2024年01月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

平垣 雅敏
筆圧の切り替えが効いていて、剛と柔を表現した秀作。
山木 曄真
側筆を巧みに用いながらも気も満ちた作。「時」大いに良し。
山河 恵巳
ダイナミックな運筆。豊かな懐の広さも良し!
天野 恵
緩急の変化があり、文字の回りの余白も美しい。
川原 礼子
しなやかな線が魅力。更に筆圧の変化もつけよう。
河合 紀子
草書の持っている流れを表現した。鐘と時の変化も良し。
大場 愛
円運動を上手に用いながら流れを出した。落款一考。
金井 万由美
息の長い左右に伸びた横画が見映えする。
【選出所感】
今年より、漢字規定部初段以上の掲載数を倍増します。初段から六段までで4点、準師範・師範で4点とします。
前回の昇段試験の際、初段から六段までの方がなかなかしっかりした作品をお書きになっていました。掲載されれば、もっとやる気になるのではないかと思います。
提出される作品は一体ですが、毎月正式書体(楷書・隷書・篆書)と略式書体(行書・草書)を一体ずつ練習して頂ければと願います。特に行書や草書を書く時に筆の進む方向に軸を少し傾ける俯仰法が身につくと、手首が動くようになり、墨の入る量も多くなります。左右の払いをリズムをつけて反故紙(書き損じた紙・ホゴシ)などに、五個ほど連続して書いてみましょう。級の課題「貞桂冬秀」などの行書の気脈が本当に連続性のある書き振りになると思います。俯仰法を陰陽法とも言います。筆の裏表をつかうという意識を以て筆を握ると良いでしょう。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

片瀬 仁美
抑揚の変化に優れ味わい深い線で書作した。貞・秀大いに良し。
佐藤 満弓
初唐楷書、とりわけ欧法を意識した起筆が良い。
【選出所感】
初段以上の所感のところに記しましたが、俯仰法を用いてくれると「冬」などは、とても滑らかな連綿線になります。楷書では一画目に払いますが、①行書では止めて②右上に釣り上げるようにして③折り返した後、左払いを引いて、④今度は筆管(軸)を進行方向に傾けて引いてからハネます。ここまでの動きは①陰②陽③陰④陽となります。これが陰陽法です。俯仰法で考えると①俯②仰③俯④仰ということになります。
又、王羲之の古法と呼ばれる筆遣いには、左手法というものがあります
。「桂」の「圭」を崩した形には、横線は①陽、次の縦線は②陰となりますが、つながった縦線は右下から上にいって毛先が右サイドを通るように引かれています。これが左手法です。噴水のように下から空に向かって。空中で一端止まってから、ストンと直下します。この時、手首を少し紙面に近づけるようにすると筆圧の強い縦線になります。

[岡田明洋]

条幅部

藤田 紫雲
居延漢簡を集字して、伸びやかな線で紙面をまとめた。
中山 櫻徑
やや線が細いが、箽其昌の行書が思い起こされる。
竹本 萩雲
力の漲った書き出しの四文字大いに良し。熟・臘も更に大胆に!
小柳 奈摘
昇段試験の時より、端整な筆致になった。この調子!
【選出所感】
私が普段「四季の書」のお手本を書くに際して、「新書源」より集字しているものとベースにしていることは、以前にお話ししたと思います。いわゆる私の普段使いの集字帖をお稽古の時にお見せしたり、コピーしたものをお渡ししたり、ラインで送信したりしたものを参考にして各自好みの書体で原稿を作ってから作品を制作してもらおうとしました。本当に手間がかかります。お手本を最初から書いてしまえば楽かもしれませんが、やはり条幅位からの作品を制作する方法を伝えていかなければなりません。進捗状況が遅く、出書もままならないと思いますが、一年間この方法を実践していけば、必ず地力がつくと思います。そんな中、葵光会の睦さんには、実用書の和歌一首を条幅に仕上げるという課題を示しました。まさに大は小を兼ねるだと思いますので、一年間継続してみてください。春光会の平吉さんは、曹全碑の臨書に挑んでくれました。「敬・無・遺・闕・是」のような中鋒の線が良いですよ。

