2023年08月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

伊久美 善三郎
欧法を着実に手に入れての書作。肥痩の変化もよし。
山河 恵巳
俯仰法を意識しての草書。書譜の臨書もされたい。
長野 天暁
造像記を肉筆を用いて書いたらという意識を有した。
鈴木 藍泉
米芾の左傾のスタイルを得た。潤渇の変化も欲しい。
【選出所感】
「茶煙永日香」は北魏楷書と隷書で書いた方は意外に苦戦したようです。この二体は、やはり、偏と旁がある複体の漢字の方が、横広になり書きやすいからです。複体が「煙」だけというのは、残念ながらこの二書体においては難しいようです。二行目が小さく見えてしまうという欠点もありますね。
唐代楷書で書かれた方は、左右の払いと日という基本点画の練習だと思って筆を執ればよかったですね。払いは文字通りに払ってしまわないで最後まで毛先に集中して払いましょう。唐楷は横画細く、縦画太くです。ですから横画は毛先を用いて、縦画は毛の腰まで力を入れることが大切です。
行書、草書の方は、字形の変化を用い、紙面をまとめることが出来た様です。行書の範書は米芾からの集字ですが、これに潤渇の変化を加味すると作品に黒白のコントラストがついたとおもいます。このことは草書を用いた方にはより必要なことかもしれません。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

山川 清玄
北魏楷書に温和さをも加味した。方筆更に強く!
遠藤 衣月
左傾を取り入れオシャレな表現とした。柳字一考。
【選出所感】
今回の課題は、画数が多い字面でしたね。私の感覚ですと、画数が少ないものより、屋台骨がしっかりするので、良い作品が出来ると思うのですが、皆さんにとっては、困難な課題だったでしょうか。掲載されたお二人の作品は範書によるものでしたが、清玄さんは、温厚なお人柄を、衣月さんはスポーツウーマンを感じさせるものでしたね。書は人を表わすといいますが、どのような書体であっても、素顔が出てしまうのかもしれません。
範書は、北魏楷書・米芾調・私流王羲之を意識した草書・木簡調の隷書でしたが、このクラスの方は、唐楷調で書いてくれる方が多かったようです。少し画数が多いということで書き急ぎしているような感じがしました。繁茂な字ほど、慎重にゆっくりと運筆をすることを心掛けましょう。私の範書の一行目が小さすぎたということもあって、隷書作品は大変だったように思います。紙面に対する縦横の比率を考えることも必要です。

[岡田明洋]

条幅部

 

山田 淥苑
重厚なる北魏楷書まさに気満の作と言えよう
永嶋 妙漣
宋代行書を意識しての書作。自由な運筆を下部にも用いよう。落款一考。
内海 理名
五言絶句を古隷調に表現。更に筆圧を強く!
川原 礼子
整然と行を立て、唐楷風を流美な作品とした。
【選出所感】
今回はすべて、「四季の書」の条幅範書からの選出となってしまいました。
各自が関心を持った古典作品を自分の裸眼でとらえ、自分の腕で筆を持ち、自分の頭の中に叩き込んでもらいたいのですが、私の指導不足からなかなかうまくいきません。それでも、お弟子さんに条幅に親しんでもらおうとお手本を書いてしまうのは、”隷書から王羲之までの書体の変遷をもっと重視してもらいたい”という思いからなのです。隷書(特に木簡)を親となして、草書、行書、楷書(これは鐘繇・王羲之までの小楷及び随の楷書あたりまで)の隷書的な重心を有しているところの書き振りを大切にしていきたいという思いの表れです。王羲之の書法のことを「古法」と称します。これは俯仰法、左手法を用いていると言われています。秦隷と呼ばれる里耶秦簡の中に左手法は多くみられます。すると秦隷は祖父と呼ばれる存在なのかもしれません。秦隷から王羲之を一本につなぐ書道史観を見出せないかと模索しています。

[岡田明洋]

臨書部

和田 平吉
伸びやかな線質で見事。特に縦画の筆圧が素晴らしい。
小野 幸穂
起筆の鋭さ大佳。横画に切れを望む。
【選出所感】
皇甫誕碑の課題を四文字にして、本当に良かったと思います。まずは少し大きな文字になったので、墨の入りが強くなり、線にもハリが出てきました。更にしっかりと拡大鏡で観察してから書くような意識を持ったかと思います。楷書の極則と言われる「九成宮醴泉銘」と比較すると、その法則性は比較的ゆるやかな状態であると思いますがそのことも分かったのではないでしょうか。
今月の随意部の所感をお読みください。法則性を重視すれば、「軍」の車の部分は右サイド空間の方が大きくならなければなりませんが、皇甫誕碑は縦画より左サイドの空間の方が広く、下の横画も左サイドの方が、長くなっています。九成宮の中の壽などは、右サイドが長く広い美しいスタイルをしていますので、両者を比較すれば、その法則性の強さは歴然としています。ところが文章を書いている途中で九成宮を一瞥してみますと、「東」「書」などの縦画は中心より右側に引いていました。
欧陽詢はやはり人間です。AIとは違うと思ってしまいました。

[岡田明洋]

随意部

中山 櫻徑
墓誌銘を丹念に表現した。穂先の用い方が美しい。
藤田 紫雲
食い入るような蔵法で線も充実した。
小田 一洗
造像記、文字の余白を生かした秀作。配字一考!
長野 青蘭
馬王堆帛書を真摯に臨書した。側筆も用いたい。
【選出所感】
随意まさに思いのまま、束縛や制限のないことをいうので、どのような創作作品を書かれても、臨書作品を提出されても構いません。その中でも、淳社の方は楷書を書かれている方が多いようです。①北魏楷書(張猛龍碑・造像記など)②随の楷書(智永や墓誌銘)③唐代楷書(九成宮、皇甫誕碑など)が淳社の中で出品されていますが、皆さんは作品を見て、どの時代の作品かすぐにわかるでしょうか。線の太さに視点をあててみると太い順に①→②→③となりますね。背の高さを見ると高い順から③→②→①となるでしょうか。左右の払いの長さを見ると③→②→①ですね。更に重心の相違を見てみましょう。唐代楷書は左小、右大の造型になっているので、重心はやや左に寄っています。簡単に言いますと北魏楷書は偏を右上がりにして、大きく書けばよいということになります。唐代以前は隷書の遺伝子をもっていて、左サイドを広くとっているということです。

[岡田明洋]

実用書部

鈴木 藍泉
肩の力を抜いた細字が美しい。ペン字の懐の広さも佳し。
長野 青蘭
こちらもゆったりと余裕を感じる書き振りとなりました。
【選出所感】
新しく師範になられた鈴木藍泉さん、長野青蘭さんの喜びの声をお読みいただけましたでしょうか。「祥苑先生と出会い実用書が上手くなりたいと始めた書道」という藍泉さん。「家族と共に12年間書道に取り組んだ」青蘭さん。亡き祥苑がいて、支えてくれているご両親がいて、書道を続けることを目標にしたお二人にエールを送る意味もあり、新師範の作品を選出させていただきました。
このお二人の素の字も普段から拝見しています。軽はずみな線は引かず、落ち着いてお書きになっています。まずは四季の書に掲載されている活字を見て、赤色鉛筆で自分で考えて書いてみて、その後、お手本と見比べて、添削するつもりで、赤色鉛筆の上に墨汁で書いてみる。そのような方法を通して、素の字とお手本の字の違いを把握していけば、写す実用の書ではなく、率意の自分の実用書になっていくと思います。
このお二人に続く方もいることも確信した審査でした。

[岡田明洋]