2025年12月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

実用書部(昇段試験合格者)

市川 章子
細字端正、ペン字温和。どちらも表情があってよいです。

実用書部

川原 玲香
細字に切れが出てきました。ペン字も繊細なタッチが佳し。
小野 幸穂
細字雄渾な立ち姿。ペン字の字形もしっかりしています。
島口 訓枝
ペン字落ち着いて字形を取っています。細字線を鍛えて!
【選出所感】
今年の7月の実用書の選出所感の文章の続きを条幅部の選出所感のところにつづりました。「川上憲伸さんが実演されながらお話をしてくれました。また、強く握ると変な動きになってしまうとのことです。彼でも試合では、力が入って、強く握ってしまうとおっしゃっていました。」と。
昇段試験(試合)では力が入ってしまうのでしょうが、そのような中、市川章子さんが実用書部に師範合格をされました。市川さんの作品に対する寸評は、すでに書いていますが、市川さんは六段の時も準師範の時も、師範の方と伍して2枠しかない掲載枠によく選出されていました。一年前の六段合格の作品と比較しても、細字は「もう少し細く」の寸評を克服して、線に冴えが出ています。ペン字「特に地名は佳」が更に、懐の広いゆったりとした書き振りに進化しています。
今後のますますの精進を願います。

[岡田明洋]

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

永嶋 妙漣
迫力満点の作。起筆の統一感が出ると更に安定感が生ず。
鈴木 藍泉
蔵鋒を多用し、豊かな起筆を心がけました。渇筆も欲す。
和田 平吉
伸びやかな線。それから生じた結体も縦長で美しい。
山河 恵巳
気の長い運筆が目を引く。文字ごとの連綿を用いてもよい。
片瀬 仁美
柔和な連続した線と安定感のある字形がマッチした秀作。
佐藤 満弓
側筆を用いながら董其昌調の草書とした。潤渇の変化を!
勝見 祐子
筆の腹の弾力まで用いた充実した線での作品としました。
深谷 志歩
一行目、やや重かったが、二行目の動はリズムを生じた。
【選出所感】
本当に申し訳ない事ですが、範書において、北魏楷書も行書も「峰」の字を山を上に置いた表現をしてしまいました。
新字源でしっかりと調べた上での範書ではありますが、字書を頼り過ぎたといいますか、字書に縛られたものでした。範書を書いてから一ヶ月経つと、心に余裕が生まれるのか、もっと自由に表現して良いのではないかと思いながら、新たな気持ちで、お弟子にはお手本を書いています。やはり、峰の山は、左サイドに書いていた方が、変化を生みやすいですね。そのような意味で、範書を見てお書きになった方には酷い結果となってしまいました。
「四季の書」も六年目を迎え、今まで書いてきた書体とは異なる書体にチャレンジしている方も見えています。折角の「四季の書」での表現です。何年か周期に、表現する書体を考えてみても良いかと思います。基本的には、正式書体の篆隷楷で一体、略式書体の行草で一体、計二体を選んで頂けると嬉しいです。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

小松 英里
唐楷的表現に真剣に取り組んだ。背丈の統一感を考えよう。
宇佐美 祐子
行書でありながらお手本を注視した。右端を狭く。
【選出所感】
この課題も大変やっかいな課題であったと言って良いでしょう。一行目は単体二文字、二行目は複体二文字です。もっと簡単に言えば、一行目は疎なる文字、二行目は密なる文字。これではなかなか上手には書けません。「四季の書」は一年間で同じ文字は重ならない様にしています。千字文とは言えませんが、四十八文字文と言っても良いです。その為、どうしても字面の良否が出てしまいます。何を書いていいか迷ったら、楷書にして下さい。縦長の用紙での楷書は、唐代楷書が書きやすいので、多くは唐楷に寄っています。今日の書写の書き振りは、唐楷の筆法によるところが大きいので、端正な文字をお書きになりたいと思って書道をおやりになるのでしたら、唐楷調に書くのが一番かと思います。次は、行書でしょうか。ただし、範書の行書は王羲之を意識してのものですので、ただ楷書を崩して書くという気持ちでは困ります。まずは、結体上の相違点をしっかりと理解して頂きたいと思います。

