2022年4月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

藤田 紫雲
伸びのある線質。墨量の変化も加わり紙面を立体的に表現した。
和田 平吉
蔵鋒で力を蓄え、スケールの大きな作品とした。
萩尾 怜奈
筆力抜群!若さを表現した。この意欲を維持しよう。
門田 容子
筆圧の変化に意を用いた。今後はスピードアップしよう。
【選出所感】
今月は比較的、行書作品が多かったように思います。伸びやかな線で春の訪れを感じさせてくれる作品が多かったのがうれしかったです。墨の入れ方も一・三・五文字目でしっかり墨が入っていたので、立体的になりますね。
掲載版には、北魏楷書二点が選出されました。この二点は、逆C型の毛先で押し出す方向で運筆しますが、それが大変しっかりできていました。まさに気満の作といえましょう。それに比べると唐代楷書調で書いた方は、やや墨量が少ないようでした。墨痕鮮やかな作、入木の作となるためには、やはり沢山墨を含ませなければなりません。唐代楷書を書く時、起筆でチョンと三角形を作るくらいの触れる感覚でよいのです。一気にドスンと抑えつけるようにしないと良いですね。軽く触れて、左上に毛先の出た三角形を作るためには、軸(筆管)の下の指、つまり単鉤法なら中指、双鉤法なら薬指を軸の方に押しやって、それぞれの指を伸ばすような感覚でやると、上手に筆が立つ状態となります。このように、軸の下の指の使い方に気をつけると更に上達します。

[岡田明洋記]

漢字規定部(特級以下)

植原 直子
分間布白に留意し、安定感のある紙面を構築した。
望月 美由貴
起筆の強さが目を引く。左払いゆっくり払おう。
【選出所感】
画数の多い課題でしたが、皆さん堂々と書いてくれました。時は和らいで、世界は泰平であるという意味です。今のウクライナの情勢とは全く反対の意味ですね。この世相に皆さんが一刻も早い平和がおとずれることを願っている様子が伝わってくる書き振りでした。昇級できたできなかったに一喜一憂することなく、真っ白い紙に向かって文字を書けることを純粋に喜んで書いていただけると良いですね。文化的活動が平和に裏付けされていることを本当に意識させられる昨今です。
「時」は、どなたも偏と旁を接触させることなく、懐の広い書き方でした。不即不離(つかずはなれず)という美学を心の中に育ててください。偏と旁がくっついてしまうと、”人間関係に不協和音が生じる”そうです。
「雍(ヨウ・やすらぐ)」唐代楷書の造形は、旁がやや大きいという性格があります。「隹」の縦画を伸ばして、スックとした佇まいをすると良いですね。「道」のシンニュウのリズムをとるのが難しいですね。①一画目の点と二画目の間を広くとるといいですね。②二画目の横線から折れた後の斜めの画をあまり左に長く引かないことです。「秦」の左右のはらいは、線の進む方向に筆管を倒してはらいましょう。

[岡田明洋記]

条幅部

長野 青蘭
木簡八分隷を一糸の乱れもなく臨書した。
長野 天暁
文字に密度が生じ雄渾な作となった。配字に一考欲しい。
萩尾 怜奈
王鐸のリズムを取り入れ円運動が闊達な作とした。
内海 理名
均整のとれた八分隷。字間の疎密に統一感が欲しい。
【選出所感】
始めて条幅つまり半切作品を書いてくれた級の方が2名いました。半切35×135センチのサイズに書くのは大変だと思いますが、自分の体全体を使って表現することを体験すると半紙がとても小さく、そして簡単なことのように思えてきます。行の立て方、蛇行してしまうと、行間が美しいものにはなれません。含墨が多いと、毛の腰が柔らかくなって立てづらくなります。にじみすぎてしまうのが怖くて、なかなか墨を沢山つけられません。勇気をもって墨を含ませてください。墨量の変化が少ないと、半切の紙面が立体的になりません。潤渇をつけることも半切においては、大切な要素です。
半切の臨書作品が初学者の方にはいいのかもしません。五言絶句だと二行二十字、七言二句だと二行に十四字、と固定されてしまいますが、臨書だと絶対的な文字数を決めることはありません。集王聖教序ですと、16~18字くらいの文章のところを選んで書いても構いません。やや大きく書いてしまう方は、一行9文字でも大丈夫だということですね。半切に書くことの楽しさを味わっていただければ、上達も著しくなりますよ。

