2021年8月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

永嶋 妙漣
北魏スタイルをとりながら、理知的な表現とした。
藤田 紫雲
やや、平面的な線であったが、集字に工夫の跡が窺える。
市川 章子
奇をてらうことなく、沈着な線で王羲之を意識した作品。
萩尾 怜奈
草書はややもすると誤字となる。その心配のない力作。
【選出所感】
15日配信の「四季の書」ですから、私の所感を読んだ後、1、2回のお稽古しかなかったと思うのですが、五・六段の方の墨の用い方の意識がすこぶる変化しました。1.3倍くらい、墨量が多くなったのではないでしょうか。そして、送筆にかける時間も随分と長くなったのだと思います。今後もこの傾向で墨を用いてください。更に筆の用い方ですが、単鉤法の方は中指を、双鉤法の方は薬指の力の入れ方をご自身で観察するつもりで書いてください。中指、もしくは薬指が筆管にどのような力を加えるかによって、毛先の形がどのように変わるかを見てください。「毛先がSの字になるように」とか、「毛先に空気が入るように」という言葉を実感できると上達します。前回の終わりの文章「最後の収筆も毛先をまとめるつもりで、左上に突くような気持ちで終わると良いです。そのためには双鉤法の方は薬指を右下から筆管にあてるように用います。」というアドバイスは収筆の操作法ですが、収筆だけでなく、起筆でも筆管の下にある指(中指もしくは薬指)を有効活用することが肝要です。

漢字規定部(特級以下)

榎本 宏純
落ち着いた送筆がなせる、安定した造形。段で励んでください。
植原 直子
起筆から送筆にかけて安定感あり。「健」の字大きく!
【選出所感】
特級以下の方も是非、先月と今月の初段以上の選出所感をもう一度お読みください。しっかりと筆をたて、単鉤法の方は中指を、双鉤法の方は薬指の用い方を意識すると上達が早いと思います。入筆の力強さにばかり気をつかうと、送筆部がキセル状態になって、黒が生きていない字になります。ある程度、筆に慣れてきたら、楷書だけでなく、行書をやってみると自然な流れの大切さを理解できると思います。楷書七割、行書三割くらいの割合で、行書を勉強していくと運筆のリズムが良くなってきますし、自分が上達しているのが感じ取れて、筆を執るのが楽しくなります。「健」のエンニョウと「人」の左払いに墨が入っていない方が多かったですね。左払いで、筆が寝ていると墨が入りません。筆管を自分の鼻の方に向けてから、払おう、と中学生あたりには指導していますが、ある時小指を少し上げてから左払いを書こうといったところ、裏にしっかりと墨の入った線が引けた方がいました。いかに指を操作するかで、線の内容が決まってしまいます。

条幅部

鈴木 藍泉
呉昌碩の臨書。潤渇の変化よし。中鋒の線更に大いによし。
長野 青蘭
墨だまりを意識し、隷書にリズム感を生んだ秀作。
山田 淥苑
紙面に溢れる筆勢よし!更に渇筆を生かそう。
小柳 奈摘
米芾の形臨。左傾の結体を巧みに表現。更に入れよ気脈!
【選出所感】
条幅半切に2行で書くのが基本だと思いますが、何人かの方に3行を奨めてみました。それは行の間合いの取り方を意識してもらいたいと思ったからです。1行目と2行目の空間と、2行目と3行目の空間の数字的な広さの相違だけでなく、その行を作る文字の大小、墨の潤渇で行間の印象が異なってくるということに気付くと、半切以上のサイズの紙に作品を制作するとき、随分と楽になると思うのです。若干文字が小さくなるので、筆圧を鍛えることはできませんが、全体感を育てることで、意義あるお稽古だと思います。書の古典の中の文字は、大概小さな文字なのです。時には、半切にも原寸主義で臨んでいただいてもいいと思います。この部門に横書きをして挑戦してくれる方がいらしたら、嬉しいですね。そのような意味で、十四字の北魏楷書形式で書いてくれた淥苑さんの方法も良いですね。北魏特有の雄渾さをダイナミックに表現できると思います。
「四季の書」条幅部の質の多様化をも期待しています。

