2024年08月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

内海 理名
墨痕鮮やかな隷書。横画の伸び、波勢が豊かに表現された。
天野 恵
運筆滑らかな筆致に、肥痩の変化もあって素晴らしい。
小田 一洗
重厚かつ切れ味鋭い方筆の起筆が見事。左払い雄渾。
竹本 吟月
蔵鋒を巧みに用いたあとの俯仰法の運筆が良い。
増田 文子
九成宮醴泉銘の結体を意識しての書作。理知的な表現。
佐藤 満弓
繊細な運筆を心掛け、穂先を巧みに用い流れを表出した。
西村 真粧美
紙面裏までしっかり墨が入り、充実した線で書いた楷書作。
遠藤 衣月
筆の扱いが巧みで、ゆったりとした北魏楷書を表現した。
【選出所感】
半数近くが、行書での出品でした。「複・単・複・単・単」の変化しやすい語句であったので、緩急自在の行書に気持ちが向いたのでしょう。寒・泉は単体が続きますが、寒を渇筆にし、泉を潤筆にすれば、濃淡の変化も生じます。
私の行書は、米芾を習って、王羲之に近づきたいという意思のもとで書いています。縣腕直筆よりは、やや筆管を線の進む方向に傾けて進む俯仰法という運筆法を用いています、それに、順筆、逆筆を折りまぜ、時には左手的線をも表現します、いわゆる王羲之の八面露法という用筆法です。造形的には、卑俗的な言葉になってしまいますが、頭でっかちの構えを常に意識して筆を握っています。その為、右上の墨量は豊富でなおかつ、右上の空間は広くとるようにしています。又、中心線より左サイドの構えを大きくします。書き上げたもののチェックとして左傾になっているかも重要な点です。

[岡田明洋]

漢字規定部(特級以下)

生田 美穂
筆圧のかけ方がしっかりして、入木の精神で書かれている。
風岡 立子
強い線で気脈をつなげようと努力している。「風」大佳。
【選出所感】
範書が北魏楷書だったためか、行書・草書へと流れてしまったようです。来月からは、基本的な唐楷や隋の時代の墓誌銘などを用いた書体を必ず示すようにします。
行書と草書で書くとき、必要以上に早書きする方がおります。先月号にも書きましたが、とにかくゆっくりと運筆しましょう。行書や草書の時は、野球のベースランニングのように、ベースの前後でたるみをつけるようにすると良いですね。裏面から見て、転折や収筆でお団子ができている方は、ここで筆を抑えすぎたり、止まってしまっているからです。ご自分が書いたものを必ずお手本を見比べるでしょうが、しっかりと墨が入っているかを確認しましょう。
紙の位置をお腹の前に置くのではなく、右肩の前に置くようにしましょう。正面に置くとどうしてもせぼねが左に傾いてしまいます。右肩を中心にして書くように心掛けます。ご自分の姿勢もチェックしてみてください。

[岡田明洋]

条幅部

藤田 紫雲
草隷の範書を見ての書作。更に横画のうねりを欲す。
永嶋 妙漣
黄山谷の書き振りが思われる。更に重厚さを加味したい。
鈴木 藍泉
やや軽妙に過ぎたか。米芾の臨書をし何かを手にしたい。
竹本 萩雲
一画ごとの集中力佳。最後の五字もっと大きさを!
【選出所感】
原則、奇数月が五言律詩の二十文字、偶数月は七言二句の十四文字が課題となっています。五段以上の方は、昇段試験の時に五言律詩を書く力が必要となり、二段以上の方は七言二句を一体書かなくてはなりません。その為のトレーニングとして交互に課題を変えています。ですから現師範の方は、必要ないといえば必要ありません。乱暴な言い方をすれば、私の手本なんかは卒業して、自分探しのための半切臨書に臨んでいただければと思います。それも、私のコンタクトレンズ(比喩です。お手本のことです)をつけることなく、自分の眼を頼りに臨書をしてみてください。その為の見方、感じ方を一緒に考えていけばよいのですから。昔、ある大家は、お弟子さんの作品に分度器と物差しを用いて、臨書原本との比較をしたと聞いています。分析力を高める方法のひとつかもしれません。半紙三・四枚の通しを臨書すれば、条幅一枚の臨書作品となります。

