2023年09月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

藤田 紫雲
懐の広さ、聲の縦に伸びる力強さ、規模雄大な作
平垣 雅敏
強靭な線、どっしりとした造型が北魏楷書の魅力を表現。
小野 幸穂
理知的な構築性が見事です。落款も調和した。
山木 曄真
筆力雄渾、特に聲の粘りのある円運動が目を引く。
【選出所感】
今月の課題は複体の字が多く、しかも画数の変化もあるので、比較的書きやすかったと思います。各体とも力作が多くありました。秦隷と呼ばれる篆書から隷書に移行する書体に興味を持っていただいての出品が多かったのは、この書体をモチーフに書作をしている私にとっては嬉しい審査でした。蔵鋒の入筆と呼吸の長い曲線を用いると数段上達すると思います。更に左上の墨量を多くすることと、大きな空間をもって構成することも心掛けてください。楷書、行書、草書で書作された方も優劣つけ難かったです。二段から六段の方は着実に力をつけているように思われますが、今一度、落款に注意してください。本文に対して落款が大きすぎたり、小さかったりしていませんか。本文が草書なのに、落款が行書なのも運筆の速度から言っても不自然だと思います。昇段試験の準備をされる方は、複数の書体を出品しますので、落款の書き分けも必要になってきます。字典でご自身の好みの書体を見つけ出してください。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

松久保 美幸
起筆に軽みが生まれ、運筆が楽になりました。
田村 奈穂
紙面を圧する若さが良い。更に円運動を生かしたい。
【選出所感】
画数の多い字でしたので、密度のある紙面にはなったと思います。楷書で出品された方は、唐代の楷書をモチーフにして書かれているので、まずは起筆・送筆・収筆がしっかりと処理されているかがチェック対象です。起筆・送筆・収筆を有していることを”三折の法”と言います。トン・スー・トンのリズムがありますね。起筆が乱れてぼさぼさになっていませんね。送筆部では、裏にしっかり墨が入っていますね。収筆部では抑えすぎてお団子を作ってはいませんか。二つ目は、”右上り”の構造を持っていますか。”三折の法”と”右上り”が楷書の必要条件です。更に横画の空間が統一されていると美しく感じます。行書の範書は宋代の行書を意識して書いたものですから、個性と言いますか、自己主張と言いますか、そのようなものが強かったので、どうも皆さんの行書作は文字が大きすぎたようです。紙面に対する適当な文字の大きさを考えてみましょう。

[岡田明洋]

条幅部

萩尾 惺雲
やや波法に難があるも、気力の充実が窺える力作。
内海 理名
漢碑隷書を用いながら、オシャレな作とした。
市川 章子
皇甫誕碑をより九成宮に近いものにしようと努力した。
小柳 奈摘
潤筆部の筆力が表現された。更に渇筆を生かそう。
【選出所感】
七言二句の十四文字は難しい。範書を書いていても悪いところが拡大して露見してしまいます。
初唐楷書の方はもう少し文字を小さく書いても良かったです。皇甫誕碑の原帖の横と縦の比率を罫線を基に計測しますと、6.4cm:24cmとなります。皇甫誕碑の様式だと考えるともう少し時間を取る、つまり字粒を小さくしたいと思います。行書の方は二行目の”悟韻晩”をどのように見映えのあるものにするかが鍵となったようです。私の範書にも文字と文字をつなぐ連綿線が一つもなかったけれども、「悟」と「韻」をつなげて密度を上げても良かったかもしれません。
草書を書いた妙連さんは少し力を入れすぎてしまったかもしれません。敬さんは、北魏楷書ですので、もう少し扁平に書いても良かったですね。睦さんの皇甫誕碑は行が左右にぶれなければよい臨書となったでしょう。

[岡田明洋]

臨書部

小野 幸穂
唐楷のスタンダードな書法を厳密に守った秀作。
小田 一洗
やや随の楷書を取り入れた感がある。思考しての臨書。
【選出所感】
朝のテレビドラマ「らんまん」で石版印刷からアルミニウムを用いた印刷へという明治三十年代の印刷技術が語られています。大学時代に徹夜でアルバイトしていた印刷工場(名前は忘れてしまいましたが)のことを懐かしく思い出します。
印刷技術の変遷について、深く知っているわけではありませんが、二玄社発行の”原色法帖選-4 皇甫誕碑 唐 欧陽詢”は本当に美しく感じられます。昭和60年2月20日第一版印刷。製本・印刷は株式会社東京印書館とあります。
大学時代にお世話になった”書籍名品叢刊・1961年初版発行”や”拡大法書選集・昭和52年4月5日”。その後の1999年11月29日初版”篆隷名品選”や2009年4月24日初版の”簡牘名蹟選”隔世の感があります。私の大学生時代には想像すらできなかった”原色”の図版を見て、感じて、観察できる喜びを皆さんと共有していきたいと思います。

[岡田明洋]

随意部

内海 理名
木簡八分隷を真摯な態度で臨書した。横画きわめて佳し。
和田 平吉
範書を見ての張猛龍碑の臨書。更にスケールを大きく。
大村 紅仁乃
俯仰法を用いての褚法の臨書。線に柔硬性が生まれた。
中山 櫻徑
張玄墓誌の温和な書き振りを素直に臨書した秀作。
【選出所感】
あれ、これで掲載されなかったのか、という思うような作品が何点もありました。特に北魏楷書の爨龍顔碑、魏霊造像記、そして隋の墓誌銘、これらは淳社の皆さんがこの辺りの石碑をしっかりと臨書されている証となります。これらの臨書を通して、県展をはじめとした公募展にどのように発展させていくかが、皆さんの課題になってくると思います。古典を真似するだけではなく、二十一世紀に生かすという気概を持っていただけると嬉しいですからね。北魏楷書は気満の書ですから。
紫雲さんの「居延漢簡」。いつも事前臨書を拝見して、私も思案してしまうような当時の方の書き振りがあります。渠と召なども、その造型はどうかなと思います。
万由美さんの集王聖教序。とても強い線で、書いています。石に掘ったものを毛筆で表現するということに挑んだ作かとも思われますし、王鐸を習っても良いかなと思わせるような書き振りです。

[岡田明洋]

実用書部

鈴木 藍泉
墨色の美しさが際立ちます。細部に注意しましょう。
藤田 紫雲
細字やや筆力不足。ペン字に流れあり!
【選出所感】
「四季の書」の8月の実用書の課題は、若山牧水の短歌を引用したものです。「草の穂にとまりて啼くよ富士が嶺の裾野の原の夏の雲雀は」が正しいものです。私の範書は”夏の雲雀は”の「は」が欠字していました。誠に申し訳ございません。気付いて「は」を入れてくれた方もありましたが、「は」がなくても選出対象に致しました。誠に深くお詫びを申し上げます。
細字の縦画が少し太すぎるようです。特に転折部の後の縦画が太くなってしまうのは、まずは、筆管が右に倒れすぎているのでしょう。「知・賀・京」の口、「重」の日、「賀」の貝、「都」の日などをもう一度ご覧になってください。以前にも言いましたように、親指の第二関節をやや左下に下げるような気持になると筆管が立って、細目の線に変質すると思います。横画の起筆でも、中指が筆管を下支えするような感じで軽く紙面に接するようにしてから右に運筆しましょう。

[岡田明洋]