2023年12月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

宮﨑 蓮㳺
居延漢簡の草隷からの集字。冬・勝の潤筆大いによし。
和田 平吉
秦簡をベースにして伸びやかな筆致が見事。
小田 一洗
隋の楷書をモチーフにして切れある横画が冴える。
齊藤 睦
史農碑あたりの漢碑を基にして落ち着いた作とした。
【選出所感】
中学生の所感欄に、線ががさついている状態についてのアドバイスをしましたが、皆さんの作品は総じてこの指摘とは逆に墨が線からにじみ出ている方が多かったように思います。特に師範の方にその傾向が顕著です。日頃、含墨は多くと言っているのですが、毛先に多くの墨をつけても、①筆圧を軽くして、ややスピードも速めにすることで、墨が流れ出ないようにしたり、②機敏に毛先をS字にして流れを食い止めるようにすると必要以上のにじみはなくなります。墨の用い方についての一工夫をお願いします。
比較論で言いますと墨量不足より、にじみすぎの方が良いので、私の指摘が副作用にならないようにお気をつけてください。
私のテーマにしている秦隷への挑戦をしてくれる方が増えてきましたので、左手法とか俯仰法と呼ばれる、いわゆる古法についても説明していこうと思います。不思議ですが、「王羲之のルーツは、秦隷ではないか」と独断で、この論を解き明かしていきたいと思っています。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

桒山 ひとみ
気持ちの大きな書き振りが良い。ゆったりと書こう。
深澤 真紀子
行書の流れを大切にした筆運びに感心。「精」大いによし!
【選出所感】
「菊有精神」半紙に四文字が基本点画を練習するには適当な文字の大きさだと思います。墨をたくさんつけて、毛先の弾力を生かして、紙に向っていきましょう。
楷書と行書、ほぼ同じ出品比率でした。先月号の実用書のところで示したように「転折のところは、二画で書く意識を持つことが大切です。」を半紙楷書で実践してくださったかたがいます。満弓さん、敬さんの筆遣いからその様子が伝わってきます。楷書は起筆と収筆のところの毛先の用い方に注意しなくてはなりませんが、転折が重くならないようにする為に、横画で一度筆を紙から離して、再度縦画を打ち直すようなリズムを用いて書きましょう。すっきりした転折になりますよ。行書で書かれた方は、もっと俯仰法を用いてみましょう。筆管を線の進む方に軽く傾けてかきます。特に左右の払いを書く時には、裏まで墨の入った払いが引けると思います。

[岡田明洋]

条幅部

長野 天暁
横画の伸びを主張した堂々たる北魏楷書です。
中山 櫻徑
線の柔らかさが目を引く。懐の広さも見映えする。
内海 理名
呉譲之の隷書をヒントにして、秀麗なる隷書とした。
藤田 紫雲
黄其昌・米芾あたりの香がする。更に筆圧を強く!
【選出所感】
今年度、最後の五言絶句の課題です。祖詠の詩を行書で範書しました。時節が感じられ字面的に見ても、偏旁の文字がちりばめられていて、潤渇がつけやすく、行書で書けば流れが表出しやすい構成になります。なにより紙面に充実感を与える「表明霽」が二行目の二・三・四文字に配置されているのは、強い味方です。よって、範書のような行草書だけでなく、北魏楷書によって、隷書によっても書き映えのする詩句でした。
私の書いたものは、米芾の文字を集めてかきましたが、行書で出書された方は、墨継ぎの位置や字の振幅が、各自異なっています。それが、その方の呼吸だと思います。墨のつけ方は、皆さんの普段の呼吸のリズムを反映しているのです。写真版に選出された櫻徑さんと紫雲さんの違いから何かを感じ取ってください。近頃、俯仰法を推奨していますが、お二人ともその意を汲んで表現してくれています。12月は、七言二句に思いを馳せてください。

[岡田明洋]

臨書部

奥田 友美
円運動が見映えする規模雄大な作とした。辞の気脈一考
大村 紅仁乃
側筆を巧みに用いた。一行目が墨痕鮮やかでよし。
【選出所感】
智永の真草千字文の節臨は12月で終わりといたします。真蹟の智永の草書は王羲之の影響を受けていると言われています。中国の政治家であり、文学者であった郭沫若先生は、蘭亭序は、隋の智永の作という説を唱えました。ただ、この説は否定されている傾向にありますが、王羲之と智永の書が良く似ているという証にはなると思います。
「辞」の草書体は、隷書の「辭」を知らないと書けないですね。隷書を早書きして、草書になりました。円運動を用いて、重心の低い文字構造を心掛けましょう。「若」も「思」も「辞」も「定」もすべて頭でっかちの重心の低い文字です。これこそ、王羲之の美意識なのでしょう。
最後になりますが、智永の千字文は、王羲之の影響を多大に受け継いでいますが、それは、南朝の豊かな穀倉地帯における経済力に裏付けされた文化の表れであると思います。
草書と言えば、王羲之、智永、孫過庭という一つのラインを絶えず念頭に置いて学書して頂ければよいでしょう。

[岡田明洋]

随意部

藤田 紫雲
裏までしっかりと墨が入っている。将に入木の作。
鈴木 藍泉
自身の眼で古典の技術と精神を取り入れてる努力が素敵。
長野 青蘭
前の藍泉さんに続き、自身の眼を鍛えていこう。
中山 櫻徑
近頃、線に伸びが出てきた。この調子をキープしよう。
【選出所感】
各自がめいめい自分の好きな古典作品を選んで、それを自分の眼(鑑賞眼)でとらえて、自分の腕と指を用いて、臨書していただければと思っています。「四季の書」を開設してから三年が過ぎようとしていますが、その中で、各自が好みに合わせて臨書勉強をしてくれようとしていることを嬉しく思います。当然、私の好んでいる古典を選んでくれる方もいます。
師法をそのまま鵜呑みにするのではなく、自分の眼を鍛えることをおろそかにしないようにしましょう。師のお手本に追随するのではなく、師の習ったところを習うような態度の方が良いでしょう。あくまで自分の眼で見て、自分なりの視点で素直に臨書してみましょう。それが栄養となり、自分の右腕が鍛えられるのだと思います。
先生がお手本を書いてくれなくなったら、見捨てられたなどとは絶対に思わないで、対象の古典との会話をしっかりと楽しんでみましょう。

[岡田明洋]

実用書部

内海 理名
細字・ペン字共に線の伸びに魅了される。
天野 恵
筆圧強く、懐の広さもゆったりとれていて佳。
藤田 紫雲
ペンの肥痩を巧みに用い、温和な作とした。
萩尾 惺雲
毛筆における起筆の美しさ・安定感抜群な作。
【選出所感】
準師範に理名さん、恵さん、紫雲さんが合格されました。いよいよ春以降は、師範への挑戦となります。一番の難関は、細楷ということになります。文字の構造に安定感がないと、唐代楷書を規範としたところの細楷は上手に見えません。右上がりの統一と三折の法を常に心がけましょう。11月の実用書の細楷のお手本を書く時には、まだ「転折の所は、二画で書く意識を持つことが大切です。」この方法を実践していませんでした。この対策の言葉を実行して頂いたかたと、そうでない方の転折の出来には、明らかにすっきり感、切れ味感が違いました。私の小学五・六年生の生徒にも少しずつこの方法を言っていますが、リズムが出来てきて、歯切れの良い転折になっています。行書は私の普段勝手の書き振りを「ちょっと気取って」書いたものですが、皆さんの出来も良かったように思います。和歌は、一首目と二首目の字幅がやや乱れたように思われます。二首目のふり幅がやや弱かったようです。

[岡田明洋]