[岡田明洋]

臨書部

市川 章子
優雅な線質が良い。線の太さ、空間の広さを探求しよう。
川原 礼子
スケールの大きな臨書作。これに筆脈の流れを加えたい。
【選出所感】
先月号の臨書部選出所感のところで、楷書的(風)行書と変な呼び方で、唐代以降の行書を呼びました。このような楷書的行書の書き方とは、三折の法のリズム、つまり、トン・スー・トンのリズムによる行書の書き方と、横画が右上がりで、等間隔になっている書き方を指して言います。友美さん、幸穂さん、仁美さん、順子さん、恵さんなどは、裏面にお団子(今月の級の選出所感をお読みください)などなく、墨もしっかり入って、本当に良く書いていらっしゃるのですが、群の君の三本の間隔、羊の三本の間隔、賢の貝の中の間隔が等間隔になっているのです、私の羊と貝も等間隔でしたが、君や畢の日の部分はもっと、上部が広いですよ。また畢の縦画より、左側が広い表現を見逃してほしくないところですね。あくまでも王羲之系の文字は、隷書と同じような左サイドを広めにすることです。青山杉雨先生がおっしゃっていました。中の隷書の口をいくら扁平、水平に書いても、縦画を左サイドに引いたら、隷書にはならないんだ。と。

[岡田明洋]

随意部

藤田 紫雲
居延漢簡の率意な運筆が表現された。横画の墨入れ見事!
市川 章子
範書を見ての臨書。更に激しさ厳しさを探求しよう。
竹本 萩雲
気満の精神を表現した。随意部でも選文を考えよう。
小柳 奈摘
史晨碑の臨。隷書臨書の基本中の基本。収筆に注意を!
【選出所感】
条幅の所感にも記しましたが、是非、積極的に臨書作品に挑んでください。春光会の方にも範書を用いながら臨書に取り組んでくれるからも出てきました。まずは自分探しの第一歩です。
どんな書体があるのか、どんな書体が好きなのか、まったくの門外漢なら書体の名前も言えないかもしれません。好みもクエスチョンです。そんなことが少しずつ分かりかけてきたのですから、勇気をもって、臨書してみましょう。おおまかに楷書か行書の二者選択でもいいでしょう。公式書体か略式書体かの違いですね。楷書の好きな方は、見慣れている書体であるし、きちんとしたものが書きたいという気持ちが強いのかもしれません。行書を書いてみたいという方は自由への憧れがあるかもしれません。点画の省略にある程度のルールもありますが、線の長短、空間の大小に自分の思いを乗せやすいということもあります。範書を参考にまずは好みを考えましょう。

[岡田明洋]

実用書部

長野 青蘭
紙面に食い入るような鋭利なペン字が見事。
内海 理名
前者に比較し、こちらは滑らかな流美なペン字となった。
【選出所感】
師範の方二名から掲載版を選出しました。私の範書より、少し大きいかとは思いますが、この大きさが最大の目安としてください。真剣な取り組みが伝わってきますが、マスに対して、ペン字も細字も大きすぎている作品が何点かあり、残念です。
小ぶりで細字を伸びやかに表現している、恵さん、平吉さん、礼子さん。すっきりしたペン字の藍泉さん、章子さん、玲子さん、紀子さん。次回は小ぶり、すっきりをキーワードに選出しようと思いますので、ご自分を信じて書きこんでください。
細字の楷書の基本構造は漢字規定部の選出所感で記したものとは全く違うということを理解してください。唐代楷書を基盤にして範書は書いていますが、それは、中心線より右サイドを広くとった結体としています。右上がりの基本構造を唐楷は有しているので、どうしても右サイドが大きくなるのです。そして横線細く、縦線太くは常に心がけてください。

[岡田明洋]