臨書部

小田 一洗
清朝の隷書名家を髣髴とさせる書き振り。波磔見事。
内海 理名
墨量の変化を巧みに用いながら、伸びのある線で書いた。
【選出所感】
7月15日に配信された8月の手本の解説文も読んでいただけたのでしょうか。7月では、曹全碑建立の様子を述べただけにすぎません。8月に中鋒・波勢・波磔という語を用いて説明しました。皆さんの曹全碑臨書作品の出来は大層よく、中鋒・波勢・波磔を実践してくれていました。
私たちは楷書人間です。右上がりにどうしてもなってしまうのです。1400年の遺伝子が、日本語を母語とする人が文字を書く時の脳を作ってしまったのです。その右上がりの運筆を抑えて、水平に持っていくことを第一の課題にしなくてはなりません。筆をからげていれて、毛先を表出させず、線の中心に毛先を持っていくことによって、水平の原理を保っていくことが大切です。これが第一原則です。次に字形は扁平。これは横画と横画の間をなるべく密にすることが大切です。これによって縦長になることを防ぎます。3つ目に、送筆・蔵鋒によって毛先を表に出さないことが大切です。楷書は機能的な筆遣いですが、隷書は起筆のあり方が面倒なのです。俗な言い方をすると往復パンチのようなつもりで書けばよいのです。

随意部

濱田 芳竹
馬王堆帛書の臨書。秦から漢における変化を楽しく表現した。
瀧 芳泉
王鐸の巻子の臨書。打ち込みの強さに秀でる。更に気脈を!
竹本 聖
北魏造像記の臨書。送筆部のエネルギーを上手に表現した。
井口 義久
智永の千字文の臨書。ゆったり且つ重厚な草書作。
【選出所感】
先日、藤枝市の書道協会に招かれて「混沌とした時代における書」ということで、お話をしてきました。
混沌とした時代にこそ、新しい書体が創造されるといったことが趣旨です。第一期が篆書と隷書を生んだ周・春秋・戦国・秦の時代でしょうか。金文から石鼓文、そして、始皇帝が李斯に命じて作らせた泰山刻石に代表される小篆。第二期は後漢から三国・西晋・東晋において、草書と行書を完成させた王羲之のエピソード。更に後漢まで遡りそうな楷書の成立の話で公演は終了しました。
私は完成された書体の美しさよりも、その美を生む前のカオスの中の姿に何か惹かれるものがあるのです。
そのような中でまだ話し足らなかった、明末清初の混乱期の中で二朝に仕えた王鐸の行書。馬王堆帛書 戦国縦横家書。北方異民族が漢民族を凌駕した時の北魏楷書を選出したのはやはり私の好みなのでしょうか。
随末の僧で王羲之の七世の孫といわれた智永が書いた真草千字文だけが完成された美といえます。

実用書部

大村 紅仁乃
ペン先に対する圧力の変化が群を抜く。特に和歌。
長野 天暁
文字の中の空間の広さにゆとりあり。特に蘭亭序のペン字。
【選出所感】
実用書昇段試験の成果が出たのでしょう。今月の実用書は以前に比べて、グーンと見ごたえがありました。和歌においては、気脈の一貫性が表現されていました。漢字と仮名の調和も上手に取れていました。和歌の字数は毎月異なりますので、文字の大きさが微妙に違ってきますが、基本的には、5・7・5を1行目に、7・7+歌人名を2行目に入れてあります。今回は仮名が多く、1行目に15文字入っていますが、そのために字間が詰まって流れが上手に表現されたのだと思います。「みて」と「あり」が連綿になっています。このようなときは、2文字目を少し右に書くと流れがでます。中心がダンゴの串刺しのように真ん中を貫かないようにしましょう。蘭亭序はペン字は毛筆の骨格であるという意識を持ちましょう。書き出しの高さが違ったり、文字の大小があったりするのは、同じ原帖を見て書いているのですからおかしいことですよね。暢の申の縦画を二画で書いている方がいました。日を書いて、右下から入るようなイメージで入筆して、折れてからそのまま一画で下に向かいましょう。