2023年05月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

山田 淥苑
蔵鋒を巧みに用いながら、温和さも含んだ北魏楷書です
萩尾 惺雲
切れ味抜群!これからは緩をどのように表現するか?
門田 容子
着実なる運筆を心掛けた秀作。更に規模雄大に!
川原 礼子
力みのない自然体の書き振り。肥の部分を表現しよう。
【昇段試験対策】
「垂藤引夏涼」手本の左上から今回も説明していきましょう。新書源から集字する作業をしたところ、雁塔聖教序に範例が多くありましたので、唐楷風は、それによりました。褚遂良の名品で変化に優れた楷書と言えましょう。起筆の露鋒・蔵鋒自在な点が面白いですし、線も俯仰法を用いて抑揚の変化に富んでいます。しかし隷書的な造型までが加味されているので、難しいと感じた場合は、智永の書風や欧法で統一感をもって書いたらそれでも良いと思います。
行書は私の場合、どうしても米芾調の色合いが出てしまいます。「垂・引・夏・涼」は米芾の左傾を意識すれば全体感が損なわれることはないと思います。一紙の中でゆったりと落ち着いた感じで書かれればそれで構いません。
草書は誰々の書風ということではなく、文字(字面)の持っている疎密を生かして、大小をつけて書きました。もう少し潤渇の変化があっても良かったかもしれません。
隷書も一つの古典で集字することは困難でしたので、漢碑を習ったところの普段の水平・垂直・扁平を意識して書いたものにすぎません。木簡、特に居延の漢簡などをもっとしっかりと集めた書作にしていただけると嬉しいですね。どの書体であっても字面的には、多様な要素を含んだ作品が出来ると思いますので、得意な三体を選んで出品してください。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

山川 清玄
全体感もさることながら、縦画の変化に伸長が見える。
杉山 敬
どっしりとした重厚な古隷作。この調子で。
【昇段試験対策】
「千門結艾」こちらも左上の手本から説明していきましょう。唐楷調は欧陽詢の書き振りを参考にして書きました。すっくと立って見目麗しい若者のような凛々しさが表現できれば良いですね。端整な起筆、充実した送筆部の力強さは横画・縦画・波法にも表れています。迷いのない理知的な線を追求していきましょう。
行書は、この字面に対してはあまり、左傾を意識しないで、ごく自然に縦線を伸びやかにと思い筆を執りました。それでも王羲之風の上半身の広い空間つまり頭でっかちの構造で書ければと思いました。
草書は少ない画数の割には筆力不足で、線の変化も乏しく単調なものとなってしまいました。書譜などのもっと肉太な線で表現した方が存在感が増したかもしれません。疎密の変化も不足していました。ゆったりとおおらかにお書きください。
篆書は、趙之謙の小篆をモチーフとしました。篆書の中に動的な要素を取り入れた独自の表現ですが、書体が違っていても、左上部の大きな頭でっかちな造型を取っていると解釈しても良いのではないでしょうか。
どの書体をとっても、シンプルであるために、豊かな表現が出来ないで苦しむかもしれませんが、紙面を圧する筆力を身につけてください。

[岡田明洋]

条幅部

藤田 紫雲
滑らかな運筆が見事です。反面、筆圧も加味したい。
小田 一洗
豊かな墨量と墨色が鮮やかな北魏楷書。起筆更に強く!
大村 紅仁乃
書き出しの墨量、筆圧大いによし。この調子を葉隠に欲す。
伊久美 善三郎
柔和な線質をやや扁平の結体で巧みに表現した。
【昇段試験対策】
<条幅A>
条幅作品の楷書の範書は、半切に二十字入れるとどうなるとどうしても造像記、隋の墓誌銘や智永の真書ということになってしまいそうです。唐楷風にやや背高のある字形を用いてしまいますと、左右の空が広すぎて小粒な表現しかできそうにありません。その為に楷書でもやや扁平な字形をしている造像記風などが良いのだと思います。二行目の歌鳥までは、雲木花を除いてすべてホームランバッターのような存在感がありますが、香風留美人で急にしぼんでしまいます。どの書体にもいえることかもしれませんが、造像記風に書いている方はその点に細心の注意を払ってください。行書作品は、米芾・王鐸から文字を拾い集めましたが、掲載されている範書は何やら息苦しいような重いようなイメージを与えてしまっています。所々に草書をちりばめて、疎の文字を配置すればよかったと悔やまれます。更に反省するなら、細線を用いるべきであったとも思います。全体的に軽みがなかったのがもどかしいです。
隷書は扁平の字が多かったので、扁平になりやすかったと思います。ただ、香風留美人は、すべて単体と言って良いでしょうから扁平にはなりにくいので、横画の長さは、他の字よりも際立たせることが必要になります。
最後の範書は、隷書を走り書きしたところの草隷という書体ですが、居延漢簡から集字したものです。この書体は略式書体ということで取り扱います。

