臨書部
「臨 智永関中本千字文」 暑さ往き、秋収めて冬蔵す |
前回お話しした、正倉院から流出し、江戸時代末期、 ひとりの旅僧を診察したお礼に江馬天江という人が手に入れた真草 千字文、中国でも智永が書いた真跡は一本も伝わらず、 現存する真跡はこれ一本なのです。私が今回臨書しているのは、 大観三年(1109年)2月11日、 長安の崔氏所蔵の真跡本が特に優れていたため、工に命じて、 石に模刻させ、長安(関中)の漕司南庁に置き、 永久に伝わらんことを願ったと言われている、「関中本千字文」 といいます。原石はすでになくなっており、いま、 西安碑林博物館(陝西省西安)にあるのは、 重刻本であるといいます。
関中本千字文は、 真跡本に比べると細やかな筆勢が消えてしまっていますが、真書( 楷書)は簡潔なたたずまいで、円熟の境地をみせています。 草書はやや線が太いけれども、筆の流れに無理がなく、 力強くかつ、うるわしい書き振りです。 明清の草書になれている私たちの目からすると派手なアクロバット 的な表現ではないので、 何かものたりないような気持になってしまうかもしれませんが、 この整斉(せいせい:整いそろっているさま)な結体・ 温和な線質こそが正統な書法であると思います。まさに今回、 一般の方にも中学生にも繰り返し記している俯仰法( ふぎょうほう)という運筆法を用いて書いてくれば、 王羲之書法の学習をしていることになります。
関中本千字文は、