2022年6月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋 佐藤綵雲

漢字規定部(師範合格者)

※作品は押すと単体で表示されます

萩尾 怜奈
北魏楷書、行書、趙孟頫すべて緊張感をもって書かれ見事な出来栄え。
内海 理名
軟らかな線、動きが流麗な作。隷書も墨の変化に注意されてよい。
奥田 友美
隷書の中でも、清朝の風を入れ気満の精神で堂々と表現した。
伊久美 善三郎
起筆のそれぞれの相違に留意し、温和な趙孟頫の臨書とした。

漢字規定部(昇段試験合格者)

竹本 聖
北魏楷書。自信に裏付けされた充実した線大いに佳し。
齊藤 睦
落ち着いた波法、墨の入れ方に安定感が生まれました。
石谷 桂子
丹念な運筆法。更に行・草体において緩急をつけよう。
小柳 奈摘
趙孟頫の臨書を堅実に表現しました。少し冒険をしよう。
門田 容子
柔和な線に安定感のある造線が美しい。行書も良い。
望月 玲子
俯仰法を用いて伸びやかな作品としました。
【選出所感】
2021年春の昇段試験師範合格者1名、2021年秋の昇段試験師範合格者2名。今期の師範合格者4名と皆さんの力が着実についているのが明らかな数字でした。まずは、4名の方に合格おめでとうございましたと申し上げます。1回目の受験で合格されたお二人は、小学生のころから習い始め、高校時代から私が指導している二人です。今春より、二人は本格的に書を学んでいますが、この合格を機により一層高い技術と見識を身につけて頂きたいと願っております。再受験のお二人も、昨年秋のレベルに比べて、半年の努力が十二分に窺える作品でした。不合格になった区分のみの再受験制度は、珍しい制度だと思っています。不得意な書体・様式への対策を地道にしていただかなければ、何回でも不合格となってしまいます。そのような意味で、今回不合格の区分があり、秋以降に再受験となる方は、新たな欠点が分かってよかったと考えていただければ嬉しいです。一名は条幅正式書体に、二名の方は、条幅略式書体にさらなる努力をしていただきたいと思います。細部の内容は、先生方を通じて、私がコメントした用紙をご覧になっていただければ、それなりに対策を練ることが出来るはずです。そのためには、毎月の条幅部への出品でその成果を見せていただければと思います。来季は更に多くの師範合格者が出ることを祈っております。

[岡田明洋記]

漢字規定部(月例課題)

長野 青蘭
隷書体としての配置が良い。墨の入れ方、かすれも魅力あり。
平垣 雅敏
迫力のある文字。特に切り捨てる様な終筆に目をひかれた。
藤田 紫雲
多種類の文字に挑戦して、その熱意を感じます。滑らかな筆遣い佳し。
長野 天暁
各々の文字に黒、白を使い分け、力強さ見事。

条幅部

長野 青蘭
横画の統一見事です。点の打ち方に軽妙を欲す。
永嶋 妙漣
肩の力が抜けて、サラッとした北魏楷書にした。
【選出所感】
残念ながら、今回は師範の方があまりいい壁になっていただけなかったようです。と前回の昇段試験時の選出所感に書きましたが、今回も・・・という表現になってしまいました。読売書法展への出品作品作りに余念がないのはわかりますが、それにしても不出品は残念です。読売サイズは、面積12,320㎠です。それに対して、条幅は4,725㎠。半紙に至っては、816㎠です。書の場合は、まさに大は小を兼ねる、なのです。掲載された青蘭さんや、妙連さんのように、読売書法展の作品の二分の一を条幅に書くことを指示しなかった私の責任もあります。用紙のサイズが変わり、文字数も半分になったならば、配字的に隣に来る文字が変われば、墨つぎの位置も変わってきます。画数の多い大きな文字が二つ並んでしまったときは、必然的に文字の大きさを変えなければなりません。このような新しい出会いが、新しい表現にもなり、マンネリ化した書き方から救いの手を差し伸べてくれるという体験もするはずです。是非来春の昇段試験と読売書法展の書作がぶつかったときも、私の上の文章を思い出して書作に励んでいただければと思います。更にいうなら、読売書法展の字画を半紙に書き直して、字典と見比べるなどという方法をもとっていただきたいと思います。思いもよらぬ誤字を発見することにつながるかもしれませんよ。師範挑戦者の方も師範の方も共に切磋琢磨する「四季の書」にしていきたいものです。

[岡田明洋記]

実用書部

鈴木 藍泉
幅広く優雅な運筆のペン字作品です。細字も余白大いに佳し。
伊久美 善三郎
縦画の力のみなぎり方が素敵です。細字の情は不注意!
【昇段試験対策】
文字の大きさは、原本の蘭亭序とほぼ同じくらいなのですが、実用書臨書の課題は、市販のマス目のあるノートを使用します。その為に原本とは異なる要素で作品をまとめなくてはなりません。つまり、文字の重心をそろえるとマスを活用して美しく見えるのです。線の肥痩・文字の大小、線の潤渇など変化を表すことも大切なのですが、それと同時に、紙面の統一感を出すことも作品の是非に大きくかかわってきます。前回の昇段試験の感想で述べましたように、皆さんの作品は縦画を書く時に、筆管が右に倒れているようです。親指の第一関節をやや左下に傾けるようにすれば、筆管が立ちます。左払いの時にもそれを意識しましょう。反対に横画や右払いのときはやや、小指をやや紙面から浮かせるような感触で筆を少し寝かせます。これが俯仰法という用筆法です。半紙大の時には、この用法をもっと活用して頂きたいのですが、王羲之が書いたと伝えられる蘭亭序は先ほども言いましたように、ほぼ実用書部と同じ位の大きさです。それでも、その中に随所に俯仰法が見られます。
硬筆のペン先が太いかなとか、線が太いかなと思う方は、中学生硬筆の選出所感をお読みください。大人の方が字数が多いのですから、ペン先の管理をしっかりして、よりシャープな線で書いてください。和歌においては、連綿線が多用されていますが、焦ることなく、しっかりと運筆してください。

[岡田明洋記]