自叙帖・光悦の書状・良寛・木簡などの軌跡が「木鶏艸堂書話」に記されています。そして「文字の一字一字を活かすことだけで、古典の何によろうとか、もう一切無いです」と書作への思いを述べられています。
私自身は新出土の肉筆文字が好きで、里耶秦簡やら雲夢睡虎地秦簡などの臨書をくり返し行っています。そして、俯仰法とか陰陽法とか左手法とかを意識していますが、そのようなものに束縛されない自由な書がいつ書けるのだろうかと不安が頭をよぎります。

[岡田明洋]