2022年8月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

永嶋 妙漣
縦画に左手法を用いながら強さを表現した。短い線に注意。
小田 一洗
伸びやかな横画!特に波磔が気持ち良い。
中山 櫻徑
智永をモチーフにしながら、余裕の書き振りです。
河合 紀子
縦画の伸びが目を引く!渇筆に工夫されたい。
【選出所感】
範書(手本)が初唐楷書、とくに欧陽詢の字形から集字した為に、これを手本とした方の多くの作品に、裏から見ると、起筆と収筆、転折の所でお団子がたくさんありました。筆を立てることに熱心で、そこで力を入れてしまうのでしょう。縦画の場合、筆管(軸)を自分の反対側の方に倒して、そのまま切腹をするような形(オーバーな説明ですが)で突っ込んでいるのです。最近、北魏楷書を書く人の縦画で強さを表現する為に、起筆のところで、手首を2、3㎝紙面との間隔を詰めるようにして下げましょうと指摘しているのですが、初唐楷書でも、1、2㎝下げるようにすると、手首に力がみなぎり強い縦画に変質すると思います。初段から五段くらいの方はお試しください。とにかく送筆部で裏から見ても墨が入った真っ黒な線にすることを目標にしましょう。北魏楷書で書いた方は、全体的に文字が大きすぎたようです。”気分は大きく、文字は小さく”そのような心構えで書きましょう。行草の方は、すべて複体で画数の多寡がなかったためにやや平板的な作品が多かったようです。潤渇の変化、大小の変化、書体の変化も考えてよいです。つまり「微」を草書にしてみると変化が生じます。”人間は考える葦である”を実践していきましょう。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

望月 美由貴
真摯な縦画の送筆が見事です。空間に留意しよう。
杉山 麻友美
好きな書体に挑戦することが大切!寿の字良し。
【選出所感】
このクラスの方も、一般漢字規定部初段以上の方の今月の選出所感をお読みください。そして、もう一度ご自分の作品を裏からチェックしてみてください。みなさんの中にも起筆と収筆、そして転折の所にお団子がある方が見えました。特に、行書や草書にチャレンジしている方は、まずは墨量を多くすることと、起筆で抑えすぎないこと、そして転折部で円運動を用いながら、横画は「仰(陽)」、縦画は「俯(陰)」になるようにすることです。王羲之の転折部のやり方を見ると、楷書のような転折とは異なるような筆遣いをしている個所が多分にあります。
今月の課題は、初唐楷書風と行書がほぼ同数。草書に小篆と、随分と幅の広い作品群になってくれたことを嬉しく思います。中国が育んだ篆書、隷書、草書、行書、楷書の中から「書いてみたいなぁ」「書けたら楽しいだろうなぁ!」という書体を見い出して紙面に向かってください。「上手く書けるかなぁ」と尻込みしてはいけません。新たな出会いを楽しみましょう。

[岡田明洋]

条幅部

平垣 雅敏
横画の蔵鋒、縦画の左手法から、気満を感じます。
山河 恵巳
米芾を基調にした行書創作作品。この運筆を大切に!
内海 理名
墨の存在感に圧倒された。さらに送筆に力をこめて!
長野 青蘭
木簡の古隷調を巧みに臨書しました。筆の開閉を求む。
【選出所感】
先月、二か月かけて条幅作品を書いてみましょう。と勧めましたが、今月の雅敏さんの七言二句の北魏調楷書は、まさにその範となってくれる作品でした。初段から四段までの方はじっくりと制作することが大切です。また、大学時代の先輩に、ベッドの下に全紙の下敷と墨池をしまっておいて、書きたくなったらすぐに引き出せるようにしているんだと、自慢げに話してくれた方がいました。やはり、”書く気”だと思います。面倒だなと思わないで、すぐに書きだすことが出来る環境を作ることが必要でしょう。昇段試験と昇段試験の間に全く書かなかった方とは、雲泥の差がつくと思います。大谷翔平選手ではありませんが、プレーすることが純粋に楽しいと思うことが素晴らしいと思います。時間やら空間やらを理由にして書かないでいるのではなく、一枚でも余分に書く。そのような意気込みの中から書く楽しみも身につくのではないのでしょうか。一本の線でもいい、一字だけでもいい、いい線が、いい字が引けたら、書けたら、純粋に楽しいと思うのではないでしょうか。

