2024年11月 優秀作品【一般】

選者選評 岡田明洋

漢字規定部(師範合格者)

※作品は押すと単体で表示されます

川原 礼子
伸びやかな線と、行書の造形美がマッチした秀作。

漢字規定部(昇段試験合格者)

河合 紀子
三体ともよく書けていましたが、蘭亭序の臨が一押しです。
大場 愛
いずれも筆圧佳。北魏楷書に気満の精神があります。
植原 直子
やや硬い感じがするが、草書に懐の広さがあり佳。
望月 玲子
誠実な筆運びです。行書に遅速の変があってよい。
片瀬 仁美
鋭利なタッチが良い。特に行書は線の伸びが表現された。
佐藤 満弓
楷・行、端整な書。草には骨格の強さと潤渇の変化あり。
田村 奈穂
どの書体も伸びやかさがある。行書に王義之の流れあり。
生田 美穂
温和な書きぶり。特に行書にぬくもりを感じる。
【選出所感】
今年度の日展において、28回目の入選を果たすことが出来ませんでした。あるお弟子さんが「奥さんがお亡くなりになった時も入選できたのに残念ですね。」となぐさめてくださいました。
五人の子供たちに「どうせという言葉は使うな!」といつも言ってきたのに、今回の作品制作の裏には、いつも「どうせ・・・」と思っていたような気がします。・・・はここに記すことは憚られますが、いくつもありました。9年連続で入選してできていたのに、通知の中の遺憾ながらの文言を改めて目にしたときは、悔しさで一杯となりました。
1976年、大学2年の時に、謙慎書道展で西川寧先生が書かれた「臨馬王堆帛書五十二病方」を旧の東京都立美術館で拝見した時の感動を忘れることはできません。青銅器に鋳られた書ではなく、石に刻された書ではない、帛に毛筆で書かれたものに、今後の書の在り方が潜んでいるのでは、と胸躍らせた時の思いを来年は筆に託したいと思います。
みなさんも「どうせ」とは思わず、来季は全員昇段試験合格を目指していただきたいと思います。そのような中、川原礼子さんが、師範合格をされました。今後は本当に自分探しです。私が肉筆文字にあこがれたようにどのような古典を好きになり、それをどのように表現していくかが大切となります。精進を期待しています。

[岡田明洋]

漢字規定部(月例課題)

永嶋 妙漣
理知的な北魏楷書とした。さらに筆圧の変化を望みます。
天野 恵
智永を思わせる柔和な書きぶり。墨の入りも良い。
長野 天暁
米芾を意識しての創作か?字形に安定感がある。
市川 章子
リズミカルな草書。渇筆の表現も大いに佳。

条幅部

藤田 紫雲
居延漢簡を集字しての創作。もう少し草意が欲しかった。
鈴木 藍泉
巻子を意識しての米芾の臨書。落款にも強弱を欲す。
小野 幸穂
九成宮醴泉銘の臨書。端正な書きぶり佳。乎~宮少し大きく。
小柳 奈摘
誠実な史晨碑の臨書。下半分もう少し元気よく書きたい。
【選出所感】
8月の「四季の書」の条幅部の選出所感に”自分探しのための半切臨書に臨んでいただければと思います。それも、私のコンタクトレンズ(比喩です。お手本のことです)をつけることなく、自分の眼を頼りに臨書をしてみてください。”と書きましたが、これがなかなか大変なようです。
やはり、視力(眼科の検査ではありません。鑑賞眼のことです。)を鍛えるためには、私ならこう見ます、ということを指摘してやらなければならないようです。
生徒さんには、法帖、原帖などをまずは、自分の目で見たまま半紙に六文字臨書をしてもらいます。文字の大きさ、線の長短や角度・空間の広さ・文字と文字の間隔(つまり文字の大きさと字間の比較)・線の起筆と収筆の形状による筆の入り方終わり方の把握・墨のつけ方・線の潤渇などチェック項目はいくつもあります。そんなことを話した後に、参考手本を半紙に三枚書いてあげます。私の書いたものを見て半切に仕立て、今度は原帖を見て、その繰り返しです。

[岡田明洋]

実用書部

内海 理名
規則正しい運筆はすべての体にあり。懐の広さも大佳。
長尾 武
自分のリズム、呼吸で書き上げた細字。やや大きく書こう。
【選出所感】
子供達には、一に姿勢、二に持ち方、三に筆順(書き順)と常に言っています。
姿勢は背筋を伸ばして、無用な力を入れず、自然な姿勢で、体を左に傾けないことです。足をクロスしたり、伸ばしたりしてはいけません。持ち方は細字・ペン字とも小さな文字ですので、人差し指が一本上に出る単鉤法という持ち方がよいでしょう。筆管・ペン軸が人差し指の第二間接にあてるようにします。このようにして、爪から第二間接までの力が筆管や軸に触れるようにすれば、「鳥のくちばし」のようにはなりません。筆管や軸と親指での間に、指が二本はいれば、手のひらに卵が入るような空間が生じます。これを先人は実指虚掌(じっしきょしょう)といって、指先に力を入れるが、手のひらは固く握り占めることがないようにと、説いています。筆順は、日本では文部科学省が「学習指導要領」に基づいて、明確に示されています。もちろん、上のように古典の筆順と異なるものもありますが、成・可・区など筆順が違うと造形的におかしなものとなってしまうものも多くあります。細字では、別・臼。和歌では、無・庭・葉に注意してください。

[岡田明洋]