2022年10月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

中山 櫻徑
緩急・潤渇の変化に意を用い、明るい作品とした。
和田 平吉
蔵鋒の起筆に留意し歯切れの良い北魏楷書です。
山河 恵巳
雁塔聖教序を集字しての作か。更に気脈を高めよう。
大村 紅仁乃
充実した線で、流れのある行書。送字やや上すぎたか。
【選出所感】
昇段試験を前にしての皆さんの努力が伝わってくる作品が多く頼もしく思いました。特に行書で出書された方の作品は運筆が滑らかで、結体の乱れもなかったです。行書だからといって、無暗に早く書くのではなく、ゆったりと穂先を意識しながら運筆してください。
行書に比べると楷書は全体的にいつもより、気負っている作品が多かったようです。墨の量が少なく、運筆も押し出しが強すぎる為に裏面に墨が入っていない作品が目につきました。少しリラックスして筆を進行方向に進めながら、裏に墨を入れるように心掛けてみましょう。私は送筆のところで、線の中から墨が浮き出るようにじっくり引きます。また転折の縦画の個所で、手首を少し紙面に近づけてから下に進むようにしてみます。楷書はやはり、縦画が主となります。
師範の方は、書体の違いだけではなく、書風の違いも考えていただき、全体的にバラエティーに富んだ作品群でした。淳社の中では北魏楷書を好んで書いてくれる方が大勢いますが、北魏楷書の特性を理解するためにも、異なった書風の楷書にも着目してみてください。掲載された雁塔聖教序調の書き振りの他、皇甫誕碑を学んでいることが判然とした作もあり、嬉しく思いました。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

井口 義久
流れのある草書。この調子で結体重視で取り組もう!
大場 愛
気骨のある行書。禅宗の僧侶のような力強さが見事。
【選出所感】
七:三の比率で楷書作品でした。掲載作品に選出したのは、草書と行書ですが、その楷書重視の方向性に間違いはないと思います。
焦ることなく、落ち着いて筆を操作することを心掛けましょう。まずは起筆です。起筆で力を入れすぎないことです。特に親指に力を入れると筆を杖にしてしまいます。腕の力がダイレクトに軸を通して紙面に向かうのではなく、竹(軸)の下の指。つまり双鉤法の方は人差し指に、単鉤法の方は中指に力を入れて、竹(軸)に押し返すようにします。このことで、手の中に卵が入るような状態を作ります。先人が唱えていた「虚掌実指」がこれにあたります。
送筆部は常々言っている「入木」です。王羲之という書の聖人は、3㎝の厚さの木まで墨が入ったという逸話があります。紙の裏までしっかりと黒々と墨を入れましょう。出来れば、肥痩の変化がつくといいですね。一本一本の線の太さに違いがでると、文字が立体的になります。
収筆はお団子にならない。また反対にギザギザにならないようにしましょう。お団子の方は、押しすぎです。ギザギザの方は収筆ですぐに筆をあげてしまうのです。心静かに穂先をまとめるようにしましょう。最後に紙面の重心がそろっているかチェックしてください。いくら一字ごとの字形が良くても、重心がそろわないと整然としません。

[岡田明洋]

条幅部

永嶋 妙漣
まさに気満の書。師範を狙う方の良い目標となる作。
藤田 紫雲
小さく纏めた感があるが、文字の中の白を大切にした作。
鈴木 藍泉
潤渇の妙が冴えた。細線は多用しないように。
竹本 聖
北魏楷書ながら細心の心配りで美しい紙面にした。
【選出所感】
あと半月で、秋の昇段試験も締め切りとなります。皆さんどのような進捗状況でしょうか。王勃詩は、やや扁平の要素を持った随の墓誌銘調か、北魏調が良いのでしょうか。初唐楷書調ですと、縦長の構造上、やや肩身の狭い書き振りになってしまうようです。私が先月書いた条幅作品「韋応物詩」位のつぶした表現が見映えするようです。
行書は、「滞」と「帰」の長脚の線のうち、「帰」は短くした方が安定感が出ていいですね。「况」を一行目下に持ってくることも試してみても良いでしょう。最後の「黄葉飛」は同面積の単体ですので「黄」か「飛」を草書にして変化を出すのも手です。
範書では、秦隷調で書きましたが、漢隷で書いても比較的調子よく書けると思います。扁平にして、水平の線を心掛ければ、単体が多いのにもかかわらず、まとまりはつきやすい字面だと思います。
「康煕帝句」は、やはり、楷書か行書の出書でしょうね。どちらにしても、「一」の存在、間合が課題になってきます。「一」と「葉」の字間を狭くしすぎると、それ以降の「報葉秋晴」が上ずってしまうか、華奢なものとなってしまいます。つまり一行目の華やかな字面に対して、二行目が負けないように、ややご自分が思われているより、大きめにお書きいただくといいですね。

