2023年07月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

実用書部(昇段試験合格者)

鈴木 藍泉
すべての体において、懐の広さと余裕が感じられた。
長野 青蘭
今回の昇段試験の中で一番書き込んだ努力が実った。特に毛筆大いに佳し。
和田 平吉
気骨の強さが窺えるペン字。毛筆に磨きをかけよう。
内海 理名
若さが表出した伸びやかな線が生きた実用書作品。
【選出所感】
「四季の書」実用書部に師範が二名合格されました。誠に喜ばしく思います。条幅至上主義(?)の私は大は小を兼ねるとうそぶき、これまで実用書を軽視してきました。
「四季の書」を主宰するにあたり、実用書を”素顔美人”と思うようになりました。スッピンならなんでもいいというのではなく、やはり「ちょっと気取って書く」意識を常に持っているのを私は”素顔美人”と読んでいます。ちょっとした言葉かけ、何気ない笑顔がこぼれる方と言ってもいいでしょう。懐の深い、ゆったりとした書き振りがそれに合致すると思います。そしてそれは、心のゆとりと落ち着きが生み出すのではないかと思っています。技術的なことを言えば、小筆を用いた三折の法である楷書の行が乱れている感を強く持ちました。筆の立て方、単鉤法である時の中指の使い方が悪いのでしょう。改善を願います。

[岡田明洋]

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

鈴木 藍泉
潤渇の変化に意を注ぎながらも、緩急の変化も得たり。
藤田 紫雲
柔和な線質が隋様式の楷書にマッチした。
奥田 友美
筆力に優れ、大胆な筆致を試みた力作。
河合 紀子
切れ味抜群。これに逆筆、蔵鋒を加味したい。
【選出所感】
今月の課題は難しい課題でしたね。と、いうよりは、嫌な課題でした。年間の課題を決めるとき、千字文ではありませんが、同じ漢字が重ならないようにして課題を決定したところ、今回はサンズイが三文字という変化の取りづらい字面になってしまいました。お手本を作るとき、難しさを感じましたが、案の定、困難な課題となってしまいました。
一つの策として、行書をベースにして「潭」を草書にする案です。楷書、隷書だとサンズイの形をさほど変化させることはできません。行書ですと、サンズイの点の個数、連綿で変化をつけることが出来ますが、更に草書をいれると、縦線一本で表現することが出来ます。二行目の一文字目は、一番動の要素を入れたいところですので、潭が草書になります。隷書の青蘭さん、楷書の淥苑さん、錦流さん、幸穂さん、平吉さん、行書の紅仁乃さん、妙連さん、櫻徑さん、曄真さんが次点でした。特に、曄真さんは落款で損をしましたのでお気を付けください。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

浜田 恭子
墨の入れ方がとても良くなり、線質に成長あり。
田村 奈穂
中学生までに学んだ基本がしっかり表出した。
【選出所感】
特級以下の方は、力が拮抗していました。中に一点馬王堆調で出品してくれた方がいましたが、概ね、唐楷調でした。唐代楷書にとって一番大事な均整という点では、皆さん堅実にそのルールを守って書いてくれていました。少し考えていただきたいのは、含墨です。筆に対しての墨の含ませ方です。もちろん、力の入れ方や、スピードということも影響しますが、線の字肌が見えないのでは、にじみすぎです。反対にかすれすぎ、裏面に全く墨が入っていない線があるというのは、墨が腰(根元)のほうまで含まれていないのです。私は一字一筆ということにあまりこだわりません。足りなくなったら墨池の中の墨を補っても良いと思っています。どれくらいの含墨で、どのような線がでるのかを確認しながら書くと良いと思います。高校生になって、一般部に出品してくれている悠生君、衣月さん、菜穂さんももっとたくさん墨をつけてくれて構いませんよ。

[岡田明洋]

条幅部

永嶋 妙漣
筆力充実の作。かつ、分間の白が美しく表現された。
内海 理名
董其昌調の、気韻生動を追求した秀作。細線に響きあり。
長野 青蘭
もう少し筆圧を挙げても良かった。結体に安定感あり。
市川 章子
伸びのある線質と、しっかりとした字形が見事です。
【選出所感】
私をはじめ「四季の書」の理事、師範の皆さんの多くが読売書法展に出品する作品を制作していたために、少々条幅部への出品が手薄になってしまったようです。
今月の課題のように、十四文字の七言二句は、筆力が不足していると作品として見栄えがしません。読売書法展に出品されるような方は、普段から半切十四文字に取り組んでもらいたいものです。北魏楷書もむやみに扁平につぶすのではなく、健康的に文字の中の空間にも留意しながら、しかも漲るような強靭な線で表現しましょう。そのような意味では、隷書で書くのは大変かもしれません。扁平に書くという命題があるものですから、必要以上に字間が広がりすぎてしまうかもしれません。武威漢簡とか、鄧石如の隷書をモチーフにすると紙面効果が上手に出来たかもしれません。その点、行、草書は単体と連綿で文字群形成することも出来ますし、行書と草書を書き換えること、更に言えば、文字の大小、潤渇の変化も自在につけることが可能となります。十四文字を気宇雄大に書くような気持ちで書作に励んでください。

[岡田明洋]

臨書部

山田 淥苑
墨痕鮮やかな作。豊かな表情を感じました。
澤森 順子
円運動を生かして、運筆を滑らかなものとしました。
【選出所感】
字典とお友達になってください。
お友達になるためには、字典の一番前にある「部首索引」で調べるようにしましょう。後の「音訓索引」や「総画索引」を紐解く方法でやりますと、膨大なページ数がありますし、旧字体で調べると画数を間違える恐れもあります。「部首」で索引すると、字義への関心も高まります。
臨書の時も、判然としないときは、必ず字典で調べるという習慣をつけましょう。
今回の「靡」は「非」で調べます。マダレではありませんよ。「非」の筆順が間違っている人が何人かいらっしゃいました。楷書の時の「非」の筆順でいいのですよ。
「使」のニンベンの形も不思議ですね。ニンベンは草書ですと、縦線一画ですが、智永の書き方は、斜画の前に、横画があります。智永以後の書人は、懐素、米芾、空海などがそれに習っています。智永の不自然な書体をどのように感じていたのでしょうか。

[岡田明洋]

随意部

内海 理名
里耶秦簡を忠実に臨書した。運筆法を把握したい。
廣瀬 錦流
やや小粒にまとめたが、真摯に書譜に向き合った。
中山 櫻徑
張玄墓誌銘の温和な表情を感得した。更に筆圧を!
齊藤 睦
居延漢簡から、オーソドックスな隷書を手に入れたい。
【選出所感】
随意部への出品が低調です。
この部は、ご本人が一番関心を持っている古典を自由に発表できる場です。自分はどんな古典が好きなのか、自分と同じような古典に関心を持っている方の臨書の意識はどのようなものなのか、それをどう表現しているのかを刺激しあえる場だと思います。それが見いだされない場合には、先生とコミュニケーションをとってみてください。先生方は、この生徒さんの特徴はこうだからこんなものを習わせてみてはどうかなぁ、と常に考えていらっしゃると思いますよ。
近頃、参考のお手本を見て、出品してくれている方がいらっしゃるようです。嬉しいことです。新たな古典との出会いが自分の表現の幅を拡げてくれるはずです。
今はスマホでも簡単に調べられる時代です。作者、特徴はもちろんのこと、時代背景なども随分と簡便に自分の知識となります。自分の表現したい方法を見い出すためにも、古典との出会いを大切にしてください。

[岡田明洋]