<条幅B>
唐代楷書風は、基本的に欧陽詢の書き振りをモチーフにしたのは一目瞭然でしょう。二行目の”松高”がややか細く見えるかもしれませんの、この二文字を少し大きめにお書きください。字面的にも安定感のある作品を制作できると思います。
行書は米芾の中に幾分連綿線を入れて動の要素をプラスしました。”松高揮”が見映えするよう墨量を豊かなものにしてお書きください。
隷書は十四文字ということもあり、清朝の鄧石如や趙之謙などの重厚な線をもって書かれているものに、武威漢簡の力強さを加えて紙面を圧しようと試みました。筆力不足にならないように注意してください。
最後は秦隷と呼ばれる書体です。とりわけ里耶秦簡の右上がり、右回転の動的要素を入れての書作です。動的な篆書ということと、フォルムの面白さが目を引くのではないでしょうか。

[岡田明洋]

臨書部

宮﨑 蓮㳺
筆力の入れ方、豊潤な線。千字文をしっかり臨書した。
市川 章子
側筆を用いた無理のない書き振り。やや右側へシフトせよ。
【昇段試験対策】
全くお恥ずかしい話ですが、四月に配信した臨 智永真草千字文の範書の中の「慕」字が間違っていました。お詫び申し上げます。範書を差し替えておりますので、再度ご確認ください。手元に法帖がなかったものですから、小さなものを拡大鏡を片手に臨書した際に誤字を書いてしまいました。
草書は、草隷、章草を経て、東晋の時代、王羲之一族の尺牘(手紙文)のやりとりから、美しい草書が生まれました。草書は、簡略化が最も進んだ書体ですから、筆画のちょっとした違いから誤字となってしまいます。くれぐれも誤字を書かないようにご注意ください。
皇甫誕碑の特徴と言えば、やはり厳峻という言葉がふさわしいように思われます。
特に法帖の最初の方のページは誠に、鋭利なナイフで石面を削り取っている様に思われます。(2021年も今年の臨書部皇甫誕碑も当然この辺りを臨書しているのですが)。楷書の極則と言われた九成宮醴泉銘と比べますと隋の墓誌銘様式のように若干左サイドの広い字が見受けられ、またその法則性が今一歩不足している様に思えますが、そこがまた力強さを表現している要素となるかもしれません。

[岡田明洋]

随意部

永嶋 妙漣
趙之謙・扇面細楷の臨書。緊張感を表出した見事です。
長野 青蘭
横画の伸びが以前より表現できています。この調子!
中山 櫻徑
隋の墓誌銘を筆で書いたらと思わせるような優れた臨書
鈴木 藍泉
蔵法の強さを心掛ければ、これが行草にも生きるはず。
【選出所感】
「四季の書」では、臨書部の課題であっても、その月の私の範書として書いたもの以外なら随意部に出書していただいて構いません。臨書部で関心を持っていただいたものを意欲的に臨書してください。それが以前に書いたものであっても受け付けます。
石鼓文の臨書をされている方がいらっしゃいますので、更に関心を持っていただけるようにこの欄でお話していきましょう。
青山杉雨先生は、篆書の臨書に当たっては、石鼓文が良いとおっしゃっています。小篆というのは、秦の始皇帝が宰相の李斯に命じて、国家統一後、文字統一をもされた書体ですが、余りに厳密に左右対称、シンメトリーを守っている為に面白みに欠けます。それに対して、秦がまだ統一する前に書かれていた石鼓は大篆と呼ばれているのですが、それは、西周金文の要素も含んでいるので、造形的な面白さも十分に受け継いでいます。中間的な石鼓文を学べば、小篆への学習を進めることも金文の文字学的な方向に進むことも出来る。つまり、篆書の出発点として、完成期のものへ進むことも、原始的な方向に進むことも出来るとおっしゃるのです。随意部こそ、自由な発想で自己理解が出来る分野だとお考えください。

[岡田明洋]

実用書部

内海 理名
蘭亭序最後の一枚。文字の大小、懐の広狭その変化よし
松葉 圭子
和歌に自然な流れあり。蘭亭序も良くまとめました。
【昇段試験対策】
蘭亭序の毛筆・ペン字の臨書が終了してしまって、今月から都道府県名を毛筆楷書とペン字行書で示すことにしました。
唐道府県名の楷書、行書共に、旧字体や書写体は用いることなく、常用漢字を基に書きます。
毛筆を用いた楷書ははじめてということになります。今までの蘭亭序よりも、筆管(軸)や毛先をやや法則的にと言いますか、画一的に操作することが必要になります。横画は、毛筆を意識する度合いを強くして、45度の方向からの入筆のあと、統一的にやや細い線で運筆することが大切になります。縦画はやや右側に筆管を倒して良いのですが、倒したために太い縦線になりすぎてしまう方がいるようです。太いな、と思った方は、やや筆を立てるようにしましょう。その為には、親指の第一関節の位置を若干下げるようにすると筆が立つようになります。基本的には、横線は細く、縦線は太くということになります。そして分間が統一されるということで、美しい楷書が出来るのだと思います。ペン字のところは、蘭亭序のペン字の書き方を応用して頂ければ結構です。

[岡田明洋]