2024年05月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

長野 青蘭
八分隷を落ち着いた心持ちで、統一感をもって仕上げた。
永嶋 妙漣
やや小粒な造像記調ですが、余裕を感じる作品。
鈴木 藍泉
豊かな線質と、俯仰法がマッチした。渇筆も表現したい。
小野 幸穂
分間の美に優れた唐楷です。更に迫力望む。
川原 礼子
起筆の鋭利な感触が素晴らしい。転折の切り替えも大変良い。
大場 愛
とてもスケールの大きな作。筆力も漲り大いに良し。
遠藤 衣月
造像記の学習から、気満の精神を得ようとしている作品。
浜田 恭子
滑らかな筆致でよい。更に本当の気脈を追求したい。
【昇段試験対策】
「槐夏午風清」左上から。この体は唐楷風、とくに欧陽詢の筆法を用いての範書です。(これは特級以下の楷書と同じです。)知性、理性が感じられれば良いです。厳しい起筆を表現する為に、硯のヘリで毛先を研ぐと良いでしょう。行書も米芾の書が念頭にあります。まずは左傾を考えると、紙面上の統一感が生まれます。文字の右上に逆三角形のような空間が生まれれば、左傾のスタイルが表現されていることになります。この一年、俯仰法なる用筆を推奨していますが、紙の裏に、真っ黒に墨が入っていればしめたものです。隷書は八分隷の代表的な曹全碑から集字したものですが、私が書したものは、幾分、ひ弱なものになってしまいました。皆さんはもう少し、肉太なものを書くようにしてください。やはり墨の印象は大切です。そのような意味で、最後に掲載した北魏楷書風の範書は、ある程度納得のいく書き振りとなりました。どの体でも、”気満”の意識を持って筆をお取りください。健闘を祈ります。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

江川 朋美
基本に忠実な入筆。筆圧の安定感もあります。
鈴木 昊
力みなく、自然体の伸びやかな線が良い。
【選出所感】
「和氣皆暢」左上から唐代楷書風。姿勢の正しいスマートな形をイメージします。特に楷書の極則と言われる九成宮醴泉銘を意識しましたので、背勢を心掛けてください。空間を均一に取ることも大切です。行書は米芾行書を基盤にしていますが、近頃「羣玉堂帖」をよくしているために、いつもよりは、連綿・抑揚の変化が多くなっているかもしれません。ただし皆さんは少し墨量が少なくスピードを出しすぎて線ががさついてしまっているようですので、豊かな線を表現するように心掛けてください。草書も米芾の「羣玉堂帖」の前半の草書を学んでいますので、その影響が出ているかもしれません。ゆったりと伸びやかな情感溢れるものとしていただけると嬉しいです。円運動を利用し、線の行く方向に軸を傾ける、いわゆる俯仰法を用いてもらえると良いでしょう。篆書(小篆)は、趙之謙や胡澍などの清朝の金石家の書いたやや動的な要素を持った書き方にしました。側筆的な線を用いてくれるとその趣が表現できると思います。

[岡田明洋]

条幅部

長野 天暁
扁平な結体を生かし、紙面堂々たる作品とした。
中山 櫻徑
細線を用い、リズミカルな運筆とした。墨量を望む。
藤田 紫雲
端正な初唐楷書を狙ったが、客・酔・眠に乱れが生じた。
内海 理名
墨量豊かな紙面を描いた。中心をもっと意識したい。
【昇段試験対策】
<条幅A>
左上から解説していきましょう。
北魏楷書風のこの作は、蔵鋒を駆使して重厚な線を表現しましょう。詩には、薄き翅(はね)とありますが、北魏楷書風に書く時は、表現としての墨の印象は大切なものとなります。一行目は画数が多く、偏旁の字が多くてよいのですが、二行目後半でボリュームを落とさないようにしてください。行書・草書はなるべく風韻を大切にした東晋王羲之の書き振りを表現しようとしましたが、上手にはいきません。米芾・褚遂良・王羲之を一本のラインだと思って、行書を習っていただけると良いと思います。また、作品化するためには、条幅の場合、二行目の二・三文字目に主張すべき字を配置することが大切になると思います。隷書はどうしても私の場合、木簡主体の表現となってしまいますが、ひ弱な線にならないように、漢碑の持っている厳直な石刻の要素も取り入れることも重要だと思います。
<条幅B>
こちらも左上から説明していきましょう。
唐代楷書を基盤としていますが、その中の縦画の起筆に左手的な線を用いてみました。筆圧が強くなるとともに、四角の中の空間が広くなるので、大きさも表現できたかと思います。あくまでも試行作品です。
北魏造像記楷書調です。この中にも左手的な線がありますが、更に大胆に筆圧を加味しました。縦画の場合、下に引く際に、手首を紙面に近づけるようにしてから、肘で引く方法を試してみてください。筆力が発揮できると思います。この字面は行書でよいかなと思いましたが、長脚の二本(歸と酔)が近くにあるので、表現としては、難しい題材となってしまいました。明清あたりの長条幅の感じを取り入れました。
さいごは秦代の里耶秦簡ベースです。小篆を走り書きした動的な要素が欲しいところです。「花」は秦代にはない単語ですので、「華」を借用しました。