[岡田明洋]

臨書部

宮﨑 蓮㳺
すっきりと伸びやかな横画が良い。さらに筆力を欲す。
山木 曄真
落ち着きのある千字文の臨書。成の四画目大いに良し。
【選出所感】
初唐楷書の書き振りですと、どうしてもお団子が出てしまうのに、智永の千字文を臨書している作品にはそれがあまり目立ちません。智永は王羲之の七世の孫と言われており、その筆法は俯仰法を用いているからです。簡単に言うと力まずに、進行方向に筆管(軸)をやや倒して(倒しすぎてはいけません)、墨が裏に入っていることを確認しながら送筆しているからです。平吉さん、理名さん、雅敏さん、一洗さん、青蘭さんの墨の入り方が多かったですね。お稽古場に同席していたら是非見させてもらって下さい。そして、その方の墨使い、筆遣いを盗んでみてください。その時に、姿勢・筆の持ち方・指の使い方・手の平のあき(虚掌実指=手の平の中に卵が入ってつぶれないような握り方)、肘の上げ下げなど、つぶさに観察しましょう。先生が揮毫する時も目を皿にして、なんでもいいので会得する様にしましょう。私の大学時代、ある先輩から「青山杉雨先生の左手の使い方を見たことあるか?」と問われ沈黙してしまったことを思い出しました。もう50年近く昔のことを今でも思い出します。

[岡田明洋]

随意部

神戸 玉葉
里耶秦簡に挑戦!転折の丸みに注意して送筆しよう。
鈴木 藍泉
やや規模が小さかったか?徐青藤の中の隷意を大切に。
藤田 紫雲
粘りのある高貞碑。更に横画の伸びを表現しよう!
竹本 楓
墨量豊富な米芾臨。行の立て方に一考を!
【選出所感】
「四季の書」の参考手本をご覧になって「こんな字を書いてみたいなぁ!」「こんな字書けたら楽しいだろうな!」と思ったら、掲載されている手本を見て、まずは一枚書いてみてください。たった一枚であっても、今まで習ってきた”書写的な字”とは違った筆遣いにびっくりするのではないでしょうか。それが書の面白さだと思います。
今の私の中で、秦の始皇帝が文字統一をしたとき、その裏番組として用いられていた「里耶秦簡」から王羲之の書法を受け継いだ智永の書までの書であれば、何を選んでくれても構わないと思っています。これらの中には、王羲之の古法と言われる用筆法を用いて書かれた作品が幾つもあるように思えるからです。先月号に臨書した「里耶秦簡」の「署」の一画目、「懸」の一画目の縦画は、両方とも左手線です。つまり毛先が右側を通っているのです。王羲之の左手法のルーツが「里耶秦簡」あたりにあると思うと私は、”ちむどんどん”(胸がわくわく)してしまいます。

[岡田明洋]

実用書部

大村 紅仁乃
筆圧の入れ方に意を注いだ。和歌後半やや字幅を広く!
萩尾 怜奈
この筆力、この懐の広さ。これを普段から書こう。
【選出所感】
私の会の方に聞いてみると、何人かの方が、先月号でお示しした方法を実践してくれているようです。最終的には、お手本がない、素の自分が出た字が書ければそれでよいと思っているのですが…。②のような「マスの実線と点線を利用しながら、文字の位置があっているかどうかを見極めて、自己批正するつもりでペンで上書きしてみます。」という方法は、お手本を見る(観察するのです。ぼーっとみるのではないのです)ために、必要な動作だと思ってください。野球を始めたばかりの小学二年生の孫とリモートで書道をやっているのですが、「打つときに何を見る?」「ピッチャー!」、「ピッチャーのどこを見る?」「???」、「ボールを投げる手を見るんじゃない?」「うん!そうだ!」、「どこから出るかわからなくてボールを打つのは大変だね。お習字もどこからどの方向に線を引くかよくみなきゃ変な形になっちゃうよね」と楽しんでいます。みなさんも起点の位置をしっかりと確かめてお書きください。あくまでこの方法はデッサン力を高める方法です。
私の好きな字は懐の広い書です。そんな意味では、武さん、紫雲さん、友美さん、祐子さん、礼子さんの作品はいい字だと思います。

[岡田明洋]