[岡田明洋]

条幅部

鈴木 藍泉
範書の書き振りより、懐が広くて良い。潤渇の変化を求む。
永嶋 妙漣
墨痕鮮やかな北魏楷書。結句の字幅不足が残念でした。
内海 理名
伸びやかな波勢を表現はしたが、上部と下部が不一致です。
生田 美穂
22年4月の範書をご覧になっての作。情感を見事に表現した。
【選出所感】
どちらの競書誌でも同じですが、条幅部には主幹のお書きになった手本をもとに表現された作品でも、各自が取り組んでおられる古典の臨書作品の出品でも構わないという応募のスタイルを取っています。競書誌をしっかり順序よくそろえて並べてある方は良いのですが、私のようにズボラな人間だと、いざ前月の詩句を書こうと過去の競書誌を探してみても、その号が見当らない時がままあります。その点、”四季の書”は良いですね。しっかりと月ごとと部門ごとと管理されていますものね。”四季の書”も丸五年過ぎました。その時節において、ご自分の気持ちとマッチした詩句に出会ったら、どうぞ筆を取って半切にお書きになって下さい。”墨場必携”から摘出しなくても、字面の良し悪しの吟味は充分にしてあるつもりです。行書で書かれたものでも、書体を変更して、各自が字典で検索されてから出品して頂いても構いません。”四季の書”をもっともっとご活用下さい。

[岡田明洋]

臨書部

天野 恵
上手な蘭亭序!均整が乱れたところの表現をしてもよいか。
川原 玲香
横画の伸びやかさが目を引く。この作品も上手すぎるか?
【選出所感】
上が複体、下が単体ではあるものの、総じて画数が多い課題でしたから、紙面にはある種の充実感が生まれていた作品を多く目にしました。反面、皆さんの書かれたものは、疎密の変化が少なく、あまりにも均一的でした。朗の偏の最後の点の打ち所はあまりに旁に近い位置に打ってあり、それを表現し得た作品はありませんでした。気は、キガマエの間隔が私のものもみなさんのものも均一でしたね。原帖は、四画目の横画が右上り過ぎて分間を乱していましたね。下部の米ももっと大きく書いても良かったです。清の青の部分の横画三本をもっと細く、そして間隔を広く取ってみたかったですね。恵の心は、配字の違いはさることながら、「一画目と日の間隔は広くとってあるものの、上部の必要以上に大きな空間に心が押しつぶされているよう」には書けませんでした。皆さんの頭の中で、均一的な形よい恵に仕上げてしまったようです。

[岡田明洋]

随意部

市川 章子
張猛龍をもっと勉強されたい。筆力の強さが各体に波及する。
永嶋 妙漣
趙之謙の気の大きさを追及したい。力むことなく運筆しよう。
小田 一洗
粘りのある波法が効いた。このような統一性を常に!
坂口 多美子
裏面に墨がしっかり入っているのが良い。あとは起筆です。
【選出所感】
私の社中だけのことですが、四字もしくは二字の臨書を推奨しています。紙面に上手に作品をまとめる力をつけるのではなく、古典から感銘を受けた文字をピックアップして、拡大顕微鏡で見るような観察眼をつけて欲しいと思うのが第一義です。そして、文字を大きく書くことで筆圧を養う点が第二となります。なかなか、掲載版にすることは出来ていませんが、今後は、それらの作品も掲載していきたいと考えています。特に、北魏楷書は二文字で、長い波磔を有した木簡の隷書なら三文字で取り組んでも良いでしょう。書き初め用の語句として、「龍驤麟振」がありますが、これなどは、半紙に一字で表現しても良いでしょう。書きたい文字を見い出し、新書源などの字典でしっかりとベースになる字形をもとに、それに、長短・肥瘦・潤渇をつけて一字書として表現してみるのです。臨書から創作への一助となってくれるのではないでしょうか。

[岡田明洋]