[岡田明洋記]

臨書部

小田 一洗
命毛が冴え、真草千字文のような起筆を表現しました。
市川 章子
誠実な臨書で、関中本千字文の温和さを表現しました。
【選出所感】
先月号の解説文に俯仰法(ふぎょうほう)という運筆法を用いて書いてくれれば、王羲之書法の学習をしていることになります。と記しましたが、王羲之七世の孫である、智永の楷書(真書)を学ぶことは、唐代楷書を習うよりも王羲之の書法に近似した筆運びをすることになると思います。
機械ですいた半紙では、裏が真っ黒くなるほど墨が入ることはないでしょうが、手すき和紙を用いた場合には、すべての線を真っ黒く表現するぞと思っていただいてもいいですね。そのような意味で皆さんの線は、黒く充実した墨の状態が裏面から見て取れる作品ばかりでした。まさに甲乙つけ難い秀作ぞろいでした。智永は隋の時代の人ですから唐の楷書のように背が高い外形は取りません。隋の墓誌銘のような扁平な字形をとると考えて良いのですが、時に縦長になっている字形があります。今回の課題ですと「蔵」がそれにあたりますね。是非、原本をご覧になって、外形を確認して頂ければと思います。

[岡田明洋記]

随意部

濱田 芳竹
馬王堆帛書をやや淡墨を用いながら自然体で臨書した。
竹本 楓
王鐸の条幅を参考にしながら、実直な作風にした。
萩尾 怜奈
徐青藤の臨。近代的な文字のとらえ方を流暢にした。
山口 有美
範書である千字文を懸命に書いた。やや小振りに書こう。
【選出所感】
古い時代から、秦隷系・漢の隷書・王羲之集王聖教序・北魏楷書・隋唐楷書・空海の楷書が提出作品です。これは、私感ですが、肉筆文字はほとんど俯仰法(ふぎょうほう)、左手法なる筆運びをしているように思います。秦の時代の里耶秦簡などは、目立った縦画は、本当によく左手線で書かれています。縦画の起筆が右上にあるので、びっくりしています。漢碑を見ますと、”懸腕直筆”と思ってしまいますが、木や竹に書かれた隷書は、右から逆に入った後、毛先の弾力を効かせてから、平にやや波を打たせてすすみます。左右の払いなども押し出すのではなく、左払いは筆管を左に倒し、右払いは右に倒しながら払います。北魏楷書の中にも、左手法がよく見られます。王羲之の集王聖教序はもちろん俯仰法(ふぎょうほう)ですが、王羲之を学んだ空海の書にも俯仰法や左手法が随所に見られます。段以上の方は自分探しをするために、上記の古典を書店で見られると良いと思います。四季の書では、予告に示している来月の規定課題を随意の部に出品して頂いても構いませんので、予習と復習をするつもりで取り組んでいただいても構いません。

[岡田明洋記]

実用書部

宮﨑 蓮㳺
和歌に流れが生じ、心地よいリズムを表現した。
竹本 聖
細筆の用い方・ペン先の開閉が巧みになってきた。
【選出所感】
先月、一度赤鉛筆で書いたものを、もう一度手本と見比べながら自己添削をするつもりでペンで上書きされたらどうでしょうか。と提案しました。これは実際に効果があります。中学生には、黒の鉛筆のあと、ペン字で二度書きさせました。この自己添削で急激に上達したと思われます。しかし、黒に黒の重ね書きですので、直したところが判然としません。そこで一度目は赤鉛筆で、その上をペン字でということにしたのです。日を改めて書けば、中学生の硬筆のところで示した、ちょっと復習にもなります。
更にいま、お弟子の皆さんに奨めている方法は、すぐにお手本を見ずに、四季の書の和歌の手本の解説文を見て、自分の字でまずは書いてみる。そして、その上に赤のボールペンで書いてみる。どれほどの違いが有るのか気付かされると思います。これが、ちらっと予習になるのだと思います。ご自分の字を生かしながら、鑑賞眼を育てる有益な方法だと思いますので、是非お試しください。

[岡田明洋記]