[岡田明洋]

臨書部

市川 章子
伸びやかな縦画が見事です。余白も美しく表現した。
小柳 奈摘
端整な佇まい。穂先の用い方が優れている。
【選出所感】
関中本千字文の半紙臨書課題も最後となってしまいました。
みなさんとてもしっかりとした意識で関中本に取り組んでいただきました。一般部の中では、その伸長ぶりが一番顕著な部門であったと思います。ただ私が、肉筆である智永の真草千字文と、石に刻まれ拓本として残っている関中本千字文の違いに触れたために、必要以上に蔵鋒的な筆遣いを用い、やや重すぎる線質になってしまった方が何人かおりました。言葉と言いますか、指導法といいますか、その難しさを実感しております。
ただ最後に言い足すと智永の書は、王羲之の系譜の中でもとりわけ南朝系の書き振りを表現しているということです。豊かな自然、山水の美、高い経済力に裏付けされた伸びやかな人々によって好まれた自然体の美しさなのです。肩肘張らないゆったりとした結体、伸びやかで柔和な書を追体験することにとって、私たち二十一世紀の人間も豊かに生きることが出来るのではないでしょうか。条幅部の範書の方では、まだ三ヶ月関中本千字文が掲載されますので、みなさん、半紙で培ったところを是非、条幅部で出書してみてください。

[岡田明洋]

随意部

長野 青蘭
古隷の結体を中鋒の線でしっかりと表現しました。
内海 理名
皇甫誕碑の清新な風を巧みに表現した臨書作。
長野 天暁
米芾の召渓詩巻を墨痕鮮やかな運筆で表現した。
小田 一洗
時に左手法をまじえながら切れのある北魏楷書とした。
【選出所感】
第62回静岡県芸術祭・書道展におきまして、淳社理事の大村清琴さんが奨励賞を受賞しました。誠に喜ばしい限りです。
審査員の先生より、「28文字の比較的少ない文字を単体で横型式で纏められた。単体でありながら、うまく気持ちを切らすことなく、自然な流れを作り出している処にこの作家の素晴らしさがある。宋代の古典の雰囲気が感じられる秀作である。」とのお誉めの言葉をいただいております。
清琴さんは、行書を専門に書かれていますが、近頃は、徐青藤を臨書し、気の溌剌とした線を取り入れようと工夫しています。また同じく理事の望月碧雲さんも、秦隷(里耶秦簡を基調として)を全紙に10文字で墨痕鮮やかに表現して準奨励賞に輝きました。そのほか22人の方が入選しましたが、書体的に、秦隷から漢隷、草隷、北魏楷書、行書と左手法、俯仰法を用いたところの書道史を展観できるような作品群が会場に飾られたことを嬉しく思っています。

[岡田明洋]

実用書部

藤田 紫雲
ペン字、細字ともに、字形に安定感があり、余裕の作。
奥田 友美
ペン先の開閉を生かし、切れのある作とした。
【選出所感】
先般ある先生と、お手本と紙の位置についてお話しする機会がありました。その先生は、体の正面に半紙を置いて、手本は左サイドに置くという、私も今まで習っていた書道のポジションでした。「書いている文字をきちんと正面から見据えることができるこの方法が良い」と力説されました。私は「近年紙とお手本の間におへそが出来るように指導しています。」「左右の目でお手本と半紙を等間隔で見ることが出来るのでは?」となかなか白熱した議論でしたが結論は出ませんでした。このようなことを科学の力で解明出来たら書道がもっと盛んになるのではないでしょうか。
ペン字でも、紙とペン軸の傾斜は、45度から60度くらいが書きやすいというのが定説ですが、測定するとどのようになるのでしょうか?皆さんの出品作を見ますと、ペン軸が70度もしくはそれ以上たっている方もいらっしゃるように思われます。

[岡田明洋]