2022年5月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(初段以上)

※作品は押すと単体で表示されます

長野 青蘭
漢碑のオーソドックスな結体に、木簡の動を入れた作。
中山 櫻徑
俯仰法の巧みなリズムを表現、更に俯に力を入れたい。
内海 理名
波磔に妙あり。更に規模雄大な運筆を探求しよう。
河合 紀子
字形に留意するだけでなく、流れを大切にした作。
【昇段試験対策】
手本の左上から、初唐楷書を規範にして書きました。特に九成宮醴泉銘のような理知的な構造性をもって書きたいと思いました。鋭利な起筆と背勢の構えが最大の特徴だと思います。「節」のタケカンムリは漢代の隷書では、クサカンムリと混同して使用した為に、それ以降もこの表現が多く用いられています。
行書は米芾を意識はしたものの、その特徴である左傾が上手に出来ているとは言えません。皆さんも左上の頭でっかち・重心を下にとることを考え、巧みに左傾スタイルの行書をお書きください。
草書は王鐸ベースですが、「新」と「節」を長脚の線で書いたのは失敗でした。少し「新」の最終画を短めにお書きください。円運動を用いて、気宇雄大な筆運びにしてください。
隷書は曹全碑調に少し木簡の率意を加味して表現しました。私たちは長いこと右上がりの文字を書いていましたので、水平に横線を引くのが大変です。右上がりの遺伝子をセーブして、波勢(波のような姿をした形)をしっかりと表現しましょう。
今回の課題は、どの書体であっても画数が多い字ばかりですので、あまり疎密の変化をつけることが出来ません。少し気を抜いたようなリラックスした線を入れることが必要かと思います。楷・行・草においては、字間が取れず紙面に対して目いっぱい書いてしまっていないか再度点検をしてみましょう。又、三体の文字の大きさをある程度統一して書くことも大切です。書体によって線の太さのばらつきや文字の大きさのばらつきがありすぎると美しくは感じません。三体の中で苦手な書体を克服するつもりで練習量を変えてみることも良いですね。皆さんの健闘を期待しております。

[岡田明洋記]

漢字規定部(特級以下)

望月 美由貴
切れ味の良さに魅了された。左払い少しゆっくり。
大場 愛
縦画の鋭さに目を引く。重心の取り方も大変良い。
【昇段試験対策】どの一字をとっても美しい造形ですので、比較的作品作りが容易な課題と言っても良いでしょう。楷書は智永の真草千字文から「賞・釣・魚」を集字しました。花だけは智永の真草千字文の中にありません。智永の真書(楷書)は時として偏と旁が接触しているものが多いですが、「釣」も懐の広い書き振りをしていました。みなさんも昇段試験だと言って固くならず、リラックスして筆を執ってください。そうすれば、伸びやかな表現になると思います。
行書は米芾を意識して書きました。幸いすべての米芾の字が新書源に載っています。一応、中国法書選の米芾集も見ましたが、最後は私の普段着の書き振りです。米芾を基に、王羲之や王鐸の字を入れてもいいと思います。行書は変化をつける書体ですので、色々試してみてください。
草書も智永の千字文ベースです。智永の草書より、縦長と左傾に特徴があるかもしれません。今年に入って、筆の進行方向に軸を傾けて進むようにと盛んに言っていますが、右上から左下に流れる線は、俯(陰)の筆の用い方をすると骨太な画になると思います。草書は「陰と陽」と口ずさみながら書くとリズムが出ると思います。
隷書は「魚」のみ張遷碑と曹全碑にあるだけで、あとの文字は漢碑では収録されていませんでした。清朝の鄧石如の「賞」、桂馥の「花」、隷辨の「釣」を用いましたが、最終的には、四文字の統一感を考慮しての創作となりました。
無難に、楷書・行書・草書で出品して頂けるのが、良いと思います。又、楷書は範書に頼らず、欧陽詢などの初唐楷書でも、北魏楷書でも構いませんので、実力を十二分にお出しください。

[岡田明洋記]

条幅部

鈴木 藍泉
先月に比して、横画の波磔がグーンと良くなりました。
赤澤 康代
オーソドックスな行書。力むことなく自然体で!
小田 一洗
やや硬質な感はするものの、横画への入木は流石!
竹本 楓
流れるような右回転の伸び、このまま連綿を生かそう。
【昇段試験対策】北魏楷書調はパソコン、スマートフォンなどでご覧になっても真っ黒な文字群であるので、まずは気を満ちたものにして紙に向かっていただきたいものです。墨池で墨を滴るようにつけ、筆を真っ平らにして、紙の起筆の位置まで移動します。筆を垂直にすれば、墨はポトポトと垂れてしまいますが、真横(真っ平)にすれば、意外と垂れずにいるものです。これはどの書体にも必要な技かもしれません。先生に墨量不足だよ、と言われたら是非この方法を試してみてください。
行書は主に米芾から集字しましたが、単体の為、気脈の一貫性を表現するのが難しいと思います。特に二行目の「帰何用」の一番ボリュームが欲しいところで、画数が少ないために貧弱になってしまうようです。墨量と字幅で何とか豊かな表現にしましょう。文字の傾き、つまりは左傾によって動の表現をしましょう。
草書はやはり、王羲之・王鐸がメインとなって、いわゆる連綿草書ということになります。行書と同じで、「帰何用」が寂しくならないようにしなければなりません。又どうしても二行目全体の字幅も狭くなってしまうようですので、行の振幅をなるべく同じにすると良いですね。
隷書をプリントアウトしたものを拝見しましたが、スマートフォンで見るよりも、紙面が横広すぎて、横画がとても長いように感じます、左右の余白と行間の白を意識して横画の長さを調整してみてください。隷書は水平・垂直・扁平に留意することが大切です。
七言二句の課題(条幅B)の方も、是非墨量を潤沢なものにしてください。一番筆を立てる必要があるのは、唐代楷書です。懸腕直筆という用筆法が大切になります。それ以外の書体は線の進む方向に軸を倒してみましょう。そのようにすると、”入木の精神”に満ちた豊かな線が引けるはずです。又、下段を小さく書かないこともポイントです。

