2021年3月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

小田 一洗
敦煌漢簡をベースにして密度のある隷書作品とした。
伏見 桃苑
範書を参考にしての書き振り。結体の美しさ大いに佳し。
和田 平吉
北魏の張猛龍碑あたりの鋭利さ、エネルギーを表出した。
神戸 玉葉
馬王堆への関心が高まった今回の作。点画を大切に!
【選出所感】
選んだ作品は、私の範書をご覧になって書かれたものばかりでした。しかし一洗さんは常から意欲的に隷書作品で展覧会に出品されています。ただの私のものまねではないのです。漢隷の臨書の裏付があって「四季の書」に臨んでくれているのです。玉葉さんも、馬王堆風の作品だけではなく、同じ肉筆文字の居延漢簡の臨書にも間口を広げてくれています。平吉さんのこの書体に、張猛龍碑の臨書が加われば、更に雄渾な北魏楷書へと変貇していくと思います。桃苑さんは、本当に幅広くいろいろなものに挑戦してお稽古にたくさんの作品を持参してきます。自分探しをしている最中なのでしょう。

漢字規定部(特級以下)

末永 芽以
すっくと立った造型が若者らしさを表現した。
榎本 宏純
気脈も一貫し、紙面から穂先が離れることなく運筆した。
【選出所感】
多くの級の方が「四季の書」に参加していただき嬉しく思います。そのような中、わずか2点の狭き門の中、2月版と同じ方をあえて選ばせていただきました。この部門の方は、この2点を参考にして、上下を活用することを倣ってください。縦画を迷うことなく垂直に運筆できるようになれば、線に勢いが出ます。まずは、起筆で筆の下の指を意識するといいですね。単鉤法の方は、中指を筆管のほうに押し当てるようにすれば、穂先に弾力が生まれて、S字型になります。私はお弟子さんに、単鉤法の方は中指を、双鉤法の方には、薬指を意識して使うように指導しています。

条幅部

鈴木 藍泉
呉昌碩の画賛を臨書して、気韻生動の風に迫る作とした。
長野 天暁
謙慎サイズを半切に書き直し、筆力みなぎる雄渾な作。
濱田 芳竹
篆書から隷書に移行する文字を楽しく表現した。
瀧 芳泉
丹念な運筆で揺ぎのない隷書作。もう少し伸びを求む。
【選出所感】
今月の条幅部は、3月に東京で開催される謙慎書道展に出品した作品を小さく書き直した方の作品を選出しました。大きな紙(160cm×40cm)に書いたものを小さな紙(135cm×35cm)に書き直しました。原寸のお手本で書いたものを縮小したり、反対に拡大することで地力がつくと思います。40字の漢詩を書くとき、前半と後半を20字ずつに分けて半切に拡大して書くという方法をとると、筆力がつきます。行が曲がっているときなどすぐに悪い点が露呈されてしまいます。これは予習型の取り組みと言っていいでしょう。そして縮小して書く方法はまさに復習型です。できればお手本を見ずに書けたら良いですね。

臨書部

廣瀬 錦流
隋・唐の楷書を学んでいた力は衰えていない。均整美あり。
永嶋 妙漣
この作は張猛龍碑の流れをくむ皇甫誕碑となった。
【選出所感】
皇甫誕碑の臨書2回目ですが、起筆が厳しくなり、横画は鋭利ですっきりとした線で書いたものが多くなりました。縦画の長い線は、正に左真横から入るような形で、力強さを表現してあり、あっと驚くような大胆な打ち込みをした作品も多くありました。
一行目は、すべて単体であったことも行立てを容易なものにしてくれたでしょう。みなさん一行目はよくできていました。二行目はすべて複体であり、左払いが多くあったので、どうしても左に寄ってしまったようです。行間を詰めて右に寄せると作品全体が随分見やすくなったと思います。

随意部

藤田 紫雲
範書の居延漢簡を見ての学書。線の響きを求めよう。
大村 玲扇
風信帖を臨書して、王義之と顔真卿の二家を学び尽そう。
【選出所感】
随意部は、今後もっとスマホ版を多くしてあげたい部門です。新しく入会された春光会のみなさんは範書を見て一枚ずつ書いていただいてもいいですね。その中からご自分に合致したものを選んで、先生に相談されても良いと思います。一目惚れした古典作品と出会ったら書がもっと楽しくなります。
紫雲さんの作は、華扇さんの範書を見て書いたものですが、ご自身でも居延漢簡を勉強していますから、臨書眼の違いを発見したかもしれません。玲扇さんはご自身で風信帖をやりたいとおっしゃって臨書を進めています。どのような方法でも構いませんから、書道上の伴侶をお探しいただけると良いですね。

実用書部

伏見 桃苑
細筆の穂先の用い方、ペン字の懐の広さが見事です。
鈴木 藍泉
ボールペンを用い安定感のあるペン字作品とした。
【選出所感】
毛筆の細筆を用いなくても構いませんということで、開明の「墨抱」という純毛筆の筆ペンを紹介しました。いつでも、どこでも手軽に用いることによって、毛筆に慣れて頂ければと思います。同じ理由で、つけペンでなくボールペンを用いての出品でも構いません。桃苑さんは、墨色にも相当吟味された線に伸びが感じられます。つけペン使用で懐の広い蘭亭序と和歌で四行の調和がとれています。藍泉さんは、ボールペン使用の中にも線の強弱が表現されています。級の方は、少し早書きなのでしょうか。ペンのかわりにまず鉛筆で書いてみて、その上につけペンかボールペンでご自身で添削するつもりで、なぞり書きをしてみると自分の形の悪いところが分かると思います。是非お試しください。