2024年02月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

藤田 紫雲
奇を衒うことなく、オーソドックスな行書作とした。
竹本 萩雲
横画への力の入れ方が改善された気力充実の作。
内海 理名
波勢のリズム良し。更に波磔をしっかり表現したい。
和田 平吉
滑らかな草隷。王羲之への流れを理解しましょう。
齊藤 睦
やや硬直した感があるものの、意欲的な取り組みよし。
河合 紀子
筆圧に優れた作。余白を意識して少し小粒に書こう。
川口 賢子
前者同様にやや小粒に!連綿線への意欲を感じる。
山川 清玄
実直な書き振り。更に扁平を心掛けよう。落款行書で!
【選出所感】
範書中の北魏楷書に挑んでくれた方が大勢おりました。この中には、左手的な線が随所に用いられています。「尊」の四画目、「柏」の七画目、「酒」の五画目は、一目瞭然。毛先が右サイドにあります。これらが左手的な線です。この線を用いると、線がとても強く表現されます。唐代楷書にはあまりない技法ですが、王羲之以前にはかなり用いられている用筆法です。今回は草隷も多かったですね。隷書を親とする書体ですが、隷書のように扁平一辺倒ということはありません。縦型の造型になっても構いません。右上がりの構造をもっていますが、隷書のように左サイドが広くなることを常に意識しておかなければなりません。この草隷の延長線上と言いますか、進歩系が王羲之の書となるのだということを思ってください。そのように考えますと、王羲之行書は左サイドが長く、広い結体をしています。葉の木の左右の点の位置にも工夫してみましょう。行草の方は少し線が荒いので、墨量は多く、スピードは少し遅めに書きましょう。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

遠藤 衣月
起筆の滑らかさ、線の伸びやかさに若さを感じる。
浜田 恭子
送筆部における墨の入り方が伸長した。この調子!
【選出所感】
いわゆる美文字という概念を求めて書道を習おうとしている方に簡単なアドバイスをすれば、指先に無用な力を入れず、等間隔な右上がりを心掛けることです。ある書籍には、右上がりの角度を七度とする七度法を唱えているものもあります。分度器を用いて書くことはできませんが、等間隔が表現できるだけで美しいと感じることでしょう。新規から6級くらいの方の作品を拝見すると、起筆や収筆で力を入れすぎてしまった為に、等間隔が出来ていないようです。横画の場合は、あわてることなく、45度で入筆し、毛先の弾力を充分に見てから右へ進むと良いでしょう。筆の用い方としては、墨池の深さの半分以上に墨を入れ、しっかりと筆の根元まで墨を入れてから三日月のヘリで毛先を整えるように墨を少しぬぐうと良いでしょう。横画も縦画も起筆の形と収筆の形が同じ形での止めが出来るようにすることにも留意してください。

[岡田明洋]

条幅部

永嶋 妙漣
存在感のある線でよい。墨量だけでなく、線の充実感を!
藤田 紫雲
やや、文字が大きすぎたが、伸びのある横画が良い。
鈴木 藍泉
もう少し打楽器的な強さがあっても良かった。字形良し。
長野 青蘭
漢碑調の誠実な書き振り。道・泰に大きさを!
【選出所感】
時雍き道泰し。時代が平和になれば、天下泰平である。ウクライナ、ガザ地区への攻撃が毎日のように報道され、世界中がいつ戦火に塗られるかわからない。不安定な状況の中にあります。この課題を範書であるところの秦隷で書いてくれる方はいませんでしたが、各自が関心のある、普段学んでくれている書体で半切に書してくれました。
いつもの二行、十四文字か二十文字を書くのではなく、大胆な筆遣いで気を吐くのは、楽しいことかもしれません。
半切四文字を単に二倍角して書くなどという意識ではなく、何をテーマにして紙面を表現するかということが大切になります。普通に考えれば、二文字目の「雍」が主役になるように少し大振りで書くことが必要になります。また、三文字目の道のシンニョウをどのように渇筆で活かすかということも大切ですね。紙面における潤渇の変化を考え、より立体的な紙面構成になると四文字が見映えします。

