2021年11月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋 佐藤綵雲

漢字規定部(師範合格者)

※作品は押すと単体で表示されます

長尾 武
左払いに冴えを見せた気持ちの満ちた秀作としました。
平垣 雅敏
いずれの書体も重厚かつエネルギッシュな書き振りです。

漢字規定部(昇段試験合格者)

大村 紅仁乃
端正な唐楷。均整のとれた結体がそれを証明します。
竹本 楓
柔和な線で伸びやかな行書を表現しました。
丹治 洋一
蔵鋒を巧みに用い安定感のある横画が隷意を生みました。
内海 理名
北魏楷書の持つ力強さを精一杯表した秀作。
萩尾 怜奈
中鋒の線。気持ちが満ちている。特に左払い雄渾です。
市川 章子
米芾の左傾に意を用いて、米芾の特徴をよく捉えました。
竹本 聖
密なる所の充実感が素敵です。更に大胆さを加えよう。
小柳 奈摘
素直な運筆が大いに佳し。自然な流れが表出しました。
【選出所感】
文字には、篆書・隷書・草書・行書・楷書の五つの書体があります。「四季の書」で学ばれている方は、それぞれの書体に興味を持ち、自分もこんな字体を書いてみたいと思ってくれていることと思います。
今回師範合格されたお二人。長尾さんは唐代楷書を端正に書き込まれ、平垣さんは堂々たる北魏楷書を表現されました。おのおのが好きな文字を探して筆を執っている姿が映し出されています。楷書の萌芽期は、新しい出土品からどんどん遡っているようにおもわれます。トン・スー・トンの三過折のリズム。右上りの構造を有していれば、「楷書」と呼ばれます。北涼の写経、北魏の造像記・摩崖・碑、隋の墓誌銘、初唐の碑など、様々な姿を現してくれますので、好みの楷書を探してみてください。起筆の角度の違いをよく見るだけで線の性質が変わっていきます。角度の緩やかな方は、優しい柔らかな書風を好まれるでしょう。角度の強い方は、ノミで掘るような豪快な楷書を書きたいと思うでしょう。まずは楷書において”自己理解”をしてみると書くという行為をより好きになるかと思います。
この頃、行書・草書を書くとき紙を突っつくようにしてから、しっかりと穂先を溜めて筆の腰に力を蓄えて、筆が開くようになることを心掛けています。それは木簡のリズムにも似ているように思えます。私のお弟子さんで、初めて条幅を書いた方が「楽しかった~」と言ってくれました。マット運動や、ヨガをしてる感じで大きな紙に向かってくれると嬉しいですね。伸びやかに楽しく条幅に挑んでいきましょう。

漢字規定部(月例課題)

長野 青蘭
木簡の率意性を得て、墨量の妙味も表現しました。
和田 平吉
伸びやかな円運動が目を引く。穂先の用いかた妙。
中山 櫻徑
集王を意識しての運筆と結体に行書の範を見ます。
廣瀬 錦流
隋代の細楷を念頭においての秀作です。横画に暢びあり。

条幅部

鈴木 藍泉
墨量の変化に富み、気力一貫の作品にしました。
藤田 紫雲
結体が面白く、変化のある運筆が木簡の調べを生んだ。
濱田 芳竹
やや下部が乱れてしまったが、明るい線質が良いです。
宮﨑 蓮㳺
九成宮の臨書。ゆるぎない結体に挑んだ力作です。
【選出所感】
残念ながら、今回は師範の方があまりいい壁にはなっていただけなかったようです。まず、量的に出品作が少なかったのが残念でした。師範になるときには、条幅は2枚と、臨書作品1枚の合計3枚を出品して合格したはずです。是非、その時のことを思い返して、初心に帰って、好きな古典を臨書なさって、それをベースにしての創作作品を制作してみてください。そのための手助けならいくらでもします。篆書・隷書・草書・行書・楷書、書体は五体ありますが、それぞれ、別物ではありません。一つのラインになっているはずです。それを「四季の書」から学んでいただきたくおもいます。心掛けていただきたいのは、正式書体(篆書・隷書・楷書)と略式書体(草書・行書)から興味を持った古典を一つずつ探し出すことでしょうか。お見合いをするつもりで、好きな古典と出会った時の感動を大切にして、それを条幅に書き表してみましょう。

実用書部

長野 天暁
転折が柔和となり縦への運動が生きている作品です。
山田 淥苑
毛筆作品と同じく、悠然としたペン運びが見事です。
【昇段試験対策】
前回の昇段試験で一番振るわなかったのが、蘭亭序の細字臨書でしたが、月例出品作でもまだ縦画の線が、筆が寝ている為に太くなっている方が大勢いらっしゃいます。蘭亭序は全28行あり、前半は穂先をつかって謹直な趣で書かれていますが、今回の課題は中盤の10、11、12行目に書かれています。この辺りは勢いに乗って筆が良く動き、複雑な字形も多く、懐が広いやや正方形の概形を持つ字が並んでいます。ですから、マスの左右の空間が比較的狭くなると思われます。私の書いた範書を見ますとやや肉太に感じますので、やはり原本を参考にしていただければと思います。
和歌の課題として斎藤茂吉の秋の句を二首書きました。秋の枯れた感じを狙ったわけではありませんが、やや字幅が狭く、窮屈な感じもします。連綿線もいつもより多用しているため、縦長の文字群が構成されているので、一層縦への流れが強調されているように思われます。仮名の簡略化された曲線を表現したいものです。いつも言っていますように漢字を大きく、仮名の概形を小さくして空間を引き締めて、行間が美しく見えるように心掛けましょう。
ペン字は蘭亭序も和歌も、転折を意識して、じっくりとペンを進めてください。