[岡田明洋]

臨書部

市川 章子
小粒ながらも、伸びやかな線よし。造型も安定している。
澤森 順子
近頃の充実感が花開いた作。懐の広さ大変良いですね。
【昇段試験対策】
今年から始まった八柱第三本蘭亭序は褚遂良が臨書した蘭亭序と称されていたものの、実は米芾、もしくは宋代以後に臨書された蘭亭序でした。この第三本が昇段試験の課題になります。まだ二十字しか扱っていませんので、条幅で仕上げる準師範の方は、それ以後の場所でも構いませんので、句読点で句切れのよい20字以内の文言をご自由に選んで出品してください。
ここ三ヶ月ほど、蘭亭序八柱第三本と比較してきましたが、この第二本はやはり宋代の自由さや個性というものが主張されている書き振りであることが一番の特徴かと思います。初唐楷書のような、法則的な臨書ではなく、逆入やら、蔵鋒などという中唐の顔真卿が表現した技法をも巧みに用いていることを念頭に置いてください。そのうえで、右サイド、頭でっかちの空間処理を大胆に表現してもらってよいでしょう。更に中心の移動を心掛け左傾のスタイルを構築し、流れのある蘭亭序の臨書作品を書きあげてください。

[岡田明洋]

随意部

大村 紅仁乃
爨龍顔碑を気力充実の線で表現してくれました。左手線よし。
小田 一洗
筆力の切り替え、肥痩の変化が素敵です。
小柳 奈摘
木簡臨書。更に、大胆さ、伸びが加われば、鬼に金棒!
竹本 萩雲
爨龍顔碑二字の臨書。このような方法で筆力を鍛えよう。
【選出所感】
東京の清水松塢先生が主幹されています「青硯」という競書雑誌に”書を楽しみたい人々の為に”という文章を毎月寄稿しています。今年70周年を迎える老舗の競書雑誌です。もう8年ほどたちますが、今年になってから、秦の始皇帝が文字統一をしてからの肉筆文字をテーマにして紹介しています。その中で、左手的な線を用いて書かれている文字をピックアップして、左手的な線を探しましょう。とお声掛けしています。「ウォーリーを探せ」ではありませんが、いわゆる左手で書いたときのような、右サイドに毛先が出る線は書写の段階では見たことがありませんから、びっくりされています。いわゆる楷書的な側筆の線(毛先が左サイドに出る線)篆書的な中鋒(毛先が線の真ん中を通る線)に加えて、左手的な線です。そして、私の率直な感想ですと、左手的な線を用いた線が一番強靭な線が生み出されているようです。そのような作品をここ二か月「四季の書」の参考手本にしました。

[岡田明洋]

実用書部

鈴木 藍泉
毛筆・細線を駆使して冴えを生みました。ペン字も安定。
松葉 圭子
共に懐の広い温和な表現が心を和ませます。
【昇段試験対策】
既に、昇段試験の課題に取り組んでいる方が、私のお弟子さんの中にもいます。お書きになったものと一緒にプリントアウトしたお手本を持ってきてくれるのですが、それを見てびっくりです。掲載されているお手本の印象はさほど悪くないと思っているのですが・・・字形には好みがあるので仕方のない点もありますが、線の肥痩・緩急はそれなりについていると思っていたものの、プリントアウトされたお手本は、感覚的に30%くらい太くなってふやけた印象を与えてしまっているのです。画面上で拡大・縮小の操作が出来ると思いますので、原寸サイズのお手本の印象でお習いになっていただければと思います。
ペン字はペン先の角度を変えることで、ペン先の開閉を生かして、線の太い細いを表現してみてください。
毛筆は、筆管の直筆・側筆で線の肥痩が変わりますので、落ちてついて筆管の角度を操作してみてください。走り書きは絶対にやめましょう。

[岡田明洋]