2021年1月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

藤田 紫雲
居延漢簡の学習が着実に身について来た。更なる発展を!
長野 青蘭
長年の木簡学習が実りつつある。この姿勢で!
宮﨑 蓮㳺
柔らかな曲線を駆使して、宋代行書の風を得た。
平垣 雅敏
送筆部に力が漲り、入木の精神に満ちた作品となった。
【選出所感】
人生意に適うを尊ぶ(人はただ、心が愉快に自得する所を貴しとする)
Webでの書道の掲載「四季の書」を立ち上げるに際し、亡き妻祥苑の思いを胸に抱き、門人と一緒に四季の楽しさを書で表現していくことが出来るのは、まさに愉快の一語に尽きます。師範の方が大勢いますが、私の元で筆を執り、自分の好きな書体で表現してきました。私の例書を丸写しするのではなく、これからも今まで通り各自が検字をして書くことを祈念します。準師範以下の方は、例書から何らかの原理や法則を学んでいただけたらと思います。

漢字規定部(特級以下)

榎本 宏純
懐が広く、ゆったりとした書き振りの行書である。
山口 有美
起筆に安定感が生まれた。名前も本文に合うように!
【選出所感】
課題は「公直無私」です。人の作品を審査するのは難しいものです。”公平正直なれば、決して私欲かたておちの事なし”という意味です。この「四季の書」を立ち上げる際に絶対に斯くありたいと思って、実は、私自身に対して戒の語として課題としました。
審査するときは、絶対評価、相対評価、個人内評価と評価基準がいくつか出てきます。どの観点で評価するかで選出作品が変わってしまいますが、とにかく「公直無私」でありたいと思います。級の方は、この一年以内に入会の方ですが、書くことを楽しんでお稽古に通ってきてくれています、まずは楽しむことです。お子さんをお習字に通わせてくれている親御さんはその大切さをわかってくれている方だと思います。良かったらお子さんとご一緒に筆をとってみてください。

条幅部

山田 淥苑
蔵鋒の妙味を得て、規模雄大な北魏楷書に仕上げた。
中山 櫻徑
筆圧の変化に富み、ゆったりとした向勢が心地よい
瀧 芳泉
古隷調の書き振りで趣がある。さらに波勢を研究したい
鈴木 藍泉
強い線で呉昌碩の行書を臨書した。二行目一工夫を!
【選出所感】
今まで私の社中の方は、半切に七言二句の14文字は、あまり書いたことはありません。初挑戦の方が多く、文字の大きさ、余白の練り方に大分苦心されたのではないでしょうか。
「古墨軽く磨すれば几に満ちて香しく、硯池新に浴し人を照して光る」文房四宝を生活の中の一部に入れ過ごすことのできる楽しみを表現している詩です。このコロナ禍においても、筆を友として、時間を過ごすことの喜びを書に表現して欲しいと思い、この詩句にしました。北魏楷書・行書作品・隷書とそれぞれ書体の違うものを選出しました。どの書体も紙面を圧する力が弱かったと思います。さらなる研究を望みます。
臨書作品として、鈴木藍泉さんの「呉昌碩の臨書」を選びましたが、ここ数年取り組んでいるものであり、見映えしておりました。創作・臨書どちらか一点は出品することを心がけてください。

臨書部

小田 一洗
厳しい線で、皇甫誕の鋭利なタッチを表現した。
大村 玲扇
丹念な臨書で欧法の運筆を得た
【選出所感】
隋王朝に仕えた忠誠の名臣皇甫誕を、子の無逸が顕彰した頌徳の碑です。立碑年月の記載がないため、欧陽詢が何歳の時に書いたかは、はっきりしませんが、この皇甫誕碑を記した時、欧陽詢の官名に銀青光禄大夫とあって、温彦博碑(この碑には、貞観十一年[六三七]と記されています)にも銀青光禄大夫と官名が記されているので、皇甫誕碑も温彦博同様、八十歳前後に書かれたと想定されています。
青山杉雨先生も八十歳の時に「書鬼」や「島崎藤村の千曲川旅情」を書かれています。欧陽詢・青山杉雨先生ともに八十一歳でなくなられていますが、その前年までしっかりとした書を書かれていることに畏敬の念を禁じえません。
”高き処を擇んで”あと十五年は筆を執っていきたいものです。同じ気概を表出した二点を選出しました。

随意部

藤田 紫雲
隷書から行書へと転じる姿をおおらかに臨書した。
内海 理名
馬王堆漢帛書の臨書から書体の変化を勉強している。
【選出所感】
この部は、創作でも臨書でも構いません。今回、選出した「居延漢簡の臨書作品」と「里耶秦簡の臨書作品」は共に、中国から発掘された新出土のものです。中国では、1970年代以降、経済発展の為に土地の掘り起こしが行われましたが、そこから多くの文字資料が発掘されました。明治・大正・昭和の戦前では考えられなかったような資料が私たちの眼前に姿を表しているのです。今までわからなかった隷書から草書への移行の姿を見ることが出来るのです。点と点であったものが線に姿を変えようとしてる。なんと大きなウェーブがあるのではないのでしょうか。これらを選出したのは、私の好みという「公直無私」に反したものではなく、今後の書道の一方向を示しているものだとご理解ください。

実用書部

伏見 桃苑
蘭亭は優雅に、和歌はリズム感漂う秀作。
永嶋 妙漣
毛筆・硬筆ともに厳しい線質が魅力。行意更に磨こう。
【選出所感】
昔のお習字の先生は鉛筆などの指導はしてくれなかった。毛筆の字がしっかりかけていれば、鉛筆の字もついてくると思っていたようです。どちらかというと私もそのタイプの指導スタイルでいたように思います。毛筆であの弾力の効いた道具を用いて、好きに楽しく文字を書くことが面白かったから、このような仕事をしているのであって、あまり硬筆の魅力を感じては来ませんでした。
しかし、医療事務の方のボールペンの持ち方、ホテルの受付の方の鉛筆の持ち方、格安チケットで新幹線の切符に丸をつける(残念ながら私が目にする実用書の範囲はこんなものです)を見るたびにもっと硬筆用具を用いた指の運動を示してあげないと鉛筆に気の毒に思うようになりました。鉛筆一本で50kmの線が書けるそうです。鉛筆に敬意を表して書いていると思われた作品を選出しました。