2023年6月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋 沖村春岑

漢字規定部(昇段試験合格者)

河合 紀子
結体がゆるぎなく、字面の疎密も巧みに表現した。
川原 礼子
力みのない伸びやかな運筆が見事。緩を取り入れたい。
山本 万紀
真摯にお手本の特徴を把握して実直に筆を執った。
大場 愛
大胆な運筆で紙面を圧した。運筆にリズムもあり!
植原 直子
筆の裏表を用いながら、渇筆を巧みに表現した。
望月 玲子
一行目の筆力が大変良い。二行目やや大きく書こう。
金井 万由美
伸びやかな線!特に縦画と払いの線が心地よい。
【選出所感】
「四季の書」を配信して、五回目の昇段昇級試験ですが、今回は残念ながら師範合格者が出ませんでした。二名の方が二回目の受験、初受験者一名でしたが、今秋、再度の挑戦をしていただきたいと思います。
楷書・隷書・篆書(字数の関係上20字を紙面にまとめるのは実質的には不可能)の正式書体からひとつ。行書・草書の略式書体からひとつ、計二枚の規定条幅課題が必要になります。どのような書体が自分にとって一番表現しやすい作品かを理解することが大切です。難しいのは条幅臨書です。唐の楷書は欧陽詢が書いた”皇甫誕碑”の臨書であり、隋の智永の千字文の草書の臨書を選択となるとあまりに、直線的な作品と、曲線的な作品との振りの大きさに悩まされます。いずれを選択するのか、五か月の期間しかありませんので、しっかり選択と対策をしてください。実用書の毛筆楷書細字は、実用書の所感欄をお読みいただき、中指の用い方に留意しながら沢山お書きになることをお勧めします。
兎に角、めげないで前を向いてお稽古してください。

[岡田明洋記]

漢字規定部(月例課題)

中山 櫻徑
円運動を巧みに用い、懐の広い結体として力を発揮した。
和田 平吉
雁塔聖教序の俯仰法を手に入れ、唐楷の美しさを表現。
竹本 萩雲
重厚な線と穂先を用いた線が調和よく織り込まれた。
市川 章子
米芾を意識して、側筆を上手に表現した秀作。

条幅部

鈴木 藍泉
潤滑の変化に優れ、振りの大きな円運動が見事!
長野 青蘭
波磔の美しい八分隷書に仕上げた。これをベースに馬王堆へ
藤田 紫雲
草隷としての統一感は得た。更に紙面効果を考えて。
長野 天暁
ややおとなしい北魏楷書か?行意を加味したい。
【選出所感】
私の条幅校字帖なるノートには、①北魏楷書②隋の楷書(主に智永)③唐代楷書(主に欧陽詢)④興福寺断碑(③と④には、蘭亭序・十七帖・喪乱帖などを書き入れても良い。)⑤米芾⑥王鐸⑦秦から前漢の肉筆文字資料⑧漢代の石碑隷書⑨説文篆文が調べられ記入されています。その中の、書例がたくさんあるものを選んで、範書を創作するのですが、どこか肩に力が入っているといいましょうか、みなさんに見られることを前提にして筆を執っている自分がいるのです。
掲載された自分のお手本を見て、再度お弟子さんにもお手本を書くのですが、その時は楽しい揮毫がでてきます。お弟子さんの顔を見て、腕を見て、難しくしたり、易しくしたり表現方法を変えるのです。四季の書にお手本が開示されてから半月経て、心に余裕が生まれて書く。一人一人に各お手本が違ってよい。みんなちがってそれでよい。そんな気持ちで筆を執っています。

[岡田明洋記]

実用書部

鈴木 藍泉
智永の楷書が生きた細楷となった。温和のペン字も良い。
永嶋 妙漣
切れがあり、冴えた線。毛筆は筆圧を望む。
【選出所感】
始めての都道府県名楷書とペン字の行書課題でしたが、取り組んだ感想はどのようなものだったのでしょうか。
蘭亭序の臨書課題の方が楽だったという声を多く聞いています。考えてみますと、ペン字で臨書して、そのまま小筆に持ち替えて同じリズムで済んだのですが、楷書となりますと、三折の法を意識しなければなりません。つまり、起筆・送筆・収筆の運筆法を確認することが必要となってきます。小筆の場合、ほとんどの方が、単鉤法でしょうから、小筆の下に配置される中指の用い方を考えながら、操作することが必要となります。多くの方が、親指と人差し指の上から下へ力を入れることが勝って、起筆・送筆・収筆で線が太くなってしまいます。むしろ小筆の下になる中指の反作用の指の用い方に留意することのほうが大切なのです。横線と横線の間の感覚が均等になるためにも、中指を用い、筆管を立てながら、カッターで切るような鋭利な角度を用いてください。

[岡田明洋記]