[岡田明洋記]

臨書部

藤田 紫雲
やや、過剰表現はあるものの、筆意に自然感あり。
山木 曄真
原本に忠実な造形が貴族趣味に呼応した作。
【昇段試験対策】智永の関中本千字文でも、趙孟頫の行書でも共に、王羲之の書を崇拝している書人の作品ですので、気負うことなく、風韻を大切にしてお書きくださればよいと思います。
ちなみに関中本千字文は石に刻まれているものの拓本ですから、智永の肉筆とは言えません。文字は智永の字であっても、石に刻したものであり、ノミの影響があります。そして、石の状態も拓本をとるときに密に関係してきます。更に拓本を取った後の天候、紙、墨などの条件。何より採拓する人の技術の差で拓本の良しあしが決まってしまいます。肉筆である智永の真草千字文より、穏やかな印象を表現すること。更に言えば、虞世南の孔子廟堂碑のような丸みのある線質は見過ごさないで臨書してください。
趙孟頫の行書臨書は、半切で臨書した「前赤壁賦」でも半紙で書いた「後赤壁賦」でもどちらでも構いません。条幅作品を書く師範の方は、どちらかと言えば、線が太い「後赤壁賦」の方が、半切サイズに堂々とかくことが出来るのではないかと思います。どちらにしても王羲之書法の古法ですから「俯仰法」つまり「陰陽法」を用いて、縦画は手のひらを伏して、横画になれば、手のひらを左側にオープンにするような仰の状態を意識して運筆して頂ければよいと思います。

[岡田明洋記]

随意部

長野 天暁
墨だまりが効果的な作。気満の運動に磨きをかけたい。
廣瀬 錦流
隋の墓誌銘を丹念に表現。更に三折の法を鍛えるべし。
山田 淥苑
造像の粘りにほれたか?気満の意識を大切にしよう。
平野 衣里子
石に刻んだ、集王聖教序の臨書。俯仰法をしっかり学ぼう。
【選出所感】随意部の出品に5月末の規定課題を提出された方がおりました。そのようなことを推奨した文章を書いたので、それを実践してくださり、嬉しく思います。
級位の方は、先ずは楷書をきちんと書きたいという思いから書道を始めたのでしょうから、漢字規定部には、楷書を出品されたら良いと思います。そして毛先の扱い方になれたら、楷書と並行して、早い段階で行書をも習ったらよいと思います、課題を先取りすると言いますか、予習をすると言いますか。それを随意部に出品するのです。随意部と規定部はリンクしますので、随意部で掲載されたり、昇級したならば、規定の級も上がります。段に上がったときには、最低でも3つの書体が必要になりますので、早い時期から省略の書体にも慣れておくとよいと思います。
楷書しか書かないで、押し出しの筆遣いが多くなりますと、王羲之の古法という進行方向にすこし軸(筆管)を倒して書くという方法ができなくなります。単鉤法でも、双鉤法でも構いませんから、俯仰法を用いて王羲之の書き振りに触れる機会を多くしていただければと思います。

[岡田明洋記]

実用書部

長野 青蘭
筆圧の変化に優れ、流麗な作に仕上げました。
竹本 聖
ゆったりとした和歌。落ち着きのある運筆が魅力です。
【昇段試験対策】上半分が画数が少なく、下段に画数の多い字が集まっていますので、視覚的に見たら美しさに欠ける配字になってしまいます。純粋な臨書ではありませんので、上四字は少し大きめに書いて、下四字は小さめにすると行のまとまりが生まれるかもしれません。「既」の字は少し怪しいかもしれませんが、原帖のままに臨書しました。細字もペン字も蘭亭序は左傾を心掛けてください。そのためには。右上の空間が◥図のような空間を有しているかチェックしましょう。
ペン字で書くところは、一度、赤鉛筆で書いたあとを自分で手直しするつもりでペンで書けば鑑賞眼が高まります。今月の中学生硬筆部の昇段試験対策の文章を皆さんもお読みください。実線や点線を活用して文字の大きさ、字間の取り方がお手本と同じ位置に来ているかどうかを確認することです。
みなさんのペン字の線は細く感じます。細くてシャープな線が良いのですが、細さに弱さが加わってしまいます。ペンの角度は60度くらいになっていますか。少し立ちすぎているのではないでしょうか。また、ペン先のお腹が左手の方に開くような角度でしょうか。正しい持ち方をして、人差し指で筆圧を加減しながら、線の太い細いの変化をつけましょう。中指を伸ばすような感覚も大切です。人差し指が紙に作用する力なら、中指は反作用の力と言って良いかもしれません。親指で右上がりの方向、人差し指で強を、中指で繊細さを表現しましょう。

[岡田明洋記]