[岡田明洋]

臨書部

小野 幸穂
ゆったりと懐を広くとり暢達な草書臨書とした。
市川 章子
奇を衒うことなく、伸びやかな線で素直に臨書した。
【選出所感】
智永の真草千字文の臨書を今回で一区切りつけさせていただきます。十分な解説とは言えませんが、私の解説文を読んで、それがきっかけとなり、皆さん自身が関心をお持ちになり、臨書を継続してくれればと願います。
それにしても、智永の真草千字文の線は艶やかで、伸びがあり、美しい線だなぁ、と、うっとりとしてしまいます。
「始」の左サイドは真っ黒くつぶれていますが、書き出しは相当右から書いています。そして、旁の「台」は右端にこじんまりとたたずんでいます。「制」も二画目の縦画がセンター(中心線)近くに書かれています。リットウはやはり右下にちょこんとすわっています。「文」の二画目は、長く本当に頭でっかちに引かれています。下部は俯仰法を用いた後、垂露的な収筆で持ち上げています。「字」もウカンムリと子の広い空間を見逃してはなりません。「乃」の一画目は左手法的な入筆。「服」は月が誤字のように見える方が何人かいました。観察眼を高めましょう!

[岡田明洋]

随意部

山田 淥苑
重厚さに加え、線の伸びにも意を注いだ秀作。
中山 櫻徑
晴れた窓下で静かに読書している様子が窺える作。
平垣 雅敏
鄧石如の隷書の臨書。白髪一本分の白に挑んだ力作。
齊藤 睦
参考範書を見ての臨書。更に自らの裸眼で捉えよう。
【選出所感】
明治・大正時代の書道家はきっと、楷書を崩したのが行書で、更に崩したのが草書だと思っていたのでしょう。ところが、紀年がついていた木牘・竹簡から、隷書を走り書きしたのが草書で、その少しあとあたりから行書が派生して、最後に完成したのが楷書だということが分かるようになりました。つまり、隷書を親として、長男が草書、次男が行書、三男が楷書ということになります。
更に近年、秦隷と呼ばれる篆書を走り書きしたものが出土されています。秦の始皇帝が、文字統一をして、泰山刻石や、瑯琊台刻石などという小篆と呼ばれるものより50年も前の戦国時代の秦から紀元前267年も竹簡が発掘されました。それが天水秦簡と呼ばれます。この肉筆文字資料の中から①左手的な線と②俯仰法という筆遣いが見られるのです。つまり、王羲之書法のルーツは、秦隷と呼ばれる美意識の中にあるのだと思われます。その新出土発見の中にいる私たちは、もっと書の存在を楽しむべきだと思います。

[岡田明洋]

実用書部

鈴木 藍泉
細字・ペン字とも力むことなく静かな調べを奏でた。
永嶋 妙漣
もう一作とは対照的にペン字で強靭な線を引いた。
【選出所感】
会も段級も関係なく、前回指摘した右転折を二回に分けて作るという方法を実践してくれたのだなぁ、と思う方を列記してみます。圭子さん、章子さん、平吉さん、恵さん、紫雲さん、理名さん、礼子さん、奈穂さんと掲載されたお二人です。作品の横画・縦画の線の細い太いがしっかり表れているからです。平吉さんは、前回の昇段試験に比べると見違えるように線が伸びやかになりました。横線スッキリ、縦線どっしり切り替えが見事です。それでもまだ、前傾姿勢(左傾)になっていますね。払いのタテ画がいずれも倒れてしまいます。起筆のところで、しっかりと筆を立てた後、すこし回転させて、線の中心に毛先が通るようにします。ペン字の行書は左傾で構いません。”ひさかたの”などの仮名のパーツは、もっと振幅を広く狭くと強弱をつけましょう。”ふ”の左右の振幅にも注意してください。左払いのある石・裾・原は下部は右に移動させてバランスを取ります。

[岡田明洋]