[岡田明洋]

臨書部

天野 恵
細身の線ながら、運筆法に留意した臨書作とした。
川原 礼子
俯仰法を用いての運筆の為、裏面にも墨が入った作。
【選出所感】
褚遂良が臨書したといわれている八柱第二本の蘭亭序ですが、実は宋代における、米芾、もしくは米芾以後の臨書本であったことは、今月号の臨書部手本解説に述べたとおりです。
私の間違った選択にも関わらず、みなさんとても、しっかりと鑑賞された後に、臨書してくれました、その様子が、作品を通してひしひしと伝わってきます。
一画目の点の位置は、二画目の中心線により、右に打っています。それによって、胸を反り返したようなフォルムをつくっています。この縦画の蔵鋒的な力強い線を見逃してはいませんね。左右の払いは”八柱第三本”などと比べると細く、つつましい払いです。「和」のノギヘンの頭でっかちな造型はまさに、米芾の蜀素帖の中に出てくる「和」に酷似しています。「九」の二画目の点で打ち込んだ起筆と、伸びのある横画、力が充実しています。年の左サイドの大きな連動、これなども米芾の虹県詩巻中の年によく似ています。

[岡田明洋]

随意部

長野 天暁
爨龍顔碑を雄大なスケールで表現した。落款一考。
小田 一洗
隋の墓誌銘。横画の伸びが見事。縦画の収筆慎重に。
長野 青蘭
水平・扁平の造型を追究した。起筆のタッチもう一研究。
奥田 友美
スックとした伸びやかな唐代楷書を理知的に表現した。
【選出所感】
私のお弟子さんたちの随意部への出書が激減しています。そんな中で「時雍道泰」の出書が何点かありました。私の書いた範書を見てくれてのものだと思います。年の初めの平和を希求する私の思いが伝わったのでしょうか。
奈摘さんは、高校を卒業してから隷書を良く書いてくれていますが、今月から箽其昌の臨書に取り組んでいます。又、春光会の方が、範書の曹全碑をご覧になって臨書をされていますが、隷書は草・行・楷の親ですから、それらの基本的な造型を理解するには、うってつけの書体だと思います。
今回の範書はすべて、私が書きました。秦の里耶秦簡・漢の馬圏湾前漢簡・漢の額済納居延漢簡・南朝宋の爨龍顔の臨書です。馬圏湾前漢簡は本当に上手な竹簡の八分隷書です。漢代一級品の礼器碑、乙瑛碑になんら劣ることない隷書です。あとの三体には、左手的な線が用いられています。是非その線を探し当ててください。

[岡田明洋]

実用書部

永嶋 妙漣
地名行書の筆圧の変化、字形は皆の範となる。
竹本 萩雲
やや細字が荒れているが、ペン字は伸びのある作。
【選出所感】
何となく今年はよい事あるごとし元日の朝晴れて風無し-石川啄木の「悲しき玩具」より書しました。
新しい一年が不安定な世界状況を払しょくし、希望に満ちたものになってくれるようにと念じて、この歌を課題としましたが、元旦に発生した能登半島地震、翌二日の羽田空港での航空機事故。心痛める出来事が続く年明けとなってしまいました。
ペンを執るときも、みなさんこの二つの出来事を念頭において、真摯に取り組んでいただけたのではないかと思います。「言葉には魂が宿る」と言われています。良い言葉を言えば、良いことが起こり、逆に悪い言葉を使えば、良くない出来事が起こるというものです。
「何となく今年はよい事あるごとし元日の朝晴れて風無し」と唱えながら、亡くなった方々のご冥福を祈って、今一度ペンを執っていただければと思います。

[岡田明洋]