2025年01月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

市川 章子
一点一画揺らぎのない安定感のある作品。左傾も大佳。
長野 天暁
良紙に筆圧を入れ込んだ潤筆と渇筆の変化が見事です。
廣瀬 錦流
隋唐の端整なたたずまいを表現しました。縦画特に良し。
山河 恵巳
出書中、一番自我の意識を紙面に定着させた作品。
門田 容子
運筆に安定感があり、もっと穂先を紙面に接するように!
谷口 百華
もっと気脈を表現しても良い。懐の広さ大佳。
片瀬 仁美
着実に地力をつけています。一行目のふり幅を広く!
山川 清玄
趙之謙の扇面。北魏楷書を意識しての書作。更に強さを!
【選出所感】
今回は圧倒的に行書作品の出品が多かったです。出来栄えも良く、掲載の多くが行書作品でした。今回も二行目が単体となりましたが、比較的大きな運動を有する「嘉」と「平」も最終画を縦長に引くことによって、変化が生じやすい点も一行目に呼応する要素を持っていました。
掲載された行書の方にさらなる飛躍となるためのアドバイスをしましょう。「酒」のサンズイは多くの方が連綿線を用いていましたが、サンズイから酉への連綿線、また、酉の一画目から二画目に続く線が途切れていました。私の範書も離れていますが、意識は連続しています。形の上で離れていても気持ちは紙面から離れないことが大切です。そのような意味で、玲子さん、真粧子さん、万由美さんなどは、来月行書で出品されるようでしたら最大限の努力をお願いします。最初の書作はとにかく、ゆっくりと繋げる意識で書きましょう。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

風岡 立子
先月に続けての草書作。転折部、すこぶる改善されました。
小幡 紗依里
範書をご覧になっての堂々たる北魏楷書作としました。
【選出所感】
先月号で起筆の大切さを記しましたが、残念ながらまだ十分に改善されているようには思われません。もう一度今書いているものを確認してみてください。入筆が45度になっていますか?(これは楷書の時の原則ですが)毛先が2つ3つに割れている入筆になっていませんか。(特に隷書を書いている方は、毛先が包み込まれている蔵鋒という筆遣いになっていない証拠です。)横画の起筆と収筆の形を見てみましょう。起筆は三角形、収筆は半丸になっていませんか。特に唐代楷書の場合は、起筆収筆ともに45度になると美しい横画が引けたことになります。起筆三角形、収筆半丸の方は送筆部で筆を回転させてしまっているのです。送筆部では、筆管を少し右に傾けるようにして、毛先は線の上側をキープして右に進めましょう。収筆の半丸・ギザギザ・右下へのお団子があるようでは、一本の線が法則的に動いているとは言えません。まずは一本の線のあるべき形を定着させましょう。

[岡田明洋]

条幅部

藤田 紫雲
濃墨を用いながらも、筆勢のある書き振りです。この調子!
長野 天暁
爨龍顔碑にしてはやや字粒が大きすぎたか。筆圧を内に。
鈴木 藍泉
とことん米芾の臨書をやりぬいて王義之に迫りましょう。
小柳 奈摘
史晨碑をとことん!史晨碑は隷書の基本です。
【選出所感】
随意部の所感でも「師の学んだところを学ぶ」を記しましたが、今月出書いただいたのは、私の会だけで言えば臨書の月ということになります。
掲載された方以外の条幅作品の寸評を書きながら私が何を学んだかをわかっていただけたらと思います。
青蘭さん、睦さんが臨書した曹全碑。土の中に長く埋もれていたために、碑面の損傷も少なく、木簡的な要素が多く含まれ伸びやかな作品。青蘭さん、リズムを付けて、睦さん、少し大きく書いてさらに伸びやかなものとしよう。
萩雲さんが臨書した牛橛造像記。造像記の中では、一・二の洗練された表現で唐代への架け橋となるもの。力強さと起筆の切れを追及しよう。
櫻徑さんの臨書した懐素自叙帖、この頃私がよく臨書しているもの。俯仰法がよく見える。真面目に書きすぎました。自由に字の大小を付けて臨書しよう。
礼子さん。王義之の中では興福寺断碑がスケールが大きくてよい。大きさプラス、線の強さを求めよう。

[岡田明洋]

臨書部

天野 恵
先月に続いての掲載。結体の捉え方が見事です。
小野 幸穂
向勢気味のゆったりとした第二本の臨書作。もう少し側筆を。
【選出所感】
第三本と比べると、どうしても見劣りがしてしまう第二本を「蘭亭序の臨書」として選んでしまったことを悔やんでいることは私の文章からもお分かりいただけると思います。
私の胸中に反して、皆さんの臨書作品は本当によくなっていると思います。六文字で表現すると文字が密になるために、紙面の充実感が高まります。それに対し、四文字臨書ですと作品作りというのではなく、一点一画の観察眼を鋭くすることが必要になります。
今回の「又有清流」などは、米芾の創作作品ではないかと思うほど、第三本とはかけ離れています。欧陽詢が臨書したといわれる”定武本”と比べれば一層その違いは顕著です。
「又」の左右への払いは手首を左へ右へと回転させ俯仰法をダイナミックに用いましたね。「有」の三画目の収筆、毛先を右下に運んでから釣り上げるようにして引き抜いていますね。これなども王法にみられる技法です。

[岡田明洋]

随意部

永嶋 妙漣
張猛龍碑の臨書。峻厳なる書き振りに迫った。起筆さらに強く。
大村 紅仁乃
集王聖教序の臨。石刻文字の安定感を巧みに臨書しました。
和田 平吉
鉄筆が紙面をえぐるような線の強さを表現しました。
川原 礼子
安定感のある王義之臨書。更に線の強さを追及しましょう。
【選出所感】
以前、別の先生に師事されていた方が「その先生は展覧会に出品を勧めることはあったけれども、臨書は何も指導していただかなかった」という方のお話をしましたが、多くの指導者が自分の書き方を弟子に示すだけで、臨書の指導をされていない様に思われます。その先生の書き方が好きだから、その表現方法を習っている(真似している)のでしょうが、やはり、「師の学んだところを学ぶ」という意識が大切だと思います。亡き妻祥苑はほんとうに青山杉雨先生の書が好きでした。山口耕雲先生の導きで本格的に書道をやりだしましたが、大東文化大学に入学するころには、明清調の連綿行書を書きこなしていました。その当時、私は、顔真卿やら、鄭義下碑、史晨碑などの田舎臭い書き振りで半切に挑んでいました。鄭義下碑を青山先生にお見せしたら、「今頃、そんな時代遅れなものをやっていてどうするんだ」と怒鳴られたことを今でも思い起こします。

[岡田明洋]

実用書部

藤田 紫雲
さすがに師範合格者の作品。今後はご自身の書き方を
鈴木 藍泉
いつもながらの安定感のある実用書。自身の表現を。
【選出所感】
沖縄の市名から始まったシリーズですが、鹿児島、宮崎、熊本と書くたびに各地で起こった災害が思い出され、本当に災害列島日本だなという感を強くします。
災害の起きた地域での安全を祈願するつもりでの実用書部にしたいと思います。一筆ごとに起筆・送筆・収筆を丹念に引くことにしましょう。一筆ごとに祈りを込めてといっても良いかもしれません。
ペン字においては、早期に「四季の書」で講習会を開いても良いと思っています。いや、開かなければならないとさえ思っています。写すためのペン字ではなく、自分の書き振りを見出す方法を私の四年間のペン字学習の仕方を通して、ペン字に慣れ親しんでいただかなければならないと思っています。

[岡田明洋]